アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと

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「………で、他に言うことは?」

霧矢くんが仁王立ちしている。
僕は床に正座どころか、完全に土下座だった。

「……じゃあ、ここ数ヶ月、様子がおかしかったのは――その“チャッキー”という名のAIアプリのせいなのかな?」

霧矢くんはにっこりと笑っている。……やばい。あの笑顔は、完全に怒ってる。

「は、はい……」

途端に彼はベッドの上へ崩れ落ちた。

「……よかった……本当によかった……」

今にも泣きそうな顔だった。
張り詰めていた糸が、やっと切れたような表情。

「ご、ごめん……そんな……浮気してるなんて思われるなんて……」

こんな偶然、ある?
“都合のいい男”と“浮気男”の特徴が、まさかここまで重なるなんて。

「反省してね」

そう言いながら、霧矢くんは息を整える。

「で、どうして――“都合のいい男”なんかになろうとしたの?」

彼は僕を立たせ、ベッドの隣に座らせた。
少し距離を空けて、真っ直ぐこちらを見てくる。

「そ、それは……」

僕は覚悟を決めて、ご両親のことを話した。

「……あの親は……」

霧矢くんは頭を抱え、深く息を吐いた。
怒っているというより、呆れているようだった。

「……ごめんね。まさか、直接会いに行くなんて思わなかった。でも、あの親ならやるな……」

そのまま項垂れるように肩を落とした。

「あ、あの……僕ほんと、愛人でもいいから……」

「俺が良くない」

その言葉は、静かに、でも力強く落とされた。
霧矢くんは僕の頭を優しく撫でる。

「愛人とか、全員に不誠実じゃん。
うちの両親は“男なら愛人くらいいて当然”って思ってるかもしれないけど、俺はその考えが気に食わない。
それに……愛人だったら、奏がいつか俺から離れるかもしれないじゃん。やっぱり、本命として愛されるのがいいって。そうなったら俺……」

途中で言葉が途切れた。
彼の指が、ほんの少しだけ震えていた。

僕は何も言えず、ただ俯く。

「……絶対に本命にはなれないし、“愛人”なんて切ないだけだって…チャッキーにも言われた…。」

自分でも驚くほど小さな声で呟いた。

「今は絶対に別れたくない。でも……本当に愛人になったあと、耐えられるかわからない。だから今のうちから“都合のいい男”になれば、少しはマシかなって……」

「……なるほどね……」

霧矢くんは目を伏せて考えてる様子だ。

「まずは、チャッキーのアプリは消して欲しい。けど、それが無理なら付き合い方は気をつけて欲しい。正直チャッキーのせいでこんなに拗れたところあるから。」

霧矢くんは腕を組み、少し困ったように眉をひそめてうなずいた。

「ご、ごめん…今後は信じすぎないことにする…。」

「奏は人を信じすぎるところあるから…。もっと疑うことを覚えて欲しいな。というか、悩み事があったらすぐに俺に言って。」

「は、はい…」

僕も小さくうなずいた。二人でこの件を整理して、やっと少し落ち着いた気がした。

「次は、うちの親だよね…。使いたくなかったけど……仕方ないか。」

霧矢くんは考え込むように目を閉じ、深呼吸を一度だけした。そして、覚悟を決めたようにスマホを取り出す。

『霧矢!どうしたんだ?別れる決心を遂に…』

画面の向こうで、父親の声がいつも以上に慌てている。

「……今、家に連れ込んでるけど?」 

『破廉恥な!何度も言っただろ!別れなさい!』

「嫌だね。奏がいなくなったら俺死ぬよ?冗談抜きで」

『そんなわけないだろ!』

「本気。跡取りなら、兄弟の子とか親戚の中で優秀な人選をすればいい。それで会社にとっても問題はないだろ?」

『……後悔するぞ…。』

父親は沈黙したまま、どうやら言葉を選んでいるようだ。

「俺、知ってるんだよ。」

『……?』

「父さんも、昔同性の恋人いたけど、別れさせられたって。」

「………!?どこで?」

「おじいちゃんから聞いた。だから、俺たちの関係認めたら、自分たちはどうなるんだって話だから、それもあって反対してるんでしょ?」

『……お前の行く末は、辛い道であってほしくない…。風当たりは、想像以上だぞ。』

重い。体験談でもあるのかもしれない。

「の、乗り越えます。」

僕も思わず声を張った。

「綺麗事かもしれないけど!乗り越えます!どうか!お願いします!」

数秒の沈黙の後、父の声。

『………好きにしろ。』

「……ありがとう。父さん」  

電話が切れた。

「奏はこれで大丈夫。安心して。何があっても、別れる気はない。」

そして、霧矢くんが身体をそっと抱き寄せた。

そのままベッドに押し倒し、額を合わせる。

「浮気、勘違いでよかった。もう“都合のいい男”なんかにならなくていい。俺の恋人は、奏だけだ。」

「……うん……」

掠れた声。
頬を赤らめて、霧矢くんの胸に顔を埋める。

霧矢くんは首筋に唇を寄せ、低く囁いた。

「……ねぇ、このまま、いい?」

「……うん……」

唇が触れ合い、世界が静まった。

「奏、愛してる。」

「……僕も……」

この先、辛いことの方が多いし、すれ違うことも今回みたいに勘違いすることもあるかもしれない。

それでも、僕ら一緒にあることを選んだ。

今夜は、それでいい。
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