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始まり
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「……はああああああああ???」
俺の叫び声が、静まり返った学内に響き渡った。
周囲の学生たちが一瞬振り向き、ざわつく。
……気まずいけど、止まらない。
——2ヶ月後。
うちの大学では、毎年恒例の学園祭目玉イベント「ミス&ミスターコンテスト」が開催される。
代々伝わる伝統行事で、レベルがものすごく高いことでも有名である。
優勝者の多くは後に芸能人デビューを果たす。地元テレビで生中継され、雑誌掲載もされ、SNSでも話題沸騰。
……つまり、“大学で一番美形を決める祭り”である。
仕組みはこうだ。
うちの大学には6つの学部——文学部、経済学部、法学部、工学部、国際学部、農学部——があり、それぞれから男女1名ずつ、自薦または他薦で代表が選ばれる。
名前は学内掲示板とSNS公式に張り出されるが、顔は本番まで非公開。ただ、口コミですぐバレる。
2ヶ月後の本番では、参加者がステージに登場し、特技披露。その後、観客やSNS投票で優勝者が決まる。
ちなみに——ミスコンとミスターコンの優勝者が付き合う確率は、なぜか異様に高いらしい。
まあ、大学の七不思議の一つってやつだ。
それはさておき。
優勝常連は、チャラくて華やかな経済学部や国際学部。
時々原石が文学部に混じったりしている。
そして我らが——理系の聖地・工学部。歴代で優勝者が出たことは、ほぼ、ない。
だから、平凡な俺とは無縁の話だと思っていた。……この瞬間までは。
⸻
工学部代表:工学部情報学科2年 逸見悠里(いつみ ゆうり)
掲示板に貼られた紙を見て、目を疑う。
視線が何度も上下左右に揺れる。
……いやいや、待て。
その名前、俺の幼馴染なんだが?
スマホでSNSの公式アカウントを確認しても、同じ名前が記載されている。
……マジか。バグか?ドッキリか?いや、現実だ。
「ゆ、悠里……どういうことだ……?」
俺は隣にいた本人——逸見悠里に恐る恐る尋ねた。
悠里は困ったように目を泳がせ、情けなく笑った。
「ぼ、僕も……わかんない……」
声、震えてる。
そりゃそうだ。こいつ、キラキラ行事とか一番苦手なタイプだから。
⸻
逸見悠里。
地味でおとなしい、優しい陰キャ。女絡みゼロ。
特技はパソコン。趣味はゲーム。
自己肯定感が低くて、いつもオドオドしてる。
身長は高いのに姿勢が悪く、黒縁メガネの奥の目がいつも伏せがちで、髪は前髪で半分隠れている。
服は毎日パーカー。色違いで3着ある。
「ま、まさか自分で応募した……?」
「するわけないじゃん!僕なんか、出たら恥かくだけだよ……!」
慌てて否定する姿が目に浮かぶ。
ああ、ほんと、こいつは昔からこうだ。
⸻
俺たちは幼稚園からの付き合いで、腐れ縁レベルの親友。
だから——俺は知っている。
こいつが“本当はイケメン”であることを。
「歩が代わりに出てくれない……?」
「無理に決まってるだろ。俺の顔見ろ」
鏡を見るたびに思う。
俺、ほんっとうに平凡。
コンタクトに変えたくらいで人は変わらないんだ。
⸻
そう思っていた、その時だった。
「……ごめん!!逸見!!」
勢いよく走ってきたのは、同級生の蔵元(くらもと)。
どことなく気まずそうな顔。
髪の毛が少し乱れていて、息も荒い。
「……まさか、お前が黒幕か!?」
「じ、実は……僕、学園祭実行委員やってて……工学部だけ立候補が誰もいなかったんだ。で、ちょっと……推薦枠で……」
「おい!本人に確認取れよ!!」
怒鳴る俺。
隣の悠里は、相変わらずおどおどしている。
「ご、ごめん……!でも、どうせ優勝は経済の佐藤だから!当日、出なくても大丈夫だから!!」
そう言って、蔵元は土下座してきた。
……佐藤。経済学部の王子。SNSフォロワー10万人越え。
噂によれば、芸能界からも誘いがきているらしい。
確かに、顔も性格も“完璧”。
だが、それを理由に悠里を“数合わせ”扱いするなんて、腹が立つ。
⸻
「……悔しい!!」
思わず地団駄を踏む。
悠里を踏みにじられた気がして、胸が熱くなる。
悔しさと同時に、昂ぶる感情が体中に広がる。
——悠里は、ちゃんと見せてやれば、絶対に誰にも負けない。
俺は、それを知ってる。
だって……俺にとっては“初恋”だから。
幼稚園の時、運動会で一生懸命走る姿に、子どもながらに心を撃ち抜かれた。
今でもそのときの顔が、時々、夢に出る。
「……歩?」
不安そうに俺を見る悠里。目が揺れている。
……だから、俺は決めた。
「悠里。俺が——お前を世界一のイケメンにしてやる!」
「……え、ええええええっ!?」
