5 / 6
5
しおりを挟む
「……そろそろ外してほしいな……」
腕に食い込むタオルの感触に、ようやく慣れてきてしまった。
でも、流石に解いてほしい。胸の奥に小さな恐怖がじわじわと広がっている。
「え、やだよ。俺から離れない。前みたいに自由に嫉妬する。夏樹のアドバイスは忘れる。これを守ってくれないと、拘束は解かないよ」
淡々と告げられる条件。
冗談っぽく笑わないから、本気にしか聞こえない。
ピロロロロ ピロロロロ
着信音が部屋に響く。
冬夜くんは立ち上がり、スマホを手に取る。
「……うわぁ、夏樹だ。5分経っても連絡がなかったからかな?」
わざとらしいくらい嫌そうな顔。
「深緒ー。連絡先、消してよ。夏樹の」
振り返りざまに言った。
「む、無理だよ……か、貸して……」
縋るように懇願する。
「うーん………いいよ。拘束、解いてあげる。ただし、スピーカーにすること」
思わず息を飲んだ。さっきまであれほど解かないと言ってたのに。彼の考えが読めない。怖い。
冬夜くんがスマホを渡してくる。手首のタオルは解かれた。自由になったのに、心臓は逆に締め付けられていく。
「もしもし!」
震える声で電話に出る。
『おい遅いぞ深緒!何かあったのか?』
夏樹の焦った声に、思わずホッとする。
「名前呼びかー……ちょっとねー」
『……ん?あんた誰? 聞いたことある声してんね』
「はじめまして。彼氏の神永冬夜です。いつもお世話になってます」
「ちょっと! 冬夜くん!」
『! あんたが! ……つーかどういう状況?』
「今、彼と話し合い中です。……こちらとしては、深緒の“好きだったところ”が、あなたのアドバイスで変わってしまって。そのことについて議論をしている最中です」
やけに丁寧な言葉。
逆に怖い。
『……マジ? あんた趣味悪すぎん?』
若干引いてる夏樹の声。
「可愛いなぁ、愛されてるんだなって思ってました」
楽しそうに言う冬夜くん。
この状況で楽しそうって、どういう神経?
『……ダメだ……今をときめく人気俳優、神永冬夜の裏の顔とか知りたくなかった……』
電話越しにショックを受けている夏樹。無理もない。僕だって今、信じられないんだから。
「趣味ができるのは別に構いません。友達が増えるのも……まあ嫉妬しますが、俺から絶対に離れないと誓うならいいでしょう。問題は、俺以外の手によって深緒が変化したことです」
はっきりと、堂々と宣言した。その独占欲の濃さに、思わず息を呑む。……やっぱり、僕ら実はお似合いだったのかな。
『……ええと……俺、長生きしたいので……深緒ーー!元に戻れーー!!』
夏樹が電話口で叫んでいる。
「……大丈夫です。あなたに何かあったら深緒が悲しむので」
『は、はい……』
低く囁く声に、電話の向こうの夏樹が怯える気配が伝わる。
「ちょ、ちょっと待って! 夏樹のせいじゃなくて! 僕の意思で……僕は成長したんだよ!」
拘束が解かれたから、ようやく必死に声を張れる。
「……でもさっき、“夏樹のアドバイスのおかげ”って言ってた」
疑うような視線が刺さる。
『お前……そんなこと言ってたのかよ……』
夏樹が呆れたように言う。
「だ、だから! 夏樹がアドバイスくれたけど! 実行したのは僕だから! 実質僕の意思ってことで!」
苦しい言い訳。
でも今はそれしか言えない。
「……わかった。これ以上文句言ったら、別れるって言われそうだもんね」
あっけなく、彼は引き下がった。思わず肩から力が抜ける。
『と、とりあえず解決したんだな? そろそろ切るぞ!』
夏樹が言う。
「おかげさまで。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。今後も深緒をよろしくお願いいたします」
冬夜くんが電話越しに丁寧すぎる挨拶をして、通話が切れた。
「……夏樹と縁が切れたら、冬夜くんのせいだからね」
ため息混じりに僕が言う。
まあ、夏樹のことだから明日には「ネタができた!」って面白がって連絡してくるだろうけど。
「あはは、ごめんね」
ようやく彼が笑った。
よかった……いつもの冬夜くんに戻った。
「じゃあご飯食べよう。僕、お腹空いちゃった」
立ち上がり、リビングに向かう。
――ガチャ。
……開かない。
「っえ……?」
ガチャガチャガチャ。
何度回しても、ドアノブは動かない。鍵がかかっている。
「みーお」
背後から、柔らかいけれど決して逃れられない声が落ちてきた。
「お話し、終わってないよ」
腕に食い込むタオルの感触に、ようやく慣れてきてしまった。
でも、流石に解いてほしい。胸の奥に小さな恐怖がじわじわと広がっている。
「え、やだよ。俺から離れない。前みたいに自由に嫉妬する。夏樹のアドバイスは忘れる。これを守ってくれないと、拘束は解かないよ」
淡々と告げられる条件。
冗談っぽく笑わないから、本気にしか聞こえない。
ピロロロロ ピロロロロ
着信音が部屋に響く。
冬夜くんは立ち上がり、スマホを手に取る。
「……うわぁ、夏樹だ。5分経っても連絡がなかったからかな?」
わざとらしいくらい嫌そうな顔。
「深緒ー。連絡先、消してよ。夏樹の」
振り返りざまに言った。
「む、無理だよ……か、貸して……」
縋るように懇願する。
「うーん………いいよ。拘束、解いてあげる。ただし、スピーカーにすること」
思わず息を飲んだ。さっきまであれほど解かないと言ってたのに。彼の考えが読めない。怖い。
冬夜くんがスマホを渡してくる。手首のタオルは解かれた。自由になったのに、心臓は逆に締め付けられていく。
「もしもし!」
震える声で電話に出る。
『おい遅いぞ深緒!何かあったのか?』
