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3.作戦開始!
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『今日家行ってもいい?』
俺は郁也にメッセージを送った。
『ごめん……。』
……やっぱり無理か。郁也はなぜかを俺を部屋に入れたがらない。名前呼びもされないし家にも呼ばれないし、俺って一体なんなんだ。
『わかった。じゃあ俺の家来て。』
『今日は予定あって遅れるけど、いいかな?』
『うん!』
……計画通り。俺は夜○月ばりに悪い顔をしていた。内心、その予定が何か気にならないわけではないが、追求したら「うざい恋人」確定だ。そんなのは魅力的ではない。
『全然いいよ!家で待ってる!』
そこまで返信を叩きつけると、俺は戦場へ向かう足取りで彼の家へ向かった。
——
「ただいま…待たせてごめんね……」
数時間後、郁也が疲れきった様子で帰ってきた。
「おかえり!」
「……え?」
玄関で俺を迎えた郁也が、石のように固まった。当然だ。
今の俺は、フリルたっぷりのメイド服を着ているのだから。しかも、ミニスカで露出多めのやつ。
「な、何してんの…?」
「えへへ。おかえりなさいませご主人様♡」
チャッキー直伝、魅力的な人になる方法その1。エロい格好で理性を揺さぶる。
『清楚なあなたも素敵ですが、刺激も必要です』と言われたら、従うしかない。
正直、鏡を見るたびに死にたくなったが、ショッピングサイトで「即日発送」をポチった俺の覚悟は本物だった。布地はピチピチだ。
「どうかな?」
俺は郁也の目の前で、恥じらいを捨ててクルクルと回ってみせた。
「…………何その服……? 天野の趣味じゃないよね……?」
喜んで鼻血でも出すかと思いきや、郁也はみるみる青ざめていく。
「え、えっと……」
予想外のリアクションに動揺が走る。
でも、ここで「チャッキーに言われて」なんて正直に答えたら、一生、魅力的な男にはなれない。
秘密は女を美しくするって言うしな。俺は男だけど。こういう時こそ、教えを思い出せ。
「は、ハロウィンの仮装パーティーで、バイト先の先輩からもらったんだ!」
よし。チャッキーの教え、『嘘をつくなら真実を混ぜろ』の遂行だ。実際には、ハロウィンの仮装パーティーではお菓子をもらっただけなんだけど。
「…………」
あれ。なんか空気がおかしい。郁也の瞳の奥が、見たこともないような冷たくて暗い色に染まっている。
「……脱いで」
「え?」
「今すぐ脱いで。それ」
押し殺したような低い声。怒ってる? 怒らせちゃったのか?
「え、ごめん、嫌だった……?」
不安になって尋ねると、郁也はガシガシと自分の頭を掻き回し、至近距離まで詰め寄ってきた。
「違う。……今度からコスプレ用品は俺が買う。とりあえず今すぐ脱いで。捨てるから」
「え、あ、はい……」
手際よくゴミ袋を取り出した郁也の迫力に、俺洗面所に駆け込んだ。
すぐに着替えて戻ると、そのメイド服は目にも止まらぬ速さで袋の底へ沈められた。なんとまあ、恐ろしいほどの手際だ。
「話がある」
「な、何かな?」
心臓が跳ねる。メイド服の件を蒸し返されるのか、それとももっと深刻な話か。
「莉子のこと。……本当に、気にしてないの?」
郁也が探るような瞳でこちらを見つめてくる。
「気にしてないよ!! 本当に、これっぽっちも!」
嘘だ。めちゃくちゃ気にしてます。なんなら今すぐ名前呼びをやめろ、俺の前で二度と思い出すな、と叫び出しそうなのを必死で飲み込んでいる。
「……俺なら、ムカついて、キレるけどね。」
ポツリと漏らした郁也の声は、少しだけ苦しそうだった。
うわ、この人、思ったより独占欲が強い。
そんなこと思うんだ。
……やっぱり元カノに対しても、そうやって熱くなったりしてたのかな。
「ははは! 俺は超絶、余裕と理解がある彼氏なんだ! だから郁也も、変に気にするなよ!」
魅力的な彼氏とは、海より広い心を持ち、過去を笑って許す余裕があること。チャッキーはそう言っていた。俺はあくまでそれを忠実に、完璧に実行しているだけだ。自分自身の心が、内側からボロボロと削れる音がしても無視する。
「………そう。ならよかった」
郁也はどこか拍子抜けしたような、それでいて少しだけ冷めたような顔をして立ち上がった。
「お手洗い、借りるね」
バタン、とドアが閉まる。
一人残されたリビングで、俺はガッツポーズを決めた。
