アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

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「俺のこと、好き?」

僕の髪を、ゆっくり撫でながら霧矢くんが尋ねてきた。

「え、えっと……」

頭の中が真っ白になる。
どう答えたら正解なんだろう?
“好き!”って即答したい。けど、都合のいい男って、こういうとき即答するのは違う気がする。
たぶん、軽率に「だいすき♡」とか言ったらとか言っちゃダメじゃないかな?

「…………即答してくれないんだね」

霧矢くんの手が止まり、すっと離れた。
上から見下ろすその顔が、まるで別人みたいで。

5年も一緒にいたのに、こんな空気は初めてだ。
霧矢くんのベッドに寝かされたことは何度もあるのに——
今日だけは、何かが決定的に違う。

ふと、霧矢くんの手が伸びてくる。肩のあたりをなぞるように――優しいのに、怖い。その指先が、まるで自分でも制御できていないみたいだった。

「た、助けて……チャッキー……」

あ。やばい。

「………………………は?」

霧矢くんの目が見開かれ、時間が止まる。

永遠にも感じる沈黙。

——そして。

バンッ!

ベッドが揺れた。霧矢くんの手が、強くシーツを叩いた音。
僕の心臓が一瞬で縮こまる。

「……あは、はははははははは。」

突然、笑い出した。まるで壊れたオルゴールみたいに。

「あー……おかしい。人って、こんな簡単に奪われるんだ……」

目の焦点が合っていない。
そのまま立ち上がって、部屋の中をゆっくり見渡した。

「今日からこの部屋から出るの、禁止。」

……え?ええ???今、さらっととんでもないこと言ったよね???

「いや……違う。違う違う違う違う!!」

霧矢くんが両手で頭を抱える。
まるで自分の中の何かを押し戻すように。

「……俺、何考えてんだ。こんなの……最低だよな。」

苦しそうに笑う。
けど、瞳は笑っていない。
頭を抱え、何かと葛藤している。…大丈夫かな?

「でも……ああもう!!頭の中、めちゃくちゃだ……!」

一歩、二歩、後ずさる。
まるで“自分から僕を守る”みたいに。

「…とりあえず、チャッキーには会わせない。絶対に。」

低い声で、断言。

「じゃあ、俺は違う部屋で寝るから。おやすみ。」

背中越しにそう言って、部屋を出て行こうとする。

「ちょっ……い、一緒に寝ないの?」

言った瞬間、後悔した。
違う。都合のいい男は、そんなこと言わない。
でも、口が勝手に動いた。

「……今、隣にいたら、自分が何するかわかんないから。……頭、冷やしたい。」

霧矢くんは振り向かない。
その声は無表情で、静かだった。

「おやすみ。」

……ダメだ。このままじゃ、なにか壊れる。

「霧矢くん……!」

思わず腕を掴んだ。

すると、次の瞬間――すごい力で抱きしめられた。

「……あのさ、」

温度のない声が、首元に落ちる。

「俺、完璧だったよね?」

「……え?」

突然どうした?完璧?なんの話?

「嫉妬も束縛も我慢して、穏やかで優しくて。そういう“理想の恋人”でいようとしてた。それなのに……」

顔を上げた霧矢くんの瞳は、涙で濡れていた。

「チャッキーにも、その顔、声、仕草、体、全部見せたの?」

…………いや、無理。アプリです。物理的に無理です。

「……最初に付き合ったとき約束したこと、覚えてる?」

……何だっけ?

「…浮気したら、許さないって。」

……………???????

「ねぇ、答えてよ。俺と別れたい?」

「えっ、あ、いや、その……」

「奏に捨てられたら、俺、自分でも何するかわからない。ほんとは、部屋に閉じ込めて誰にも見せたくない。俺が養うから、奏は俺の帰りだけ待ってて欲しい。」

そう言いながら、僕を抱きしめる力を強めた。

「でも、奏、嫌だろう?違法だし。自由をなくしたいわけじゃない。でも、でも、でも、」

彼の声が震え、涙が頬を伝う。泣いた姿、初めて見たかも。
理性と衝動の境目で、霧矢くんは壊れそうだった。

「お願いだから一生そばにいて……」

縋りつく声。震える体。
僕の胸の奥で、何かが痛くなった。

「あ、あの……」

「嫌だ、聞きたくない。」

「う、浮気してません。」

「………………は?????」

霧矢くんの声が、部屋いっぱいに響き渡った。
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