矢印の方向

うりぼう

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※啓介視点


(まずい、まずいまずい、絶対誤解された!)

賭けのことを知られたのもそうだけど、それよりも俺が田辺さんを好きだと思われていては堪らない。
違うのに。
俺が好きなのは一也だけなのに。

誤解を解かなくては。
すぐに追い掛けて捕まえて事情を説明すれば一也はきっとわかってくれる。

(そうだ!追い掛けないと!)

呆然としてしまい足を動かすのを忘れていた。
すぐに教室を飛び出し一也を探す。

(どこだ?まさかもう校舎出ちゃった?いや、でも……)

これは完全に勘だが、一也はまだ校内にいる気がする。
そう思い校内を探しまくっていると……

(いた、けど……)

やっと見つけた一也は一人じゃなかった。
一緒にいるのは確か幼馴染だとかいう安積だ。

(何だよ、何そいつに抱き締められてんの?何で泣いてんの?)

安積に寄り添うように持たれる一也とその背に手を回している安積。
それだけでも嫉妬に駆られるというのに、一也のセリフに衝撃を受けた。

「好き、ずっと好きだった」
「知ってる」
「受け入れてくれなくても良い、何も言わないし、何もいらないから……このまま好きでいるくらいは、許してくれるよな?」
「……ああ」
「……っ、ありがと」

どういう事だ?
一也はあいつが好きなのか?
何で?どうして?

一也は俺の事が好きだったんじゃないの?
なのに何でそんな奴に泣きながら抱きついてごめんなんて言ってるの?
本当はそいつの事が好きだったの?
ずっと?
ずっとって、小さい頃からって事?
さっき言ってた『用事』ってもしかしてあいつとのことか?

「はっ、だせえ」

何だ、誤解を解く必要なんてないじゃん。

勘違いだった。
良い感じだと思っていたのも、お互いにお互いを想っていると、矢印の方向がきちんと向いていると思っていたのも。
こちらを見るあの熱の籠もった瞳も。
呼べば嬉しそうに振り向くあの笑顔も。
甘さを含んだ声も。
全部自分の都合の良いように捕らえた幻想だったんだ。

(一也は、俺の事なんて……)

認めたくない事実を突き付けられ拳を強く握る俺を、安積が冷たい目で見ていた事には気付かなかった












※一也視点


(久しぶりに大泣きしてしまった)

啓介に失恋して、恋愛対象どころか友人のゆの字にすらなっていないという事実に打ちのめされタガが外れてしまった。
よっちゃんにも迷惑かけちゃったなあ。

(明日、行きたくないな)

啓介と会うのが気まずい。
啓介と田辺さんが一緒にいる所も見たくない。
いっそ休んでしまおうか。

(……ダメだよなあ)

ここで逃げてもまた次がある。
同じクラスなんだから毎日顔を合わせるんだから、気まずいのはさっさと済ませてしまった方が良い。

教室に入れば他の人の目もあるし、そんなに気まずくはならないはずだ。
大丈夫、大丈夫。
俺の勘違いと思い込みで調子に乗った罰だ。
ただ失恋しただけ。

とはいえ心の準備は必要で、いつもよりかなり早く学校へ着いてしまった。
今日も部活は休みで、自主練をしている生徒が何人かいるだけ。
いつもより静かな校庭を突っ切り玄関を抜け自分の下駄箱へ向かうと。

「……あ」
「……あ」

そこでばったりと、啓介に会ってしまった。
みんなの前で会う覚悟はしていたが、こうして二人きりで、しかも不意打ちのように会う覚悟なんて出来ているはずもない。
気まずい。
でも無視するわけにはいかない。
啓介は何か言いたげに、けれど少し気まずそうにこちらを見つめている。

「……」
「……おはよう」

どんな相手でも挨拶だけはちゃんとしなさいと幼い頃から祖母に躾けられていたからか、気まずいままでも自然と口を開いてしまった。
でも二の句が継げない。
そのまま啓介の前を通って先に行こうとすると……

