真夏

千代田線サディスティック

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試合

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 真夏を嫌いになることは、高校時代で終わりだと思っていた。大学生や社会人になると、汗はかいても暑さのせいではないはずだ。

「友則、早くしろよ」
「悪い悪い」
館内は涼しい。逆に言えば、なぜ外などに出ていかなければならないのか。
「試合だから仕方ないだろ」
友則の心の中を読んだかのように、賢治は嘆く。
「相手はもう待ってるんだぞ」
「だから、こんな真夏にテニスの大会なんか開くなっていってるじゃないか。テニス初心者がなんでボコボコにされにこのクソ暑い中運動しなくちゃいけないんだ」
「じゃあ、秋だったら喜んで出てくれるのかよ」
「秋は学校があるだろう」
「土日は?」
「ばか、遊びたいに決まってるだろ」
コートに着くと、緑のTシャツを着ている二人組がラリーを行なって待っていた。やはりだ、ボコボコにされる。
「まず」
と友則は思うのである。緑を着ている時点で強いに決まっているのだ。錦織も緑だし、ナダルも緑だ。そしてテニスボールの色も緑だし、ウィンブルドンの芝の色も緑だ。
「オレンジを着て活躍した選手がいたかよ」
「錦織が着てた時期があったはずだよ」
なるほど、余地はあるのかもしれないと、心は落ち着いた。
 試合は散々だった。6-0。
「これで3戦全敗じゃねーか。賢治が勝てるって誘ってくるから出てやったのによ」
「んなこと言ってない。俺だってサッカーしかしてきてなかったんだ。勝てるなんて試合始まる前から1ミリも思ってなかった」
「あーあ、早く涼みに行こうぜ」
「俺は運営があるんだよ」
テニスができないくせになんで他のサークルと大会なんて開いて運営なんて真夏にしているんだ。だから、俺たちのサークルからは4人しか参加してないんだ。しかももう2人は1つ下の後輩だ。
「もしなんかできることあったら手伝うぜ」
「最高かよ。とりあえず、そこの本部席に座っといてくれ。トイレ行ってくるわ」
「わかった」
本部席といっても机が2つ、椅子が4つあるだけ。もちろん真夏。友則は、一番右の椅子に腰掛け、貼り出されているリーグ戦の表を眺めた。Bグループの1番下に友則と賢治の名前があった。
「見事に、運営の予想通りじゃないか」
さっき戦った相手が下から2番目に書いてあることにいささかの不満を感じながら、友則はタバコを吸い出した。緑のユニホームを着た2人の女子が日焼け止めを塗り直しながら、木陰で話している。彼女たちは試合に負けたのであろうか。たぶん勝ったはずだ。サンバイザーをしている女子は強い。
「一方で」
帽子をかぶって、ライブTシャツを着ている彼女たちは絶対に負けたはずだ。ほら見てみろ、靴だってニューバランスじゃないか。
「先輩、ボロ負けじゃないですか」
「あ、ああ」
ライブTシャツを着ている彼女たちが話しかけてきた。
「どうせお前たちも負けたんだろ」
「なんでわかるんですか!」
「そんなもん着てるからだぜ」
彼女たちは少しも悔しそうではなかったし、真夏そうでもない屈託のない笑顔をしている。
「今夜どこか飲みにでも行かないか」
「3人でですか?」
「賢治入れてやってくれよ」
今日はビールが美味しいはずだ。友則は、大学生で真夏を味わうことのよさを感じ始めている。
「私たちお酒飲めないです」
「じゃあなんで、こんな暑い日にわざわざ負けにテニスなんかやりに来たんだ?」
「うーん」
少し考えて彼女は答えた。
「真夏だからですよ」
友則は真夏を履き違えていたように感じた。真夏は苦の対象だった。しかしながら、それは苦ではないのかもしれない。決して楽ではないし、快でもない。しかし、苦でもない。
 彼女たちの真夏の使い方を見習わなければならない。
 友則はそう考えながらも、これからの大学生活の中で真夏を感じることは今日だけであろうなと一人笑うのであった。
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