告白

千代田線サディスティック

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告白

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 逆上がりが今できるのかどうか、ふと考えることがある。あの頃はできていたであろうが、さすがに10年ほど経っている。
 10年とは中途半端な年数ではないかと思わないか。少なくとも私はそう思うのである。まだまだ依然として、大人であると確信が持てないでいる。大人と子供というなんとも短絡的な、単調な、陳腐な響きを私は嫌っている。しかしながら、大人という言葉を使うしか言い表せない世界が脳内には広がってしまうのである。どのようにこの気持ちをうまく表現すれば良いのか。そうだ、今度東大卒のあの子に聞いてみよう。たぶん、アダルトと答えるだろうが。
「どうしようか」
彼女が声をかけてくる。
「どうしよっかって」
アイスコーヒーを飲み。ため息を出す。今日はホットコーヒーにするべきだったか。
「何よ。ため息なんか出しちゃって。無責任にもほどがあるわ。」
「そんなこと言ったって、今すぐ答えを出すことなんて不可能さ。君こそ無責任だと思わないのかい。告白から5分も経ってないんだぜ。」
 16時30分。コーヒーブレイクにすればヘビーではあるが、この後のディナーで告白されるよりは、いささかましではあるだろうか。
 日本を変えよう、なんて昭和な気概は私の大学時代には皆無に等しく、自分を変えよう、なんて令和的な雰囲気に呑まれることなくここまで来てしまった。少しでもインターンなりバイトなりに励むことをすれば、今回の告白にも動揺しなかったであろう。いや、様々なことを見下してきていた私にとって、そのよう選択肢はなかったはずである。
 彼女はしかめっ面を崩さない。
「そういうところが嫌なところなのよ」
少し理屈っぽいか、と反省しながらも私はなおも考える。
店のおしゃれなBGMは私の思考を大きく加速させている。

「お前はいつも寝ているな」
3年5組の担任の数学講師は言う。数名のクラスメイトは笑いをこらえきれていない。
「じゃあいつ寝るんだ。俺は数学なんかこれっぽっちもしたいなんか思っていない。」
「なんだと」
「ああ、そうさ。国語や世界史をしたいんだ」
「入試に関係なくても勉強するべきだぞ。無駄だと思うことが結局無駄じゃなかったりする。」
耳にタコができるほど聞いたそんな言葉を聞き流し、私はさらに深い眠りへと誘われた。

「あの時数学をしとけばな」
「え、なんか言った」
「いや独り言さ」
「数学って聞こえたけど」
「ああ、数学とは言ったけど別の話さ」
 そうだ、別の話だ。インターンもバイトもこの話とは関係ない。じゃあ何があればこの時の決断を軽くすることができるんだ。温まることのないコーヒーを飲み干し、周りを眺める。
 高校生のカップルらしき、そのダサくとも美しい制服を身に纏う男女がテスト勉強に励み、この近辺に住んでいるであろうユニクロのフリースをきているおじいさんがなんだよくわからない古本を片手にアイスコーヒーを飲んでる。
 その数名が私にはとても羨ましく思えた。それは今回に限った話ではない。就寝時に、今日野菜を食べてなかったことを大きく悔やみ、通勤時に昨日の雑務のミスについて大きく悔やみ、それでいて、今までの人生に少量の後悔しかない私だからこそ普通に、凡庸に生きたいのである。
「なあなあ」
「なによ」
「そう怒るなって、とりあえずいいんじゃないのか」
「本当に?」
「本当さ。今までに嘘をついたことなんて一度もなかっただろう。」
「浮気1回だけね」
「またその話かよ」
会計を済ませると、私たちは新宿へ向かった。
22歳、大人はまだまだ見えてこない。
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