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うりぼう

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※啓介視点


俺は、バカだ。
正真正銘のバカだ。

水くさい?
言ってくれれば良かったのに?
何でも協力する?
バカなの?
そんなつもりさらさらないくせに。
一也を自分だけのものにしたくて堪らないくせに。

一也と安積をくっつける手助けなんでしたくない。
一也の為なら何でもするというのが唯一の本音だ。

(はあああ……)

あんな事言うつもりはなかった。
それが、つい嫉妬にかられて余計な……いや、余計すぎる事を言ってしまった。
それに……

『元の関係に戻ろう?』
『矢野』

名字で呼ばれた時、心臓が止まるかと思った。
もっと仲良くなりたいから、一也にも名前を呼んで欲しいからとねだってやっと呼んでもらっていたのに。
一也の声で名前を呼ばれるのは嬉しくて、心地良くて、もうそれだけでも満足だったのに。
少しずつ距離を詰めて、やっと想いを伝える決意をしたのに。
それなのに。

「……けーすけー大丈夫かあ?」
「さっきから変じゃない?」
「ぼーっとしちゃって」
「疲れが出たのか?」

机に突っ伏し使い物にならない俺に周りが声をかけてくる。
もうそろそろお客さん達が入ってくる頃だろう。
気合いを入れなければ。
でも、ショックが強すぎて動けない。

「なあなあ、ほんとにどうしちゃったんだよ?昨日友梨ちゃんに告白されたんだろ?今頃うっきうきなんじゃねーの?」

告白……ああ、そういえばそんな事もされたな。
一也に見られていた衝撃ですっかり忘れてた。

「もう返事した?なあ教えてくれよー!」
「あんたマジでちょっと空気読みなよ」
「そうそう、返事なんて本人が一番先に聞きたいもんでしょ!」
「ついに啓介も彼女持ちかあ、またあたしらと遊んでくれない日が続くんだねー」
「ええー!やだー!遊ぼうよ啓介ー!」
「やだやだ彼女出来ても俺も一緒に遊ぶー!」
「……あんた、あわよくば友梨ちゃんと、とか思ってないでしょうね」
「そ、そんなことないデスヨー」
「うっわー!最低!!」
「……啓介、真壁のことは諦めるのか?」
「!」

周りが騒ぐ中、蓮二がぼそりと呟く。

「え?真壁って……」
「なんで真壁くん?」
「確かに最近ずっと連んでたけどさー」

え、待て。
ちょっと待て。
まさか蓮二のやつ……

「だって、啓介が好きなのは真壁だろ?」
「!!!!!」 

まさかと思ったそのまさか。
さらりと爆弾を投下する蓮二に驚いたのは俺だけじゃない。
俺以外の三人の声が綺麗にハモり大きな悲鳴があげられた。

「「「えええええええ!?」」」
「?みんな知らなかったのか?」
「ちょ、ま……!は!?」
「え?え?啓介ってそうだったの!?」
「あ……!だから真壁くんの服とか見に行くのにあたしら呼んでくれなかったの!?二人っきりになりたかったから!?」
「う、いや、その……!」

三人から問い詰められて困る。
ここに俺達以外誰もいなくて良かった。
ていうか蓮二に気付かれているとは思わなかった。

「えー!?いつから!?やだちょっと教えてよー!」
「そうだよ!知ってたら色々もっと協力出来たのに!」
「……っ」

真由香と愛莉のセリフが自分の言ったのと全く同じで胸の痛みが復活する。

「……悪い、みんな知らなかったんだな」
「知らなかったよー!知ってたら友梨ちゃんとの橋渡しなんてしなかったし!」
「もー!あたし達チョー余計なお世話じゃん!!何で昨日言ってくれなかったの!?」
「啓介ならすぐ断るだろうと思ってたし、気持ちを伝えるのは邪魔出来ないだろ?」
「そりゃそうだけど……」
「啓介が真壁を好きってことは、よっしゃあああ友梨ちゃんとお近付きになれるチャンスが俺に!」
「うっさい譲!」
「今それどころじゃないっしょ!!」
「……ていうか、引かないんだな」

男が男を好きなのに引かないことにびっくりだ。
反応があまりにも普通すぎる。

「?引く要素あった?」
「え、わかんない」

きょとんと目を瞬かせる真由香と愛莉。
そうだった、こいつらこういう奴だった。

「オマエらアホだなー男同士だからに決まってんだろ?」
「はあ?バカにアホとか言われたくないんですけど」
「マジ黙ってて」
「バカじゃねーし!!」
「そうだな、譲は頭が弱いだけだからな」
「そうそうっておーい!!蓮二!!」

いつもの軽い掛け合いに自然と笑みが浮かぶ。
それに気付いた三人がホッとしているのを見て、俺は友達に恵まれてるんだなと今更ながら実感した。

「で?真壁くんとはどこまで?」
「どんな感じ?どこが好きなの?」

興味津々に尋ねてくる真由香と愛莉。
一也の好きなところなんて語り始めたら止まらない。 

目を細めて全力で笑う顔が好き。
照れた時のはにかむような笑顔が好き。
穏やかに耳に届く声が好き。
あの声で名前を呼ばれるとそれだけで一日中笑顔で過ごせるくらいだ。
優しいところが好き。
ちょっとしたズルは見逃しても、誰かが犠牲になるような事は許さない程良い正義感も心地良い。
一也はどちらかというと聞き上手で、何でも真剣に話を聞いてくれる。
人に頼まれたら断れなくて、この前も先生に実験室の片付けの手伝いを頼まれていた。
艶々の髪の毛からは良い匂いがするし、同じ制服を着ているのに一也が着ると別の物を着ているみたいで凄く可愛い。

まだまだ一也の好きなところはたくさんある。
たくさんあるのだが……

「一也の事は、もう終わったんだ」
「え?」
「……もう、どうしようもない」

溜め息と共に漏れる俺の声。
こんなに情けない声初めてだ。
こんなに誰かを想ったのも、嫌われてこんなにショックなのも初めて。

きっと、もう一也は俺を見てくれない。
名前も呼んでくれない。
一也にとって、俺はただのクラスメイトの一人に戻ってしまったのだ。

「……啓介、話だけでも聞くよ?」
「うん、まだ少しなら時間あるし。話したら少しは楽になるかもよ?」
「真由香、愛莉……」

そう、だな。
話すだけでも楽になるかもしれない。
そう思い、話を始める。
昨日何があって、今朝何があったのか。
それらを掻い摘んで説明した。

「そっか……」
「なんていうか……」

話を聞き終えた二人がそこまで言って黙る。
何と言っていいのがわからないのだろう。
別にそれでも良い。
ほんの少し、本当にほんの少しだけど気分は楽になった。

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