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うりぼう

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「はいはーい!おしゃれチャレンジが良いと思いまーす!」

夏休みが終わり、まだまだ暑さが残る季節。
学園祭の出し物を話し合っている最中、クラスメイトから飛び出した単語にきょとんと目を瞬かせたのは俺だけではないはずだ。
案を出したのはクラスでも目立つグループの一人のギャル。
疑問を口にしたのも、同じく目立つグループにいる男だった。

「何それ?ファッションショーみたいなやつ?」
「あれ、知らない?土曜の朝にやってるやつだよ」
「あー知ってる!仕事とかで忙しくておしゃれも出来ない女の人を番組で変身させちゃうぞ!ってやつだよな?」
「あー!何か見た事ある!」
「でも学祭の出し物にそれって結構大変じゃね?」
「当日実際にやるのはヘアメイクとかマニキュアとかで良いんじゃない?」
「じゃあそのデモンストレーションで誰か一人先に変身させて、こんなに変われるんですよーっての見せれば良いじゃん!」
「良いなそれ!前夜祭の時に宣伝でステージに上がってアピールすればいいしな!」

わいわいと途端に盛り上がる教室内。
良いじゃん良いじゃんとあれよあれよという間に出し物が決まり、次いで誰を変身させるかという話し合いに移った。

(まあ俺には関係ないな)

自他共に認める超地味っこである俺だったが、他にも地味な奴らはいる。
というよりもこんな企画は女の子が主役のはずだ。
例のテレビのやつだってほとんどが女の子メインだった。

(俺は裏方に徹しよう)

うんうん、それが良い。
どうせ当日のメイクやら何やらはあのグループの女子達がやるのだろうし、受付もそこの男子達がやった方が集客が見込めるだろう。
特に……

「なあ啓介、お前は誰が良いと思う?」
「んー誰だろうなあ」

その名前が出た途端にクラス中の空気が変わる。
女子ばかりか一部の男子までもがそわそわとし始めた。

(相変わらずの色男だな)

矢野啓介(やのけいすけ)というこの男はクラスはもちろん学校中で有名だ。
身長187cm、体重79kg、茶色く染められた髪の隙間から覗く瞳には男子高校生とは思えない程の色気が含まれている。
薄い唇を開けば心地良く響く低い声。
節目の目立つ手は大きく、一度だけ偶然触れた事のあるそれは凄く温かかった。
休みの日は趣味のフットサル、グループでカラオケや海やバーベキューなどに出掛ける絵に描いたような第一軍。
二軍にも三軍にも所属出来ない底辺中の底辺である俺とは真逆の存在だ。
そんな彼の事を、俺はひっそりと想っている。
体重まで把握してるなんて我ながら気持ち悪い。

(俺なんて相手にされないってわかってるけど)

こっそり見るくらいなら良いだろう。
俺とは違い、こっそり見るだけでは飽き足らない女子達は自分が選ばれるのではないかとどきどきしているはず。
でも、確かに矢野は誰を選ぶんだろう。
まあでも、こういうのに選ばれるのは何だかんだいって元々が可愛いけれど大人しくて、目立つグループには入れないけれど男子からは人気があるマドンナ的な子が選ばれるんだよな。
実はこのクラスにも一人、そういう子がいる。
眼鏡をかけていて真っ黒で艶やかな髪を三つ編みにして制服の乱れは一切なしスカートを短くすることもなし、大人しいけれどちゃんと自分の意見は言えて、人によって態度も変えないからギャル達ともオタク連中とも普通に笑顔で話せる、田辺友梨(たなべゆり)という女の子だ。
ちらりとその席を見ると、普通にしているように見えてどことなくそわそわしているようにも見える。

(田辺さんも選ばれたいのかな?)

矢野に名前を呼ばれたら嬉しいだろうな。

『真壁』
「真壁かなあ」

ははっ、笑える。
頭の中の声と現実の声がシンクロしてる。
矢野が俺の名前なんて呼ぶはずないのに。

(……って、ん?)

思わず矢野の方を見ると、矢野はもう一度はっきりと告げる。

「俺は、真壁が良いと思うな」
「え」
「「「えええええ!?」」」

まさかの指名に、クラス中に驚きの声が響き渡った。

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