「……よし、計画通りだ」
嫉妬に狂って喚き散らすようなダサい姿は見せなかった。
鏡に映る自分は、無理やり作った笑顔のせいで顔が引き攣っていたけれど、これもすべて「唯一無二」になるための試練。
俺はスマホを取り出し、早くもチャッキーに次なる報告を打ち込み始めた。
『エロい格好をしたら、怒って捨てられました。そして、次は俺が買うって言われました』
俺の報告に、チャッキーはすぐにノリノリのレスポンスを返してきた。
『素晴らしい! 彼は、放っておいたらあなたがどこかへ行ってしまうと危機感を覚えたはずです。
誰の手にも入らない危うい雰囲気は、魅力的な人間にとって不可欠なスパイス。峰不○子を思い出してください。次は、「先輩に、着たところを見せてって言われてるんだ」と、さらに嘘を重ねてみてください。そうすれば、あなたは彼にとってさらに唯一無二の、手放せない存在になれるでしょう!』
なるほど……。不○子ちゃんか。確かにあの、のらりくらりとして誰の所有物にもならないミステリアスな女は、男を狂わせる。俺、ちょっと不○子ちゃんマインドで行ってみるわ。
「どうしたの?スマホなんか触って」
郁也が戻ってきた。
「あ、気にしないで!それより、あのさ」
チャッキーのことは秘密だ。不思議そうな顔をしているが、スルーだ。
「うん?」
郁也が首を傾げる。俺はできるだけ無防備で、かつ他人の影を感じさせるようなトーンで切り出した。
「今度、さっきのメイド服、先輩から着たところ見せてって言われてるんだよね」
「……は?」
郁也の手が止まる。彼の表情から一切の余裕が消え失せた。
「ダメ?」
俺はあざとく小首を傾げてみせる。
「……あり得ない。ダメに決まってるだろ。あんな服、他の男の前で着るなんて、一ミリも許さない」
郁也は信じられないものを見るような目で俺を射抜いた。
「そっかー、わかった。じゃあ断っとくね」
俺は不○子ちゃんを意識して、あえて気楽に、少し物足りなそうなふりをして返事をした。
よし! これで大丈夫だ! 郁也の独占欲を煽りつつ、俺の価値を爆上げしてやったぞ。チャッキー、お前は本当に天才だよ。
俺は郁也にメッセージを送った。
『ごめん……。』
……やっぱり無理か。郁也はなぜかを俺を部屋に入れたがらない。名前呼びもされないし家にも呼ばれないし、俺って一体なんなんだ。
『わかった。じゃあ俺の家来て。』
『今日は予定あって遅れるけど、いいかな?』
『うん!』
……計画通り。俺は夜○月ばりに悪い顔をしていた。内心、その予定が何か気にならないわけではないが、追求したら「うざい恋人」確定だ。そんなのは魅力的ではない。
『全然いいよ!家で待ってる!』
そこまで返信を叩きつけると、俺は戦場へ向かう足取りで彼の家へ向かった。
——
「ただいま…待たせてごめんね……」
数時間後、郁也が疲れきった様子で帰ってきた。
「おかえり!」
「……え?」
玄関で俺を迎えた郁也が、石のように固まった。当然だ。
今の俺は、フリルたっぷりのメイド服を着ているのだから。しかも、ミニスカで露出多めのやつ。
「な、何してんの…?」
「えへへ。おかえりなさいませご主人様♡」
チャッキー直伝、魅力的な人になる方法その1。エロい格好で理性を揺さぶる。
『清楚なあなたも素敵ですが、刺激も必要です』と言われたら、従うしかない。
正直、鏡を見るたびに死にたくなったが、ショッピングサイトで「即日発送」をポチった俺の覚悟は本物だった。布地はピチピチだ。
「どうかな?」
俺は郁也の目の前で、恥じらいを捨ててクルクルと回ってみせた。
「…………何その服……? 天野の趣味じゃないよね……?」
喜んで鼻血でも出すかと思いきや、郁也はみるみる青ざめていく。
「え、えっと……」
予想外のリアクションに動揺が走る。
でも、ここで「チャッキーに言われて」なんて正直に答えたら、一生、魅力的な男にはなれない。
秘密は女を美しくするって言うしな。俺は男だけど。こういう時こそ、教えを思い出せ。
「は、ハロウィンの仮装パーティーで、バイト先の先輩からもらったんだ!」
よし。チャッキーの教え、『嘘をつくなら真実を混ぜろ』の遂行だ。実際には、ハロウィンの仮装パーティーではお菓子をもらっただけなんだけど。
「…………」
あれ。なんか空気がおかしい。郁也の瞳の奥が、見たこともないような冷たくて暗い色に染まっている。
「……脱いで」
「え?」
「今すぐ脱いで。それ」
押し殺したような低い声。怒ってる? 怒らせちゃったのか?
