【完結】R18 狂惑者の殉愛

ユリーカ

文字の大きさ
10 / 78
第一部

第09話

しおりを挟む



 義兄ラルドは最近忙しいようだ。たまに疲れたようにため息をつく様子が見られた。お茶の時間が流れる日もあった。

「お義兄さま、今日のお茶にも来られないのかしら?」
「急な来客の様です。今しがたカードが届きました」

 カードには短めにだがお茶に行けないと詫びが書かれていた。領主の仕事は多岐にわたる。詳しくはわからないが何かあったのだろうか?

「シア?もう寝てしまったかな?」
「お義兄さま?」

 珍しく夜ラルドが寝室に顔を出した。会うのは二日ぶりだ。夜に顔を合わせるのは子供の時以来かもしれない。エルーシアはベッドの中で身を起こしてベッドサイドのランプを明るくした。

「まだお仕事を?」
「いや、終わったから休むところだ。最近お前の相手ができなくてすまない」
「いえ、私でよければ何かお手伝いできませんか?」

 ベッドに腰掛ける疲れたような義兄が心配だ。自分も侯爵家の血を継いでいる。そういうことも知っておかなければならないはずだ。ラルドが嬉しそうに目を細めエルーシアの頭を撫でた。

「いや、大丈夫だ。お前は側にいてくれるだけでいい。こうやって顔を見れば癒される」

 エルーシアのことを何かと気遣い心配する義兄。同じ歳なのに子供の様に甘やかされる。でも何もできない。せめて義兄の為に何かできないだろうか。頭を撫でていたラルドがふと手を止めた。

「少し見ない間に綺麗になったね」
「そう‥でしょうか?」
「ああ、眩しいくらいだ」

 実は侍女たちからもその様に言われる。特に何もしていないが、あるとすればエデルのせいかもしれない。内心どきりとして視線を逸らす。ラルドが目を細めエルーシアの肩を抱き寄せた。

「シア、久しぶりにおやすみのキスをしてもいいか?」
「いいですよ?懐かしいですね」

 ラルドには子供の頃に毎夜おやすみのキスをしてもらった。その後別邸に移り住んでそれも無くなってしまった。昔のことを思い出し頬にキスだろうとエルーシアは目を閉じるが、柔らかいものが唇に押し当てられエルーシアは目を見開いた。キスの意味も気持ちよさもエデルに教えられているから知っていた。

「あ‥おに‥」
「家族のキスだ。別に問題ない」
「そう‥なんですか?」

 確かにドーラは娘のドロシーによくキスをしているがそれは頬だ。口ではない。でも義兄のキスは嫌ではなかった。エデルのキスに似ている。柔らかく甘い。家族だからだろうか。それに優しい義兄の言うことだ。大丈夫と言うのならそうなのだろう。

「おやすみ、愛しいエルーシア」
「おやすみなさいお義兄さま」

 再び柔らかく口づけられエルーシアの思考はそこで停止した。



 ラルドは日中多忙で来客も多い。ここ数年麦の不作が続いているせいらしいとドロシーから聞いた。親族との折り合いも悪いらしい。

「仲が悪いの?」
「どうやら旦那様が正当な当主ではないと思われているようです」
「正当な当主ではない?」

 ラルドは四年前に爵位を継いで当主になっている。何を今更そんなことを?

「なんでもトレンメル家の御嫡男は代々赤毛なんだそうです。でも旦那様はそうではないので‥」
「え?ただそれだけで?」
「そのようです」

 ドロシーも戸惑った様子だ。ただ赤毛ではないだけで嫌われている。それは理不尽ではないだろうか。色々と苦労もあるだろうにそういうこともラルドはエルーシアに話さない。心配させない様になのかもしれないがそれも寂しいと思った。
 ラルドは毎晩眠る前にエルーシアの寝室にやってきて少し話をする。そしてエルーシアを抱きしめお休みのキスをする。そうするとラルドが少し元気になっているように見えた。

「私はお前に甘えているな」
「そうでしょうか?でもお義兄さまのお役に立てているのなら嬉しいです」
「ああ、凄く癒されてるよ。シアのおかげだ」

 義兄の腕の中は甘く暖かい。甘えているのは自分の方だ。包み込むような腕の中で何度も口づけられエルーシアは甘美の息を吐いた。抱きしめた手がエルーシアの背中を這い腰から尻、太ももを撫でる。子供の頃からラルドはエルーシアを抱きしめたくさん撫でてくれた。夜毎義兄の触れる愛撫が増えるもエルーシアはそれをそういうものだと受け入れていた。
 昔と同じ、ラルドに触れられる全てが気持ちいい。ラルドの腕の中でエルーシアはうっとりと目を閉じた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...