矢印の方向

うりぼう

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(っ、何で、動かないんだよ……!)

やはり手が動かせない。
金縛りにあったかのように全身動かせずただただ固まる。

だが結果として、俺が啓介の返事を聞く事はなかった。
何故ならば、田辺さんがそれを遮ったから。

「あ、あのね!返事はいつでもいいの!」
「え?」
「ゆっくり、考えてくれると嬉しい」
「……わかった」
「困らせてごめんね、じゃあ、また明日」
「うん、また明日」

田辺さんが出て行く気配がして、啓介の溜め息が聞こえる。
断られると思ってるんだろうな。
だからこそ聞きたくない返事を先延ばしにする為に言葉を遮ったに違いない。

「……答えなんて決まってるのに」
「……っ」

それは、田辺さんを受け入れるってこと?
そうだよな、好き同士なら、男と女なら何の弊害もない。
手を繋いで歩いても、何の違和感もない。

(やだ、嫌だ、そんなの……っ)

でも、こんな風に嫌だと考える資格すらきっと俺にはない。
だって、俺は友人ですらなかった。
たかが賭けに利用されただけの、啓介にとっては大勢いるクラスメイトの一人でしかない。
手を繋いでくれたのは何でだろう。
もしかして、俺の気持ちに気付いてて引き止める為にしたのだろうか。
あんなに嬉しかったのに。
あれも嘘だったのか。

それを自覚した途端に胸の痛みが更に増していく。
そして、その拍子にカタリと小さな音を立ててしまった。

「あ……っ」
「!誰かいるの?」

衝立のこちら側に啓介が来る気配がする。

「……!い、一也!?」

俺の姿に啓介が目を瞠る。

「い、今の、聞いてた?」
「……ごめん、聞くつもりはなかったんだけど」

視線さまよわせる啓介。
気まずいよな。
わかるよ、だって聞かれたくない事を聞かれたんだから。

「その、いつからそこに……?」
「みんなが、戻ってくる前から」
「……嘘だろ」

呆然と呟き、額に手を当てる啓介。
どんな言い訳をしようかと必死に頭を回転させているのだろう。
そんな必要ないのに。

「いや、あのな、その……」
「いいよ!」
「え?」

俺も、田辺さんと同じ。
啓介の口から、実は賭けの為だった。
お守りはもうごめんだと聞きたくなくて、どんな嘘の言い訳だって俺は信じてしまうからそれも聞きたくなくて啓介のセリフを遮る。

「なんか、あるんだろうなってのはわかってたし……それにほら、俺も楽しかったし」
「……一也?」

声が震えていないだろうか。

「ははっ、啓介みたいな人が、俺なんかに声掛けるのおかしいと思ってたんだよ。だから賭けの事とかも納得した」
「待って、いち……」
「俺、気にしてないから!ていうか今まで大変だったよな?面倒だったよな?俺、そういう気が効かなくて、つい楽しくて啓介の時間いっぱい取っちゃってたよな……ごめん」
「そんなことない!」
「ううん、そんなことあるよ」
「一也、俺は……」
「ごめん、俺、この後用事あるから」
「待って、一也!」

衣装をそのままにその場から走り去る。
用事なんてない。
背後から啓介の引き止めるような声がしたが振り返らずにそのまま進む。

(あーあ、あーあ、あと一日だったのに)

本当は、明日、全てが終わったら伝えようと思っていた。
自分の気持ちの全てを啓介に伝えるつもりだった。
でももう出来ない。

あとたった一日だけだったのに。
でも、告白する前で良かったのかもしれない。
告白をした後だったらもっと辛かったかもしれない。
それに、啓介は優しいから賭けの対象である俺に好かれてたと知ったら、断るのにも気を使ってしまったかも。

(うん、そうだ、告白する前で良かった)

途中で走るのを止め、呼吸を整えると視界が歪んできた。

「……っ」

小さく嗚咽が漏れる。
学校の、廊下のど真ん中で泣くなんて情けない。
でももう誰もいないから良いよな、ちょっとくらい。

乱暴に涙を拭い、それでもまだ溢れる涙が廊下に落ちて弾かれていく。
そこへ……

「一也?こんなとこで何してるんだ?」
「……よっちゃん?」

後ろから声を掛けられる。

「どうしたの?まだいたんだ?」
「ああ、学園祭だから部活禁止だろ?自主練してた」
「自主練?偉いなあ、よっちゃん」
「ていうか、お前なんか声おかしく……」

ないか、と続くはずだった声は、俺の正面に回ったことでぴたりと止まる。

「……何があった?」
「……よっちゃん」

幼なじみの顔を見た途端に、涙の粒が大きくなる。
さっきまでの比じゃない。
ぼたぼたと音を立てて滝のように溢れてくる。

「……一也、こっち来い」
「んっ」

よっちゃんは何も聞かず、慣れた手付きで俺を引き寄せ胸元に誘導してくれる。
小さい頃から、俺が泣くとよっちゃんはこうして慰めてくれてた。
同い年なのに頼り甲斐があって、妙に安心する。
ゆっくり背中撫でてくれる手に少しずつ涙は落ち着いてきたが、涙の代わりに想いが溢れ出した。

「……矢野か?」

呟かれた名前に小さく頷く。

「……俺、わかってたんだ。俺に興味あるわけないって、わかってたんだよ最初から」
「ああ」

話の始まりも終わりもめちゃくちゃな俺の話をよっちゃんは静かに聞いてくれる。

「元々ありえなかったんだよな、啓介が俺に構うなんて」
「でも好きなんだろ?」
「っ、うん……好き、ずっと好きだった」
「知ってる」
「受け入れてくれなくても良い、何も言わないし、何もいらないから、このまま好きでいるくらいは、許してくれるよな?」
「……ああ」
「……っ、ありがと」

よっちゃんに許可を貰う意味なんてない。
俺の気持ちは俺の物だし、啓介への気持ちをよっちゃんに託したところでどうしようもない。
それをよっちゃんも当然わかっているけれど、不思議と俺が欲しいと思った言葉をくれる。
もう諦めろと言われたら俺はどうして良いかわからず途方にくれていただろう。
啓介の代わりに頷いてくれたよっちゃんの背に縋り付くように腕を回し、激しい胸の痛みに耐え続けた。

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