ワンナイトのセフレかと思ったら彼氏でした

あと

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高級そうなおしゃれなレストランだった。
重厚な木の扉を開けて、彼に軽く背を押されながら中へ。店内は落ち着いた照明で、どこを切り取っても絵になるような空間だった。

「どうぞ」

当然のように椅子を引かれ、エスコートされる。そんな経験初めてだから、ちょっと落ち着かない。

頼んだパスタは驚くほど美味しかった。今まで食べた中で一番かもしれない。

「どう?」

拓人は、わざわざ僕の表情を覗き込むように訊ねてくる。

「……美味しいです」

素直に答えると、彼は満足げに微笑んだ。

食べながら雑談をすると、色々分かってきた。
彼は法学部の4年。検事志望で、つい先日司法試験予備試験に受かったところ。親は両方とも医者で、なるほど羽振りの良さも納得だ。あの高級車に乗れるだけはあるだろう。

僕も色々聞かれたから、答えられる範囲は全部答えた。特に隠すこともない。

「へぇ、文学部なんだ。日本文学専攻? なら友達いるかも。〇〇って知ってる?」

「ああ……〇〇ならグループワーク一緒でした」

「そうだったんだ! いいやつだったでしょ?」

「まあ、はい、そう……ですね」

いちいち丁寧にリアクションしてくれる。顔広いし、会話も上手い。やっぱり格が違う。完全に“陽キャ上位種”って感じだ。

ふと、疑問が口をついて出た。

「あの……なんでアプリなんかやってたんですか?」

「うん? 決まってるだろう、出会いのため。」

さらりと言われて、僕は眉をひそめる。出会い……つまり都合のいい人探し、だろうか。

「いえ……あなたほどの人なら、相手いそうなのにって思って」

事実だ。彼が大学で「セフレ募集」なんて冗談半分にでも言えば、立候補する人はいくらでもいるはずだ。それこそ取り合いに発生しそうなくらいだ。

「前の彼女とは別れたばっかだったから。周囲だけだと偏ると思ってね。 気まずさもあるしね」

まあ確かに周囲でくっついた別れたを繰り返してると気まずいだろなぁ。特にセフレが周囲にいるとか気まずそう

「……へぇ、そうなんだ。というか彼女、いたんだ」

意外だった。セフレばっかりで本命は作らないタイプだと思っていたのに。

「……あれ? 妬いてる? 可愛いなぁ」

彼はふっと口角を上げて、紅茶を口に運ぶ。

「いえ。違います」

僕はきっぱり否定する。いや、単に驚いただけです。本命を作るタイプだと思ってなかったから。

でも彼は、僕の否定なんてまるで聞こえていないみたいに続けた。

「妬かれるの、悪くないね。海くんがそうやって俺に反応してくれると……もっと欲しくなる」

……その言葉に、一瞬、背筋が冷えた。

彼の笑顔は柔らかいのに、視線の奥に何か鋭いものがある気がする。
甘い言葉で包みながら、じわじわ絡め取られているような。
  
「ねぇ、そろそろ敬語やめない? 俺ら同い年でしょ?」

「……わ、わかった」

別に敬語にこだわりはなかった。なんとなく距離を取っていただけだ。

でも、それをわざわざ指摘してくるあたり——彼は本当に、僕との距離をゼロにしたがっているのかもしれない。

「うん、その方がいい。海くんが“対等”でいてくれるの、嬉しいな」

そう言って、紅茶のカップを口に運ぶ拓人。
その笑みは穏やかなのに、どこかぞくりとするほどの執着を秘めていた。

拓人はワイングラスを指でなぞるみたいに、スプーンをいじりながら、僕をじっと見てきた。

「……海くんってさ、ほんとに人を油断させるよね」

「え? そうかな」

「そう。無防備で、正直で……すぐ俺に全部話してくれる」

「まあ、隠すことでもないし」

僕は肩をすくめる。
でも拓人は、満足そうに微笑みながら身を乗り出してきた。

「だから余計に欲しくなる。君みたいなの、放っておけない」

甘い声色なのに、どこか熱っぽい。
冗談半分に言ってると思いたいけど、視線は笑っていない。

「……そんな大げさな」

「大げさじゃないよ。昨日もう手放せないって思った」

「え……」

思わず紅茶を持つ手が止まる。だからセフレに何言ってるんだ……?冗談? 軽口? でも……彼の眼差しは妙に真剣だ。

「俺、欲張りだから。君の時間も、笑顔も、全部欲しい。……他の誰にもあげたくない」

「……はは、怖いこと言うなぁ」

軽く笑ってみせたつもりだった。けれど心臓が少し跳ねたのを自覚して、むしろ余計に意識してしまう。
拓人は僕の反応なんて気にしていないらしく、柔らかく笑った。その笑みは甘くて、けれどどこか鋭さが潜んでいて、僕の背筋をぞくりと撫でた。
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