「好きな人、いたんだ?」
「え?」

小さい声だが、はっきりとそう聞かれた。

「いるんだよね?昨日、話してたの聞いた」
「……っ」

昨日って、昨日?
まさか、よっちゃんに話していたことを聞かれたのか?
ということはあの後すぐ追い掛けてきてくれたのか?
俺が啓介を好きだと、本人に知られてしまったのだろうか。

「それって、安積なんだよな?」
「……え?」

よっちゃん?
どうしてよっちゃんが?
……ああ、昨日一緒のところを見られて誤解されたのか。
話を全部聞かれたわけではないようで安心する。

確かにあの状況なら誤解されても仕方がないよな。
でもこのままだとよっちゃんにまで迷惑がかかってしまう。
ひとまず相手だけは否定しなければと思ったのだが。

「水くさいなあ、教えてくれれば良かったのに」
「……え?」

続けて言われたことに否定が出来なくなってしまった。
教えてくれれば良かったのにって。
その意味がわからない程鈍感じゃない。

「教えてくれたら何でも協力したのに」
「……っ 」

何でも、協力してくれる?
啓介が?
俺が、俺の好きな相手とどうにかなる事を?

ずきりと、治ったはずの胸の痛みが復活してくる。

「ほら、昨日まで全然気付けなかったし、むしろ俺の方が一也と安積の仲邪魔してたよな?だからその罪滅ぼしっていうか……」

痛みが一気に増していく。
自分が全くの対象外であると言われているようなものだ。

「……本当に?」

胸が痛い。
上手く息が吸えない。

「本当に、協力してくれんの?」

やっとで搾り出した声は僅かに震えている。

協力なんて、バカバカしい。
俺の好きな人は啓介なのに、その張本人が何を協力してくれるっていうんだ。
今までみたいに優しくして、今度は恋人ごっこにでも付き合ってくれるというのか。

ほんの数秒もないのに長く感じる。
口を開いた啓介の返事は……

「……もちろん、何でもするよ。一也の為なら」
「……っ」

最悪だ。
どこまで俺を追い詰めるんだ。
なんて、自分で聞いた事への返事に自分で勝手に傷付く。

やっぱり、俺は啓介にとってただのクラスメートで、ほんの数週間だけを一緒に過ごしただけの存在で、誰と付き合おうが何をしようが関係ないんだな。
俺にとっての啓介は、生まれて初めて好きになった人で、誰にも渡したくないと、ほんの少し誰かが触れただけでも目眩がしそうなくらいに溺れているのに。

気持ちの差がこんなにも大きいのが辛い。

俯き、零れ落ちそうな滴と漏れそうな嗚咽を堪えるために目をぎゅっと瞑り呼吸を止める。
大きく息を吸い込み、震えている事を気付かれないように言葉を紡ぐ。

「……啓介に」
「ん?」
「啓介に協力してもらえる事なんてない。啓介が俺に出来ることなんて、何もないよ」

俺が望んでいるのは啓介と好き合う事なんだから。

「そんな事ないだろ?何か……」
「これは俺自身の問題だから」
「……」
「それに、啓介はもう俺に構わなくても良いんだよ」

無理して俺に構う必要なんてない。
今日の本番が終わればもう何の責任も負わなくて良いのだ。

「元の関係に戻ろう?」
「元って……」
「わかってるだろ?」

啓介はクラスの中心、日の当たる明るい場所に。
そして俺はクラスの隅っこで、たまに光の方を羨ましそうに見つめる。
用事がなければ話す事もない。
ただ俺が、強い光に焦がれ続けるだけ。

「大丈夫、すぐに慣れるよ」

元々接点なんてなかったんだから。

「待って、一也」
「……先に行くね、矢野」
「……っ」

久しぶりに呼んだ彼の名字は、知らない誰かのようだった。



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