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Ⅱ メガミ、俺。
019: ✕✕降臨
しおりを挟む俺がふわりと立ち上がった。傷は深い。血も流れているのにお構いなしだ。瀕死の重傷のはずなのに、痛みは麻酔が注入されたようにどこかに消えていた。俺、超絶美少女が傷だらけの血まみれで空を飛ぶ竜を見上げていた。なかなかに猟奇的である。
「愚かな‥‥逃げていれば万一にも生き延びる可能性があったものを。所詮下等は下等‥‥ガンド」
『おそばに』
魔狼が俺にうやうやしく頭を下げる。それは王に傅く騎士のようだ。魔狼の毛皮が眩しいほどに光を放っていた。それは初めて俺と出会った時と似ていた。こいつと繋がった魔狼の力が解放されているとわかる。
「制裁を。潰す」
『畏まりました』
あれを倒す。そう言った。だが言ったのは俺じゃない。俺の中にいた誰か、それが今俺を動かしている。俺は意識体としてそれを見ているだけ。突然現れたこいつに肉体の支配権を完全に奪われた。
人族があれ程の傷を負った。致命傷、俺は死んだと竜は思った。飛んでいれば魔狼の攻撃も届かない。ドラゴンの負った傷も深いが勝ちを確証したのだろう。竜の誇らしげな鳴き声が聞こえた。逃げないのはその嗜虐性が故だ。だがそれがこの竜の命取りになった。
「うるさい」
不快げな呟きとともに俺が動く右手をドラゴンに突き上げた。同時にガツンと硬い音がする。竜が障壁に激突する音だ。予想外の展開に驚いたドラゴンは逃れようと羽ばたくも何かに阻まれて飛び回れていない。まるで見えない檻に閉じ込められているように。
俺が突き上げた手をぞんざいに下ろす。手の動きに連動するように竜が地面に叩きつけられた。地面を抉る程の衝撃で地響きがした。ぐしゃりと竜の骨が折れる嫌な音、それでも竜がそこから逃れるために羽ばたこうとする。
「動くな」
俺が右手で指差した先、地面から鋭い剣が大量に突き出して竜を串刺しにした。正確には剣ではない。これは鉱物、水晶の結晶が針のように竜を突き刺していた。さながら竜は剣山で貫かれているよう、貫かれた竜の足が水晶と化し剣山と同化、竜の動きを封じている。盾や鎧にも使われる程の硬度を誇る竜の鱗を難なく貫いていた。
これは"万物の支配者"たる女神の力。こいつは女神の力を使いこなしている。
「いけ」
俺の低い声で魔狼が風のように駆けていく。そして動けずに苦痛でもがくドラゴンの喉笛に噛み付いた。喉笛を噛み砕く音が響く。魔狼はその勢いのままにドラゴンを仰向けに押し倒した。ドラゴンの背が水晶の剣山に貫かれた。これで完全に動きを封じられた。
あれ程手こずった竜をこいつと魔狼であっさりと拘束。力の差は歴然、呆気ない程に圧倒的だ。
血濡れた口でドラゴンの喉笛を咥えたまま、魔狼がこちらを見た。
え?これは‥‥
全身の骨が砕かれ剣山に貫かれ喉笛を噛み砕かれても竜は生きていた。四肢がちぎれようとも生命力が強い竜は心臓が動く限り生き続ける。
俺がゆっくりと竜に近づいていく。手近に突き出した水晶を一本気だるげに引っこ抜いた。それが俺の右手の中で細身の剣となる。
え?え?ちょっと待って!まさか?
助走なしのジャンプで俺はふわりと竜の胸の上に乗った。鼓動脈打つ胸の上を歩きながら俺が何かを探すように剣先で鱗の上をトントンと叩いている。そしてある箇所で手を止めた。それは竜の心臓の真上。
倒す。それは命を奪うこと。
わかっていたはずなのに。
「理より外れたものよ、これはお前が負った報いだ」
俺が止める間もなかった。
それは一瞬だった。俺の翳した右手が躊躇いなく振り下ろされ、剣が竜の心臓を鱗ごと貫いた。細い剣がめり込み引き抜かれた箇所から赤い血があふれ出す。その無慈悲な一突きで竜は苦しむことなく絶命した。
理に反するものは等しく罰が下される。女神はそう言っていた。拘束のために苦痛は与えられたが懲罰に酷さはなかった。罪は死のみで贖われる。そこに慈悲はない。怨嗟も暴虐もない。だから竜はその瞬間苦しまなかった。
万人に公平なる断罪者、
公平が故にこいつはどこまでも冷徹だ。
そして初めて俺は理解した。
ああ、こいつは‥‥
こいつが魔王だ
その直後、俺の中の魔王が突然、跡形もなく消えた。まるで蒸発したように。肉体の支配権が急に俺に戻った。いきなりの状況に驚くも、同時にとんでもない激痛が襲いかかってきた。先程の負傷の痛みの比じゃない。竜の腹の上で膝をついてうずくまるも痛みはひどくなる。
「グッ アアァァァッ」
『陛下!』
「ぁん‥‥だこれ‥‥いた‥‥‥ッ」
『陛下!』
体を転がしてのたうつ俺の周りをポメが困ったようにうろうろしている。その間も身を切り裂かんばかりの激痛が続いていた。体の中でバキバキと何かが壊れる音がした。うつ伏せから俺は必死に動かないはずの左手をポメに差し出した。目が曇るのは血が汗か涙か。
「いたぃ‥‥‥いたぃ‥‥‥たすけ‥‥‥」
『ああ陛下!おいたわしい!』
「ポメ‥‥いやだ‥いやだ‥よぉ‥おれ‥‥しに‥たくなぃッポメ‥‥たすけ‥ゲホッ」
吐き出したものは血、ああ、俺はやはり死ぬのか?鼻血も出てる?もうヤバい。
せっかく異世界に転生出来たってのに短い人生だったな。痛いの嫌だって言ったのに。俺に戦闘とか、やっぱこんなの俺には無理ゲーだったんだよ。期待に応えられなくてごめん、俺の嫁。大好きだったよ。もっとイチャイチャしたかった。先立つ不幸を許してくれ。あぁ、痛い‥俺はもうダメだ‥‥来世では必ず幸せにす———
『我が主!お気を確かに!魔王は死にません!神の器は死ぬことはありません!』
ポメの衝撃発言に俺の意識がうっすら戻った。
へー?俺死なないの?すッげぇ、さすが俺。
じゃあこの激痛ずっと続くんじゃね?
おいおい、これって生殺しじゃん?勘弁してよ。
激痛で朦朧とする思考の中でそんなことを考えて。そして死なない俺は諦めて唯一できる逃避に入った。
俺は意識を手放した。
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