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振り返った先の冬夜くんは、笑っていた。
けれど、その瞳だけは笑っていなかった。
「……ど、どうして?」
胸の奥がざわつく。彼の考えが読めない。いや、今までも分からないことは多かったけれど、今はその比じゃない。まるで別の人みたいで、息が詰まる。
このままだと――冗談抜きで監禁される。そんな恐怖が脳裏をよぎる。僕だって一度くらいは「彼を閉じ込めてしまいたい」なんて想像したことがある。でも、それはあくまで妄想であって、実行なんて――。
「深緒、結婚しよう」
不意に落ちた言葉に、思考が止まった。
「………はい?」
耳を疑った。いや、今、聞き間違えじゃないよね? こんなタイミングで?
「だから、結婚しよう」
彼の声は、揺らがない。
「いや、男同士は結婚できないって……」
かろうじて現実的な突っ込みを入れる。まだこの国では、同性婚は法的に認められていない。
「知ってるよ。だから、指輪を交換して、一緒に住む。紙切れの力は借りられないけど、それでも俺たちなりの“結婚”だと思うんだ」
彼の目は真剣だった。
正直、この状況を除けば……夢にまで見た言葉だ。僕の欲しかった答えそのものだ。飛びつきたい。でも、だからこそ――大事な質問を飲み込めなかった。
「……なんで今?」
このタイミング。腹は減ってるし、ドアは閉ざされてるし、さっきまで口論してたばかりだ。いくらなんでもロマンチックさに欠ける。
「それはね……気づいたんだよ」
彼は少し視線を落として、絞り出すように言った。
「今までの日々が当たり前じゃないって。深緒が俺から離れるはずないって、心のどこかで驕ってた。でも今回――深緒には深緒の世界があって、他人の言葉で容易く変わるんだって痛感した。気持ちだって、もしかしたら……変わるかもしれない」
そこで彼は一呼吸置いて、まっすぐ僕を見据えた。
「だから、結婚したら安心できるんじゃないかって思った。俺も、深緒も」
その手から差し出された小箱。蓋が開き、シンプルなシルバーリングが顔を覗かせる。
「お願いです。俺とずっと一緒にいてください」
彼はひざまずいた。まるで舞台の上の王子みたいに。
僕の視界が一瞬で涙でにじむ。嬉しくて、怖くて、胸がいっぱいで。両手で顔を覆った。
「逃げないで。返事、聞かせて。……鍵を閉めたのは、これを言うためだから」
逃げ道を塞いだのは、束縛じゃなく覚悟のため――そう思わせるほどの真剣な瞳。
もう答えは決まってる。
「……はい」
小さな声しか出なかったけど、それでも十分だったみたいだ。彼はその場に崩れ落ち、頬を濡らして笑った。
「たださ……監禁はやだよ。首絞めも。僕だってやりたいと思ったことはあったけど、我慢してたんだから」
正直に告げると、彼は苦笑した。
「もちろん。今日は本当にごめん。今後は我慢する」
「……ちょっとならいいよ」
「え?」
「な、なんか……嫉妬されるのが嬉しいって、分かっちゃったから」
ぽつりと告げると、彼の腕がぐっと強く回り込んできた。
まるで大切な宝物を奪われまいとするみたいに。
「ほんと、可愛いなぁ……。俺みたいな男を選んでくれるなんて。深緒、男の趣味悪いぞ?でも、一生離さない。幸せにする」
耳元に落とされた声は、甘くて熱くて、心臓を直接撫でられているみたいだった。
「……君は、いい男だよ。むしろ君こそ“男の趣味悪い”って言われてた」
少し苦笑いを混ぜて返すと、彼は楽しそうに目を細めた。
「いや、いいんだ。こんなに幸せなんだから」
微笑んだその横顔は、照明よりも温かい光を帯びていて、胸がぎゅっと締めつけられる。
「たださ、“大好き”はないだろう?アレだけは許せない。……気をつけて」
一呼吸置いて告げられる低音。
「……ごめんね…」
あんなに些細な一言を、こんなにも気にしていたなんて。
でもきっと、僕も逆の立場なら同じだろう。彼が他の誰かに「大好き」なんて言っていたら、きっと平静ではいられない。
だから、気をつけよう。彼のために。
「……浮気したら許さないよ。嫉妬しないわけじゃないし。ただ、少しは抑えられるようになっただけだから」
思わず本音が零れる。すると彼は、子どもをあやすみたいに軽く頷いて笑った。
「はいはい。他の男のアドバイスくらいなら許容してあげるよ。でも、自分のことで悩むのはもうやめてね。俺が深緒を捨てるなんて、未来永劫ありえない。安心して、自由に生きて」
優しく囁く声。続く口づけは、最初は軽く、けれどすぐに深く絡み合う。息が乱れるほどに。
「……このまま、する?」
熱を帯びた声で問われて、背筋が震える。
「……ご飯食べてからじゃなきゃ嫌」
本当は今すぐにでも溺れたいのに。お腹の虫が抗議する。
「ふふ、わかった」
彼は頷いて、今度こそ抱擁に甘さだけを残した。
こうして、僕たちの初めての喧嘩は幕を下ろした。
夏樹からはすぐに「この件、小説のネタにするわ」なんて連絡が来た。あの人はやっぱり図太い。
僕たちは重い。嫉妬深くて、不器用で、面倒くさい。
でも――だからこそ、居心地がいい。
けれど、その瞳だけは笑っていなかった。
「……ど、どうして?」
胸の奥がざわつく。彼の考えが読めない。いや、今までも分からないことは多かったけれど、今はその比じゃない。まるで別の人みたいで、息が詰まる。
このままだと――冗談抜きで監禁される。そんな恐怖が脳裏をよぎる。僕だって一度くらいは「彼を閉じ込めてしまいたい」なんて想像したことがある。でも、それはあくまで妄想であって、実行なんて――。
「深緒、結婚しよう」
不意に落ちた言葉に、思考が止まった。
「………はい?」
耳を疑った。いや、今、聞き間違えじゃないよね? こんなタイミングで?
