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第一部
第09話
しおりを挟む義兄ラルドは最近忙しいようだ。たまに疲れたようにため息をつく様子が見られた。お茶の時間が流れる日もあった。
「お義兄さま、今日のお茶にも来られないのかしら?」
「急な来客の様です。今しがたカードが届きました」
カードには短めにだがお茶に行けないと詫びが書かれていた。領主の仕事は多岐にわたる。詳しくはわからないが何かあったのだろうか?
「シア?もう寝てしまったかな?」
「お義兄さま?」
珍しく夜ラルドが寝室に顔を出した。会うのは二日ぶりだ。夜に顔を合わせるのは子供の時以来かもしれない。エルーシアはベッドの中で身を起こしてベッドサイドのランプを明るくした。
「まだお仕事を?」
「いや、終わったから休むところだ。最近お前の相手ができなくてすまない」
「いえ、私でよければ何かお手伝いできませんか?」
ベッドに腰掛ける疲れたような義兄が心配だ。自分も侯爵家の血を継いでいる。そういうことも知っておかなければならないはずだ。ラルドが嬉しそうに目を細めエルーシアの頭を撫でた。
「いや、大丈夫だ。お前は側にいてくれるだけでいい。こうやって顔を見れば癒される」
エルーシアのことを何かと気遣い心配する義兄。同じ歳なのに子供の様に甘やかされる。でも何もできない。せめて義兄の為に何かできないだろうか。頭を撫でていたラルドがふと手を止めた。
「少し見ない間に綺麗になったね」
「そう‥でしょうか?」
「ああ、眩しいくらいだ」
実は侍女たちからもその様に言われる。特に何もしていないが、あるとすればエデルのせいかもしれない。内心どきりとして視線を逸らす。ラルドが目を細めエルーシアの肩を抱き寄せた。
「シア、久しぶりにおやすみのキスをしてもいいか?」
「いいですよ?懐かしいですね」
ラルドには子供の頃に毎夜おやすみのキスをしてもらった。その後別邸に移り住んでそれも無くなってしまった。昔のことを思い出し頬にキスだろうとエルーシアは目を閉じるが、柔らかいものが唇に押し当てられエルーシアは目を見開いた。キスの意味も気持ちよさもエデルに教えられているから知っていた。
「あ‥おに‥」
「家族のキスだ。別に問題ない」
「そう‥なんですか?」
確かにドーラは娘のドロシーによくキスをしているがそれは頬だ。口ではない。でも義兄のキスは嫌ではなかった。エデルのキスに似ている。柔らかく甘い。家族だからだろうか。それに優しい義兄の言うことだ。大丈夫と言うのならそうなのだろう。
「おやすみ、愛しいエルーシア」
「おやすみなさいお義兄さま」
再び柔らかく口づけられエルーシアの思考はそこで停止した。
ラルドは日中多忙で来客も多い。ここ数年麦の不作が続いているせいらしいとドロシーから聞いた。親族との折り合いも悪いらしい。
「仲が悪いの?」
「どうやら旦那様が正当な当主ではないと思われているようです」
「正当な当主ではない?」
ラルドは四年前に爵位を継いで当主になっている。何を今更そんなことを?
「なんでもトレンメル家の御嫡男は代々赤毛なんだそうです。でも旦那様はそうではないので‥」
「え?ただそれだけで?」
「そのようです」
ドロシーも戸惑った様子だ。ただ赤毛ではないだけで嫌われている。それは理不尽ではないだろうか。色々と苦労もあるだろうにそういうこともラルドはエルーシアに話さない。心配させない様になのかもしれないがそれも寂しいと思った。
ラルドは毎晩眠る前にエルーシアの寝室にやってきて少し話をする。そしてエルーシアを抱きしめお休みのキスをする。そうするとラルドが少し元気になっているように見えた。
「私はお前に甘えているな」
「そうでしょうか?でもお義兄さまのお役に立てているのなら嬉しいです」
「ああ、凄く癒されてるよ。シアのおかげだ」
義兄の腕の中は甘く暖かい。甘えているのは自分の方だ。包み込むような腕の中で何度も口づけられエルーシアは甘美の息を吐いた。抱きしめた手がエルーシアの背中を這い腰から尻、太ももを撫でる。子供の頃からラルドはエルーシアを抱きしめたくさん撫でてくれた。夜毎義兄の触れる愛撫が増えるもエルーシアはそれをそういうものだと受け入れていた。
昔と同じ、ラルドに触れられる全てが気持ちいい。ラルドの腕の中でエルーシアはうっとりと目を閉じた。
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