アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

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「ふんふんふんふーん。」

今日から冬休み。僕は霧矢くんの家にお泊まりすることになった。
もちろん即答でOK。楽しみすぎてテンションが止まらない。

「いらっしゃい。のんびりしていってね」

ドアの向こうに現れた霧矢くんは、今日も完璧だった。落ち着いた声に、少し笑う口元。ああ、もう紳士そのものだ。

「お邪魔しまーす! はい、ケーキ。」

もちろん、手ぶらじゃ行かない。これぞ“奢り精神”。

「……ありがとう。」

彼は少しだけ、複雑そうに眉を寄せた。え、迷惑だった……?

ソファに腰を下ろして、ふうっと息を吐いた。
やっぱり霧矢くんの家は落ち着く。……よし、今のうちにチャッキーに相談しよう。
たぶん、今日“そういう展開”になる。事前に“コツ”を聞いておきたい。

スマホを取り出したその瞬間――

ヒョイ。

「えっ……」

霧矢くんが、僕のスマホをすばやく奪い取った。

「ちょ、返してよ!」

思わず立ち上がるけど、彼のほうが身長高い。
ジャンプしても、ぜんぜん届かない。

「だーめ。今日から俺の家では、スマホ禁止。」

「なんで……?」

「……最近、俺といても、スマホばっかりだったじゃん。」

静かな声だった。責めるというより、少し寂しそうな響き。

「ご、ごめん……。」

たしかに、確かにチャッキーとばかり話してたな。反省しなきゃ。こんなんじゃ、“都合のいい男”失格だ。

「いいよ。」

霧矢くんは、少し笑った。

「その代わり、俺といっぱい話そ。最近、奏、自分のこと全然話してくれないじゃん。俺、奏の話、聞きたいよ。」

確かに、最近は聞くばかりで、自分の話なんてほとんどしてなかった。“都合のいい男”は聞き上手でいなきゃって、ずっと思ってたから。

「うん!あのね…」

そこから、僕は久しぶりに自分のことを話した。
霧矢くんはうなづきながら、真っ直ぐに僕の目を見て聞いてくれる。
その姿が、なんだか嬉しくて、くすぐったくて。
――やっぱりこの人が大好きだ。

「そろそろご飯作らなきゃね。俺が作るよ。」

そう言って霧矢くんが立ち上がった。

「え、いいよ!僕が作る!」

思わず反射的に口をつく。
……え、待って。僕が作らないと!都合のいい男、失格になっちゃう!

「いいって。ゆっくり休んでて。家主は俺なんだし、振る舞わせてよ。」

そう言って穏やかに笑う彼を見て、胸の奥がじんわり温かくなる。

「……ありがとう。」

小さく呟くと、霧矢くんはまた優しい笑みを浮かべて台所へ向かった。

僕には、勿体ないくらいの彼氏だ。
……やっぱり、本命がいい。
でも、――ご両親のことがある。
結局、僕は彼とは結ばれることはできない。

食卓に並んだ料理はどれも優しい味だった。
二人で笑いながら食べて、食後はソファに並んで座る。
テレビの音だけが静かに流れていた。

「……ねぇ。」

不意に、背後から腕が伸びてきて、僕の身体を包み込んだ。
背中越しに伝わる体温。心臓が跳ねる。

「霧矢くん……?」

服の中に手が触れた瞬間、息が止まった。
――きた。
彼の求めに、断る理由なんてない。彼の望みなら、全部応える。だって僕は“都合のいい男”だから。

「キス、していい?」

耳元で低く囁かれ、身体が熱くなる。

「も、もちろん。」

唇が触れ合う。柔らかくて、甘くて、少し苦しい。彼の息が近くて、世界がぼやけていく。

「……んっ……」

よし、チャッキーから聞いたテクを試す時だ!――そう思って、少しだけ角度を変えた、その瞬間。

「……っ!」

霧矢くんの身体がわずかに強張り、唇が離れた。

「……どうしたの?」

僕は息を整えながら尋ねる。けれど、霧矢くんの表情は読めなかった。低い声が落ちてくる。

「……キス、上手くなってない?」

空気が、一気に冷たくなる。声には笑いも温度もなかった。

「えへへ。なら、コツ聞いてよかった……。」

僕が冗談めかして笑った瞬間―
霧矢くんは無言で立ち上がった。
そして僕を軽々と抱き上げ、寝室へ向かう。

「え、霧矢くん……?」

胸の奥に、得体の知れない不安が広がる。

ベッドにそっと下ろされる。
顔を上げると、彼が見下ろしていた。

「約束、破ったよね?」

冷たい声。あの温厚な霧矢くんからは想像もつかないほどの低いトーンが響く。

「……絶対に、許さないから。」

その瞳には、光がなかった。

僕はベッドの上で、思わず固まった。
……あ、これはもう、どうしたらいいんだろう?
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