「だから、結婚しよう」
彼の声は、揺らがない。
「いや、男同士は結婚できないって……」
かろうじて現実的な突っ込みを入れる。まだこの国では、同性婚は法的に認められていない。
「知ってるよ。だから、指輪を交換して、一緒に住む。紙切れの力は借りられないけど、それでも俺たちなりの“結婚”だと思うんだ」
彼の目は真剣だった。
正直、この状況を除けば……夢にまで見た言葉だ。僕の欲しかった答えそのものだ。飛びつきたい。でも、だからこそ――大事な質問を飲み込めなかった。
「……なんで今?」
このタイミング。腹は減ってるし、ドアは閉ざされてるし、さっきまで口論してたばかりだ。いくらなんでもロマンチックさに欠ける。
「それはね……気づいたんだよ」
彼は少し視線を落として、絞り出すように言った。
「今までの日々が当たり前じゃないって。深緒が俺から離れるはずないって、心のどこかで驕ってた。でも今回――深緒には深緒の世界があって、他人の言葉で容易く変わるんだって痛感した。気持ちだって、もしかしたら……変わるかもしれない」
そこで彼は一呼吸置いて、まっすぐ僕を見据えた。
「だから、結婚したら安心できるんじゃないかって思った。俺も、深緒も」
その手から差し出された小箱。蓋が開き、シンプルなシルバーリングが顔を覗かせる。
「お願いです。俺とずっと一緒にいてください」
彼はひざまずいた。まるで舞台の上の王子みたいに。
僕の視界が一瞬で涙でにじむ。嬉しくて、怖くて、胸がいっぱいで。両手で顔を覆った。
「逃げないで。返事、聞かせて。……鍵を閉めたのは、これを言うためだから」
逃げ道を塞いだのは、束縛じゃなく覚悟のため――そう思わせるほどの真剣な瞳。
もう答えは決まってる。
「……はい」
小さな声しか出なかったけど、それでも十分だったみたいだ。彼はその場に崩れ落ち、頬を濡らして笑った。
「たださ……監禁はやだよ。首絞めも。僕だってやりたいと思ったことはあったけど、我慢してたんだから」
正直に告げると、彼は苦笑した。
「もちろん。今日は本当にごめん。今後は我慢する」
「……ちょっとならいいよ」
「え?」
「な、なんか……嫉妬されるのが嬉しいって、分かっちゃったから」
ぽつりと告げると、彼の腕がぐっと強く回り込んできた。
まるで大切な宝物を奪われまいとするみたいに。
「ほんと、可愛いなぁ……。俺みたいな男を選んでくれるなんて。深緒、男の趣味悪いぞ?でも、一生離さない。幸せにする」
耳元に落とされた声は、甘くて熱くて、心臓を直接撫でられているみたいだった。
「……君は、いい男だよ。むしろ君こそ“男の趣味悪い”って言われてた」
少し苦笑いを混ぜて返すと、彼は楽しそうに目を細めた。
「いや、いいんだ。こんなに幸せなんだから」
微笑んだその横顔は、照明よりも温かい光を帯びていて、胸がぎゅっと締めつけられる。
「たださ、“大好き”はないだろう?アレだけは許せない。……気をつけて」
一呼吸置いて告げられる低音。
「……ごめんね…」
あんなに些細な一言を、こんなにも気にしていたなんて。
でもきっと、僕も逆の立場なら同じだろう。彼が他の誰かに「大好き」なんて言っていたら、きっと平静ではいられない。
だから、気をつけよう。彼のために。
「……浮気したら許さないよ。嫉妬しないわけじゃないし。ただ、少しは抑えられるようになっただけだから」
思わず本音が零れる。すると彼は、子どもをあやすみたいに軽く頷いて笑った。
「はいはい。他の男のアドバイスくらいなら許容してあげるよ。でも、自分のことで悩むのはもうやめてね。俺が深緒を捨てるなんて、未来永劫ありえない。安心して、自由に生きて」
優しく囁く声。続く口づけは、最初は軽く、けれどすぐに深く絡み合う。息が乱れるほどに。
「……このまま、する?」
熱を帯びた声で問われて、背筋が震える。
「……ご飯食べてからじゃなきゃ嫌」
本当は今すぐにでも溺れたいのに。お腹の虫が抗議する。
「ふふ、わかった」
彼は頷いて、今度こそ抱擁に甘さだけを残した。
こうして、僕たちの初めての喧嘩は幕を下ろした。
夏樹からはすぐに「この件、小説のネタにするわ」なんて連絡が来た。あの人はやっぱり図太い。
僕たちは重い。嫉妬深くて、不器用で、面倒くさい。
でも――だからこそ、居心地がいい。
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