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Ⅰ ヒロイン、俺。
006: ケモノ現る
しおりを挟むどちらの手に落ちても俺はバッドエンドだ。
なんでこんなことに?!この状況から無事に逃れる術は?考えろ!考えろ!
必死に思考する俺をよそに英雄二人は俄然やる気だ。
「いつもいつも俺とルキアスの邪魔をしやがって。ちょうどこの聖女をボコボコにしたいと思っていたところだ。俺が勇者となり真に解放された聖剣の力、その身でとくと味わうがいい!」
「聖女の私に歯向かうとは‥愚かですわ。そんななまくら剣が神器に敵うと思いまして?神罰を下しましてよ!ルキアス様は私のものですわ!」
ぎゃぁぁッ 聖剣に神器?!
一騎当千クラスの英雄二人にさらにヤバい武器。こんなとこでガチ乱闘なんて!俺のいないとこでやってくれよ!!
血の気が多いなこの二人。めちゃくちゃ似てるんじゃね?!なんだかんだと気もあっているしお似合いだって!もう俺抜きで結婚しちまえよ!!
逃げようにもいつの間にか張られた強力な結界で逃げられない。部屋が壊れることもないが俺が逃げられない。俺が退路を探している間に聖剣と神器が光を放ち出した。もう時間がない!
こんなの!バケモノ二人が無傷で巻き込まれた俺だけが死ぬパターンじゃないか?うわぁ!こいつらガチでヤる気だ!その力は魔王討伐にとっておけよ!!
このピンチを誰か救ってくれる強いヤツいないのか?!誰でもいい!
誰か俺を助けに来い!!
俺が目をぎゅっと瞑って力一杯念じた。
その時———
ズドンと地鳴りと共に俺の体が跳ねた。とても大きいものが落下してきたような衝撃。または直下型地震か?だが地震ならあるはずのその後に続く横揺れがない。そして何か妙な音がする。今にも斬り合いそうだった王子と聖女も流石に動きを止めて辺りを窺っている。
「———なんですの?」
「気配がする。これはなんの‥‥」
だが俺の耳にはさらに気になる音が聞こえてきた。近づいてきている。なぜか俺はその音の意味を忘れていた。
ん?ゴロゴロ?なんの音だったかこれ?
そして耳をつんざく様な轟音が響いた。視界を奪うようなフラッシュから俺は咄嗟に目と身を庇うも耳は間に合わなかった。とんでもない音に鼓膜が慄いている。
それは落雷だった。俺の目の前、結界の外、窓の外の中庭に黒い雷が落ちた。その衝撃で地面が黒く抉れて辺りの木が燃えている。建物は窓際が巻き込まれて粉々に壊れている。原型を留めていない壊滅の様子に落雷の破壊力がわかるが聖女が張った結界の中は無傷だ。眩さで光の残像が残るも目が慣れた頃に俺の目の前に獣の姿が現れた。それは翼もないのに天からふわりと降り立った様に見えた。
四本足でキラキラと輝く金色の毛皮を纏う獣。それもとてつもない大きさ。バスよりさらに大きい。それを見た俺の喉がごくんとなった。驚愕はしているが不思議と恐怖はない。
犬?いや‥‥これは狼だ。
俺と金色の狼が見つめ合う。狼の体は大きいが見つめてくる目が優しい。懐かしい。これは知っている。以前飼っていた犬と同じだ。俺に懐いている動物の目。その狼が顔を反らせおもむろに巨体をしならせた。聖女が張ったであろう最上級の結界が紙切れのようにあっさり砕け散る。
「ルキアス!」
「ルキアス様!」
俺の元に駆け寄ろうとする王子と聖女に狼が睨みつける。その一睨みで英雄二人の足が止まった。どうやらこの魔獣が何か魔法をかけたようだ。
勇者と聖女、猛者二人に術をかける。この魔獣、相当に強いぞ?
俺の願いに応じて現れた魔獣。これはつまり俺の使い魔ってやつか?俺の敵ではないと獣の目を見ればわかる。俺に害意はない。俺と何かしらの力でつながっている。こいつは俺の味方だ。
俺はひとまず変態英雄二人から逃げたい。そしてこいつらにはさっさと俺抜きで魔王討伐の旅に出て行ってもらいたい。
ん?こいつは使えるんじゃないか?
俺は脳内で念じてみる。俺を拐え、と。そうすれば狼がこくんと頷いた。よくよく見れば狼が目を細めて笑った様に見えた。空気も読める。この獣、どうやら知能も高いようだ。話が早いな。
グルルと英雄二人に威嚇の唸り声を発した後に悪役顔の狼は俺の襟もとを咥えてひょいと摘み上げた。親犬が仔犬を運ぶアレですな。ぶらんと体が宙に揺れる。中々の高度でぎょっとしたがここは演じどころだ。がんばれ俺!
「あーれー。おたすけー。つかまってしまった。(棒)」
「ルキアス!くそ!体が動かん!ルキアスをどうする気だ?!」
「聖女の私が!そんな!ルキアス様を放しなさい!!」
俺の演技が大根なのは仕方ないだろ!役者でもない一般人がぶっつけで演技なんかできるもんじゃない。だが二人は疑いもせずあっさり乗っかってくれた。ノリノリだ。チョロすぎるだろ?
「殿下ーフェリシア様ーたすけてー(棒)」
「あぁルキアス!助けに行く!待っていろ!」
「ルキアス様!必ず参りますわ!それまでどうか!」
英雄二人は演技じゃないんだが、いっそ二人の方が熱演だ。聖女様は涙まで流している。
ヒロイン(俺)、魔族に拐われる(続く)
ってか。何だこの三文芝居。俺の方が恥ずかしくなってきた。
ここで俺はトドメのキメゼリフを吐いた。
「待っておりますー、魔王討伐を!必ず助けに来てく(棒)」
セリフの途中で狼は俺を咥えたまま、森の闇の中に飛び込んだ。その体が俺の大根セリフと共に闇の中に溶け込む。
おい!俺のセリフ位最後まで言わせろよ!
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