「え、ごめん、嫌だった……?」
不安になって尋ねると、郁也はガシガシと自分の頭を掻き回し、至近距離まで詰め寄ってきた。
「違う。……今度からコスプレ用品は俺が買う。とりあえず今すぐ脱いで。捨てるから」
「え、あ、はい……」
手際よくゴミ袋を取り出した郁也の迫力に、俺洗面所に駆け込んだ。
すぐに着替えて戻ると、そのメイド服は目にも止まらぬ速さで袋の底へ沈められた。なんとまあ、恐ろしいほどの手際だ。
「話がある」
「な、何かな?」
心臓が跳ねる。メイド服の件を蒸し返されるのか、それとももっと深刻な話か。
「莉子のこと。……本当に、気にしてないの?」
郁也が探るような瞳でこちらを見つめてくる。
「気にしてないよ!! 本当に、これっぽっちも!」
嘘だ。めちゃくちゃ気にしてます。なんなら今すぐ名前呼びをやめろ、俺の前で二度と思い出すな、と叫び出しそうなのを必死で飲み込んでいる。
「……俺なら、ムカついて、キレるけどね。」
ポツリと漏らした郁也の声は、少しだけ苦しそうだった。
うわ、この人、思ったより独占欲が強い。
そんなこと思うんだ。
……やっぱり元カノに対しても、そうやって熱くなったりしてたのかな。
「ははは! 俺は超絶、余裕と理解がある彼氏なんだ! だから郁也も、変に気にするなよ!」
魅力的な彼氏とは、海より広い心を持ち、過去を笑って許す余裕があること。チャッキーはそう言っていた。俺はあくまでそれを忠実に、完璧に実行しているだけだ。自分自身の心が、内側からボロボロと削れる音がしても無視する。
「………そう。ならよかった」
郁也はどこか拍子抜けしたような、それでいて少しだけ冷めたような顔をして立ち上がった。
「お手洗い、借りるね」
バタン、とドアが閉まる。
一人残されたリビングで、俺はガッツポーズを決めた。
「……よし、計画通りだ」
嫉妬に狂って喚き散らすようなダサい姿は見せなかった。
鏡に映る自分は、無理やり作った笑顔のせいで顔が引き攣っていたけれど、これもすべて「唯一無二」になるための試練。
俺はスマホを取り出し、早くもチャッキーに次なる報告を打ち込み始めた。
『エロい格好をしたら、怒って捨てられました。そして、次は俺が買うって言われました』
俺の報告に、チャッキーはすぐにノリノリのレスポンスを返してきた。
『素晴らしい! 彼は、放っておいたらあなたがどこかへ行ってしまうと危機感を覚えたはずです。
誰の手にも入らない危うい雰囲気は、魅力的な人間にとって不可欠なスパイス。峰不○子を思い出してください。次は、「先輩に、着たところを見せてって言われてるんだ」と、さらに嘘を重ねてみてください。そうすれば、あなたは彼にとってさらに唯一無二の、手放せない存在になれるでしょう!』
なるほど……。不○子ちゃんか。確かにあの、のらりくらりとして誰の所有物にもならないミステリアスな女は、男を狂わせる。俺、ちょっと不○子ちゃんマインドで行ってみるわ。
「どうしたの?スマホなんか触って」
郁也が戻ってきた。
「あ、気にしないで!それより、あのさ」
チャッキーのことは秘密だ。不思議そうな顔をしているが、スルーだ。
「うん?」
郁也が首を傾げる。俺はできるだけ無防備で、かつ他人の影を感じさせるようなトーンで切り出した。
「今度、さっきのメイド服、先輩から着たところ見せてって言われてるんだよね」
「……は?」
郁也の手が止まる。彼の表情から一切の余裕が消え失せた。
「ダメ?」
俺はあざとく小首を傾げてみせる。
「……あり得ない。ダメに決まってるだろ。あんな服、他の男の前で着るなんて、一ミリも許さない」
郁也は信じられないものを見るような目で俺を射抜いた。
「そっかー、わかった。じゃあ断っとくね」
俺は不○子ちゃんを意識して、あえて気楽に、少し物足りなそうなふりをして返事をした。
よし! これで大丈夫だ! 郁也の独占欲を煽りつつ、俺の価値を爆上げしてやったぞ。チャッキー、お前は本当に天才だよ。
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