学内に再び響き渡る叫び声。
こうして、“悠里イケメン大作戦”が、幕を開けた。
俺の叫び声が、静まり返った学内に響き渡った。
周囲の学生たちが一瞬振り向き、ざわつく。
……気まずいけど、止まらない。
——2ヶ月後。
うちの大学では、毎年恒例の学園祭目玉イベント「ミス&ミスターコンテスト」が開催される。
代々伝わる伝統行事で、レベルがものすごく高いことでも有名である。
優勝者の多くは後に芸能人デビューを果たす。地元テレビで生中継され、雑誌掲載もされ、SNSでも話題沸騰。
……つまり、“大学で一番美形を決める祭り”である。
仕組みはこうだ。
うちの大学には6つの学部——文学部、経済学部、法学部、工学部、国際学部、農学部——があり、それぞれから男女1名ずつ、自薦または他薦で代表が選ばれる。
名前は学内掲示板とSNS公式に張り出されるが、顔は本番まで非公開。ただ、口コミですぐバレる。
2ヶ月後の本番では、参加者がステージに登場し、特技披露。その後、観客やSNS投票で優勝者が決まる。
ちなみに——ミスコンとミスターコンの優勝者が付き合う確率は、なぜか異様に高いらしい。
まあ、大学の七不思議の一つってやつだ。
それはさておき。
優勝常連は、チャラくて華やかな経済学部や国際学部。
時々原石が文学部に混じったりしている。
そして我らが——理系の聖地・工学部。歴代で優勝者が出たことは、ほぼ、ない。
だから、平凡な俺とは無縁の話だと思っていた。……この瞬間までは。
⸻
工学部代表:工学部情報学科2年 逸見悠里(いつみ ゆうり)
掲示板に貼られた紙を見て、目を疑う。
視線が何度も上下左右に揺れる。
……いやいや、待て。
その名前、俺の幼馴染なんだが?
スマホでSNSの公式アカウントを確認しても、同じ名前が記載されている。
……マジか。バグか?ドッキリか?いや、現実だ。
「ゆ、悠里……どういうことだ……?」
俺は隣にいた本人——逸見悠里に恐る恐る尋ねた。
悠里は困ったように目を泳がせ、情けなく笑った。
「ぼ、僕も……わかんない……」
声、震えてる。
そりゃそうだ。こいつ、キラキラ行事とか一番苦手なタイプだから。
⸻
逸見悠里。
地味でおとなしい、優しい陰キャ。女絡みゼロ。
特技はパソコン。趣味はゲーム。
自己肯定感が低くて、いつもオドオドしてる。
身長は高いのに姿勢が悪く、黒縁メガネの奥の目がいつも伏せがちで、髪は前髪で半分隠れている。
服は毎日パーカー。色違いで3着ある。
「ま、まさか自分で応募した……?」
「するわけないじゃん!僕なんか、出たら恥かくだけだよ……!」
慌てて否定する姿が目に浮かぶ。
ああ、ほんと、こいつは昔からこうだ。
⸻
俺たちは幼稚園からの付き合いで、腐れ縁レベルの親友。
だから——俺は知っている。
こいつが“本当はイケメン”であることを。
「歩が代わりに出てくれない……?」
「無理に決まってるだろ。俺の顔見ろ」
鏡を見るたびに思う。
俺、ほんっとうに平凡。
コンタクトに変えたくらいで人は変わらないんだ。
⸻
そう思っていた、その時だった。
「……ごめん!!逸見!!」
勢いよく走ってきたのは、同級生の蔵元(くらもと)。
どことなく気まずそうな顔。
髪の毛が少し乱れていて、息も荒い。
「……まさか、お前が黒幕か!?」
「じ、実は……僕、学園祭実行委員やってて……工学部だけ立候補が誰もいなかったんだ。で、ちょっと……推薦枠で……」
「おい!本人に確認取れよ!!」
怒鳴る俺。
隣の悠里は、相変わらずおどおどしている。
「ご、ごめん……!でも、どうせ優勝は経済の佐藤だから!当日、出なくても大丈夫だから!!」
そう言って、蔵元は土下座してきた。
……佐藤。経済学部の王子。SNSフォロワー10万人越え。
噂によれば、芸能界からも誘いがきているらしい。
確かに、顔も性格も“完璧”。
だが、それを理由に悠里を“数合わせ”扱いするなんて、腹が立つ。
⸻
「……悔しい!!」
思わず地団駄を踏む。
悠里を踏みにじられた気がして、胸が熱くなる。
悔しさと同時に、昂ぶる感情が体中に広がる。
——悠里は、ちゃんと見せてやれば、絶対に誰にも負けない。
俺は、それを知ってる。
だって……俺にとっては“初恋”だから。
幼稚園の時、運動会で一生懸命走る姿に、子どもながらに心を撃ち抜かれた。
今でもそのときの顔が、時々、夢に出る。
「……歩?」
不安そうに俺を見る悠里。目が揺れている。
……だから、俺は決めた。
「悠里。俺が——お前を世界一のイケメンにしてやる!」
「……え、ええええええっ!?」
学内に再び響き渡る叫び声。
こうして、“悠里イケメン大作戦”が、幕を開けた。
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