夏樹の焦った声に、思わずホッとする。
「名前呼びかー……ちょっとねー」
『……ん?あんた誰? 聞いたことある声してんね』
「はじめまして。彼氏の神永冬夜です。いつもお世話になってます」
「ちょっと! 冬夜くん!」
『! あんたが! ……つーかどういう状況?』
「今、彼と話し合い中です。……こちらとしては、深緒の“好きだったところ”が、あなたのアドバイスで変わってしまって。そのことについて議論をしている最中です」
やけに丁寧な言葉。
逆に怖い。
『……マジ? あんた趣味悪すぎん?』
若干引いてる夏樹の声。
「可愛いなぁ、愛されてるんだなって思ってました」
楽しそうに言う冬夜くん。
この状況で楽しそうって、どういう神経?
『……ダメだ……今をときめく人気俳優、神永冬夜の裏の顔とか知りたくなかった……』
電話越しにショックを受けている夏樹。無理もない。僕だって今、信じられないんだから。
「趣味ができるのは別に構いません。友達が増えるのも……まあ嫉妬しますが、俺から絶対に離れないと誓うならいいでしょう。問題は、俺以外の手によって深緒が変化したことです」
はっきりと、堂々と宣言した。その独占欲の濃さに、思わず息を呑む。……やっぱり、僕ら実はお似合いだったのかな。
『……ええと……俺、長生きしたいので……深緒ーー!元に戻れーー!!』
夏樹が電話口で叫んでいる。
「……大丈夫です。あなたに何かあったら深緒が悲しむので」
『は、はい……』
低く囁く声に、電話の向こうの夏樹が怯える気配が伝わる。
「ちょ、ちょっと待って! 夏樹のせいじゃなくて! 僕の意思で……僕は成長したんだよ!」
拘束が解かれたから、ようやく必死に声を張れる。
「……でもさっき、“夏樹のアドバイスのおかげ”って言ってた」
疑うような視線が刺さる。
『お前……そんなこと言ってたのかよ……』
夏樹が呆れたように言う。
「だ、だから! 夏樹がアドバイスくれたけど! 実行したのは僕だから! 実質僕の意思ってことで!」
苦しい言い訳。
でも今はそれしか言えない。
「……わかった。これ以上文句言ったら、別れるって言われそうだもんね」
あっけなく、彼は引き下がった。思わず肩から力が抜ける。
『と、とりあえず解決したんだな? そろそろ切るぞ!』
夏樹が言う。
「おかげさまで。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。今後も深緒をよろしくお願いいたします」
冬夜くんが電話越しに丁寧すぎる挨拶をして、通話が切れた。
「……夏樹と縁が切れたら、冬夜くんのせいだからね」
ため息混じりに僕が言う。
まあ、夏樹のことだから明日には「ネタができた!」って面白がって連絡してくるだろうけど。
「あはは、ごめんね」
ようやく彼が笑った。
よかった……いつもの冬夜くんに戻った。
「じゃあご飯食べよう。僕、お腹空いちゃった」
立ち上がり、リビングに向かう。
――ガチャ。
……開かない。
「っえ……?」
ガチャガチャガチャ。
何度回しても、ドアノブは動かない。鍵がかかっている。
「みーお」
背後から、柔らかいけれど決して逃れられない声が落ちてきた。
「お話し、終わってないよ」
88
あなたにおすすめの小説
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
長年の恋に終止符を
mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。
そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。
男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。
それがあの人のモットーというやつでしょう。
どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。
これで終らせることが出来る、そう思っていました。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
【BL】無償の愛と愛を知らない僕。
ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。
それが嫌で、僕は家を飛び出した。
僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。
両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。
それから十数年後、僕は彼と再会した。
幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい
中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます
息の合うゲーム友達とリア凸した結果プロポーズされました。
ふわりんしず。
BL
“じゃあ会ってみる?今度の日曜日”
ゲーム内で1番気の合う相棒に突然誘われた。リアルで会ったことはなく、
ただゲーム中にボイスを付けて遊ぶ仲だった
一瞬の葛藤とほんの少しのワクワク。
結局俺が選んだのは、
“いいね!あそぼーよ”
もし人生の分岐点があるのなら、きっとこと時だったのかもしれないと
後から思うのだった。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる