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1巻
1-1
しおりを挟む第一章
僕は、御剣蓮。
社会人三年目の二十四歳。
春眠暁を覚えず。
寝心地のいい気候の中、僕はその言葉通りベッドで布団にくるまり睡眠を堪能していた。
「ひぃちゃーん! ダーーイブッ!」
ドゴッ!
「おぼっ!?」
元気な声をあげながら僕のお腹に飛び乗ってきたのは、今年五歳になる年の離れた妹の向日葵。
うっうう……い、息ができない……
気持ちのいい時間が生死を彷徨う時間に変わるなんて……
「にぃに! お! は! よ!」
ひまちゃん――向日葵は明るい表情と声で僕を呼んだ。
「ひ、ひまちゃん。お、おはよう……も、もう少し優しく起こしてくれると嬉しいな……」
僕は痛みに耐えながら、息も絶え絶えの中、絞り出すようにしてそう言った。
僕たちは二十歳も年が離れているし、ひまちゃんはいつも愛嬌溢れる明るい表情をしているため、僕は溺愛しすぎて強く叱れない。
「蓮兄! そろそろ起きないと遅れるよぉ! あ、起き……た?」
そう声をかけてきたのは、高校二年生の妹の桜。
悶絶する僕を見て、起きたのか死んだのかを怪しんで疑問形になったみたいだ。
桜は容姿端麗で頭脳明晰。
運動は得意ではないが、家事全般もこなせる超ハイスペックな美少女。
他校から見に来る男子が後を絶たないほどモテるらしいが、僕にしてみればその男子たちに殺意を抱いてしまう。
僕は蹲りながら桜に向けて親指を立てて、辛うじて生きていることを示した。
「ひぃちゃんがおこしたの! えらい!?」
ひまちゃんは自慢げな表情で桜にそう聞いた。
「うんうん。偉いよぉ。そして可愛いよぉ」
ベッドで蹲る僕をよそに、桜はひまちゃんを抱き締めながら褒めると同時に愛でるように頬擦りをした。
妹たちの楽しそうな表情を見るたびに、絶対にこの笑顔だけは守るという気持ちが込み上げる。
なぜなら僕は、この家の世帯主にして、桜とひまちゃんの保護者だからだ。
僕の産みの母親は、僕が幼い頃に他界した。
その後、中学三年生のときに父親が再婚して、そのときに連れ子としてやってきたのが小学一年生の桜だった。僕が大学二回生の時にひまちゃんが産まれたのだが、僕が社会人になってすぐに父親と継母が旅行中に飛行機事故に遭い、この世を去ってしまったのだ。
以降、僕が保護者となり、僕たちは三人だけで支え合って生活している。
「蓮兄は今日も遅いんでしょ? ご飯作っておくから温めて食べてね。はい。こっちはお弁当」
僕の回復を待ってから移動したリビングで、桜はそう言いながら、職場に持っていくお弁当を手渡してくれた。
「くぅぅ。可愛くて気配りまで出来て……なんていい妹なんだ。いつもありがとう」
「毎日泣かないでよ。可愛いのは否定しないけどね」
桜と僕は血のつながりがない。
しかし、出会って間もないときからずっと兄として慕ってくれる大切な妹だ。
「本当にいつもありがとね。もっと好条件の所に転職できるように頑張るよ!」
僕が桜にそう言ったのには訳がある。
なぜなら僕が新卒で入社したのは不運にも、超がいくつあっても足りないほどのブラック企業だったのだ。
僕はそこの営業部に所属している。
パワハラ、モラハラは当たり前。
定時は十八時だが、なぜか二十一時から始まる会議。
終電を逃すのが日課になりつつあり、社員の中には職場に泊まる猛者も現れ始めているが、僕は妹たちとの時間を少しでも増やすために、終電を逃しても帰宅できるように自転車通勤をしている。
僕は産みの母親を亡くしたショックを忘れるために違うことに没頭しようと、小さいときから剣道や空手を習って体を鍛えていたため、人一倍身体が丈夫なのがせめてもの救いだ。
「桜の料理は最高だからね。今日も一日頑張るぞぉ!」
「私たちのために働いてくれてありがと。でも、無理はしないでね」
「ひぃちゃんも! ひぃちゃんも、ようちえんがんばる!」
僕と桜の話を聞き、ひまちゃんは無邪気に力こぶを作って見せてきた。
ひまちゃんは、僕の父と継母――つまり桜の産みの母との間に生まれた子。
僕にとっても桜にとっても血のつながった大切な妹だ。
天真爛漫で自由奔放。無邪気で愛嬌があり、誰からも好かれる性格をしている。
御剣家の中心的存在だ。
「ひまちゃんもありがとう」
僕はそう伝えながらひまちゃんを抱きあげた。
ひまちゃんは預かり保育を利用しながら、幼稚園へ通っている。
飛行機事故はひまちゃんが二歳のとき。
当時は毎日泣き続けていたが、今では泣いていたことも、そして両親のことも多くは覚えていないようだ。
僕も桜も、ひまちゃんが寂しい気持ちにならないように、ことあるごとに抱き締めたり、頬擦りをしたりして、愛情を伝えることが癖になっている。
幸せをこれ以上壊さないために、そして妹たちを守るために、僕が頑張るしかない。
そう心に誓う日々だ。
ブーブーブー。朝の幸せな時間の邪魔をする着信がスマホからなる。
「蓮兄。電話なってるよ」
「ああ。この時間の電話なら大丈夫だよ」
出勤、通学前の朝早い時間。
この時間になる電話は一つしかない。
両親の事故の賠償金を狙っている親戚どもの電話だ。
そのお金は妹たちの将来の為に手つかずのままにしてある。
奴らは朝、昼、晩と毎日連絡してくる。
投資の話を持ちかけたい銀行からの電話ですら昼と夕方の二回だというのに。
まったく……熱心なことだ。
「交流なんて全然なかったくせに……」
クズどもが……
「蓮兄……」
「大丈夫。適当に対応しておくから任せときな」
桜に呼ばれて自分が顔をしかめていることに気がついた。
桜は察しがよく、優しい性格だから要らぬ心配をかけたくない。
「さぁ、今日もみんなでがんばるぞー!」
「おー!」
僕が無理やり暗い雰囲気を変えようと声を張りあげると、ひまちゃんはいつも無邪気に乗ってくれる。
よかった。
ひまちゃんの楽しそうな様子を見て桜の表情も明るくなった。
「よーし! じゃあ今度のお休みはみんなでピクニックでも行こっか」
「やったー! ぴっくにっく! ぴっくにっく!」
ひまちゃんは感情が動きに出るなぁ。
リズムも振りつけもいつも独創的。
うん。うん。うちの子は可愛い上に天才だな。
「暖かくなってきたしいいかもね」
桜もピクニック案に賛同してくれた。
ピクニックといわず、異世界にでも行けたら……
上司にこき使われることもない。
意味不明なパワハラも残業もない。
親戚からの鬱陶しい連絡もない。
そんな現実逃避の妄想が頭を過った瞬間。
俺たち三人を挟むようにフローリングと天井から光り輝く模様が浮かびあがった。
ゲームや漫画で幾度となく見たことのある魔法陣に形が似ているが、僕は考えるのをやめてすぐさま妹たちの方に動き出した。
「掴まれ!」
「きゃぁ! なにこれ!?」
「にぃに! ねぇね!」
考えている暇はない。
僕は咄嗟に妹たちを抱き寄せたが、為す術もなく、光が僕たちを包み込んだ。
目を開けると、僕たち三人は何もない白い空間にいた。
「大丈夫か?」
僕は二人にそう尋ねる。
「う、うん。たぶん……」
「ひっく……ひっく……」
桜は「うん」と答えてはいたが不安そうにしているし、ひまちゃんは泣くのを必死で我慢している。
何が起こったのかは全然分からないけど、桜とひまちゃんに怪我はないようでひとまず安心した。
僕がしっかりしないと。
そう思い、かける言葉を探していると、後ろから声がした。
「驚かせてしまいましたね。どうか落ち着いてください」
優しく聞き心地のいい綺麗な声。
振り向くとそこには、純白のドレスに身を包んだ美しい女性がいた。
淡い黄色の長く美しい髪に淡い水色の瞳。
純白のドレスから見える細い腕と豊満な胸。
綺麗……って見惚れてる場合じゃないぞ。
とにかく妹たちを守らないと。
僕がそう思って妹たちの前に立つと、ひまちゃんが後ろで小さく呟くのが聞こえた。
「おひめさま?」
ひまちゃんの言葉も頷ける。
でもなんというか……もっと神々しいというか……女神……?
「私はクロノス。今、ご想像されている女神に相違ありません」
心を読まれた!?
でも怖い感じはしないな。
ひまちゃんに微笑んでるし……悪い女神じゃないのかもしれない。
「女神様が何の御用でしょうか?」
心が読まれている以上、詮索は無意味だ。俺は女神にそう質問した。
「この度、皆さんは今までとは異なる世界に召喚されることとなりました」
聞けば、クロノスさんは時空神と呼ばれ、世界を管理している女神の一柱なんだとか。
僕たちの世界では使用されていない魔素と呼ばれるエネルギーを異世界へ送り込むため、数百年に一度くらいの頻度で、僕らの世界の住人を異世界に召喚や転生させているらしい。
「異世界では魔法や錬金など様々な形で魔素が消費されます。皆さんの世界にたとえると火を使うと酸素が消費されるようなものです。同じように植物など自然の力で、少しずつ魔素は回復するのですが、消費が大きく魔素の回復に時間がかかることがあります。そのような場合は、緊急措置として、魔素を消費しない世界の人を召喚や転生させることで世界の壁に穴を開け、異世界へ魔素を送るのです」
そして今回、僕たちは異世界に存在する肉体に精神のみが送られる転生ではなく、精神や肉体ごと異世界に召喚されるというのだ。
「なぜ僕らを?」
僕はクロノスさんに尋ねた。
だって人が急にいなくなれば騒ぎになる。
生きた人間を異世界に送るよりも、死んだ人間の精神を異世界へ転生させる方が、色々と影響が少ないはずだ。
「ご……です……」
ん? なんだ? 何て言ったんだ?
「え? すみません。時空神様。聞き取れませんでした」
「誤召喚ですぅ! ごめんなさぁぁい!」
僕が尋ねると、クロノスさんは涙を流しながら、はっきりとした口調で答えた。
ごしょうかん……?
誤召喚!? こいつ今、誤召喚って言った?
桜を見ると、僕同様にややキレ気味の表情を浮かべている。
幸か不幸か、僕と桜の心を読んでしまったクロノスさんは、怯えながら説明を始めた。
「ほ、本当はお亡くなりになられたご両親の魂を転生者として異世界へ送る予定だったんです。死後、魂が転生に適応できる状態まで少し時間がかかります。今回は時期を見計らって行ったのですが、ご両親の魂があまりにも強く皆様のそばにいらっしゃったので、照準を誤ってしまって……」
なるほど。
照準を誤って僕たちに合わせてしまったのか。
誤召喚と言った意味は分かったけど、とんでもないことになってしまったな。
「ギリギリで、なんとか転生ではなく召喚に切り替えたのですが、止められてなくてですね……」
クロノスさんがそう言うと、桜が近寄って冷徹な微笑を浮かべたまま尋ねた。
「どういうことですか?」
一瞬しか表情は見えなかったけど、これはかなり怒ってるときの表情だな。
たぶん「戻れないとか言ったら容赦しないぞ。この駄神が……」とか考えてるんだろうなぁ。
普段大人しい人が怒ると怖いっていうのは本当だ。
「ひぃぃぃぃ! ごめんなさぁぁい! もうしませんからぁ!」
さらなる悲鳴をあげるクロノスさん。
「もうしませんっていうか、もう一回あってたまるかよ……」
僕は呆れながら思わず声に出してツッコミを入れてしまった。
そこから、クロノスさんは桜にこってり絞りに絞られ、登場したときの神々しさも威厳も雰囲気もボロボロと崩れてしまっている。
もはや駄女神だ。
しかし、いくら文句を言っても召喚される事実は変えられない。
僕たちが異世界に行くことは確定事項のようだ。
転生じゃなくて召喚なのがせめてもの救いだな。
別の生物になったり、姿形が変わったりすることはないらしい。
間違いを犯した張本人のクロノスさんと他の女神たちが話し合った結果、謝罪として、僕たちには女神の加護や高ステータスなどの特典が与えられることとなったそうだ。その説明も兼ねてこの場を設けたのだという。
「本当にごめんなさぃぃ」
トテトテトテ。
泣きじゃくりながら謝り続けるクロノスさんのもとに駆け寄る足音が響いた。
「いいこいいこ。こわいことないよ」
そんな状況を見かねたひまちゃんが近寄り、クロノスさんの頭を撫でたのだ。
幼稚園児に慰められる女神など前代未聞だろう。
「うぅ。女神様ぁぁぁ」
クロノスさんがひまちゃんに向かってそう言った。
女神に女神認定された幼稚園児も前代未聞だ。
おそらく人類史上初の快挙だろう。
「僕としては異世界に召喚されてもいいんだけど……」
ブラック企業での社畜。
そして金の亡者どもの相手。
僕にとって元いた世界は、戻れるとしても戻りたい場所ではない。
僕は桜とひまちゃんがそばにいるなら、異世界でもどこへでも行く覚悟を決めた。
「わ、私は……ううん。私も蓮兄とひまちゃんがそばにいるなら大丈夫」
桜には何か言いたいことがあったのかな。
言葉を飲み込んだようにも見えたけど……
でも今聞いても元の世界に戻れるわけじゃないしな。
何を言おうとしてたのかは機を見て聞こう。
「ひまちゃん。これから新しいお家にお引越しすることになったよ」
僕がそう伝えると、ひまちゃんは普段の明るく可愛い顔からは想像もできないほどに嫌そうな表情を浮かべて答えた。
「え……やだ……」
心優しいひまちゃんならば「だいじょうぶだよ」と言ってくれるのではないかという駄女神と化したクロノスさんの期待を裏切り、ひまちゃんは簡潔に答えた。
「おともだちあえないの……? ひっく……」
そう言ってひまちゃんは目いっぱいに涙を浮かべた。
御剣家には五つだけ絶対破ってはならないルールがある。
通称、五大禁忌。
その中の一つ。
『家族を悲しませるな』にクロノスさんは抵触した。
ここでいう家族とは主にひまちゃんのことだ。
涙を浮かべるひまちゃんを見て、僕と桜は純然たる怒りを込めてクロノスさんに視線を向けた。
「お、おおお、おお、おおお、お友達は私が用意するから! すっごく優しくて強いお友達をすぐに用意するから!」
僕たちの心を読まずして脅威を察知したクロノスさんが叫んだ。
「すっごくやさしいけど、すっごくつおいの!?」
九死に一生。いや、万死に一生を得るチャンスと言わんばかりにクロノスさんはたたみかけた。
「そ、そそそそ、そうよ! すんごく強いんだから! もうね、最強だから! 絶対安心! 一緒にいて超楽しい!」
「つおくて、たのしいの!?」
女神と言えど誰かに怒られるのは怖いらしい。
「そ、そうなの! だからお願い! もう、本当に一生のお願い!」
クロノスさんはそう言いながら今まで見たことのないほど綺麗な土下座をし始めた。
「んー。そっかぁ。じゃぁいいかなぁ」
ひまちゃんは何やら想像してニヤニヤしている。
クロノスさんの命懸けの願いが届き、ひまちゃんの機嫌が直った。
「ありがとうございますぅ!」
僕と桜の「次、泣かせたら許さないからね」という心を読んだのだろう。
混じり気のない、心からの感謝を伝えながらクロノスさんは額を床につけた。
もはやどっちが女神か分からない。
「どこにいても三人一緒なら大丈夫。僕が必ず守るから」
僕はひまちゃんを抱きあげ、桜に寄り添いながら言った。
「うん」
「あい!」
覚悟を決めると、この空間に来たときと似た魔法陣が発動し、光が徐々に強まった。
「向こうについたら、すぐにお友達を向かわせますのでご安心ください」
僕たちはクロノスさんの言葉を聞きながら、再び光に包まれた。
それから少しして、目を開けると僕たちは大自然の中にいた。
目の前に広がるのは美しい湖と草や花。
周辺は白神山地を彷彿させる、木々が生い茂る大自然。
「綺麗……」
桜は壮大な自然を見て感動したのか、言葉を漏らした。
「ぷーるだぁ!」
湖を見てはしゃぎだすひまちゃん。
「ちょっと待ってねぇ」
危ない危ない。しっかり抱っこしておこう。
ゲームやラノベのような世界なら湖にモンスターがいるかもしれない。
近づいて襲われでもしたら……
「すぐに最強のお友達が来るらしいから待ってようね」
僕はひまちゃんに向かってそう声をかけた。
ひまちゃんからすると、異世界じゃなくて自然の多い公園に遊びに来たのと変わらないんだろうな。
「湖の水がこんなに綺麗なら飲めるかも。そしたら水の心配はなくなるね」
僕がそう桜に話しかけると、桜は「そうだね。魚とかいたら食料も一旦は大丈夫だね」と冷静に答えた。
桜は……落ち着いてるな。
いや、僕もか。
なんだか頭が冴えている。
次に僕は耳を澄ませた。
動物の鳴き声や鳥の羽ばたく音などは何も聞こえない。
微かに聞こえるのは川のせせらぎと、見慣れない草木が微風で揺れる音だけだ。
「周りには何もいないようだね」
家族三人が揃ってるんだから、慌てずに安全と衣食住、日用品の確保をする方法を考えよう。
僕があれこれ考えていると、風が吹き、木の葉が舞った。
「お待たせいたしました。レン様、サクラ様、ヒマワリ様ですね」
そう言って木の葉吹雪の向こうから現れたのは、新緑の葉でできた髪をなびかせている淡い緑の瞳の女性。
ピンクの花と緑の蔓や葉の柄が描かれた白く美しいシンプルなワンピースを身に纏っている。
それにしても胸が大きい。
目のやり場に困る。非常に困る。
「そうです。優しくて強いお友達というのはあなたですか?」
僕はその女性の胸などまったく気にしていないという顔で答え、質問を返した。
落ち着け。
気取られるな。
目を見て話すんだ。
視線を逸らすな。
「はい。私は植物の精霊。名をユグドラシルと申します」
落ち着いた優しい声と表情をしているからなのか、返事を聞く前から敵ではないと思っていたけど、どうやら思い違いじゃなかったみたいだ。
「ようせいさん?」
「ふふふ。妖精族とは少し異なる存在です」
妖精族?
この世界には人間以外にも色んな種族がいるのかな?
「皆さまをお守りするように料理神フローラ様から命を受け、参りました」
「クロノスさんじゃなくて?」
僕はユグドラシルさんにそう尋ねた。
「はい。料理神フローラ様は植物や豊穣など食に関するすべてを司る方です。私はフローラ様に生み出されました。植物を生み出したり操ったりすることができます。この世界の案内役だけでなく、衣食住の全ての面で皆さまのお役に立てるため、適任ではないかとお選びいただきました」
聞けば、ユグドラシルさんは植物魔法を操り、家や家具、草木で衣類を作ることも、必要な野菜を生み出し育てることも可能だそうだ。
これは最高の人選。
いや神選かもしれない。
「たとえばこのようなこともできますよ」
そう言ったユグドラシルさんは、地面を隆起させて大地や山を地面に描き、植物で彩り、地図を描いていく。
「おぉ!」
これが魔法なのだろうか。
「この世界の名はテルセニアといいます」
ユグドラシルさんによれば、今いるのはルークス大陸の上部にある湖の左側辺りだそうだ。
「街までは結構遠いんですね」
「本当だね。なんでこんな大自然の中に召喚させられたの?」
俺がそう質問すると桜も気になっていたようで後に続く。
「はい。皆さまがピクニックに行きたいと話されていたのでこの地にしたと、時空神クロノス様からうかがっております」
たしかに、家でそんな話をしていたのは間違いない。
でもここまでの大自然に来るとは思わなかったな。
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