【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
21 / 114
Ⅱ メガミ、俺。

019: ✕✕降臨

しおりを挟む



 俺がふわりと立ち上がった。傷は深い。血も流れているのにお構いなしだ。瀕死の重傷のはずなのに、痛みは麻酔が注入されたようにどこかに消えていた。俺、超絶美少女が傷だらけの血まみれで空を飛ぶ竜を見上げていた。なかなかに猟奇的である。

「愚かな‥‥逃げていれば万一にも生き延びる可能性があったものを。所詮下等は下等‥‥ガンド」
『おそばに』

 魔狼が俺にうやうやしく頭を下げる。それは王にかしずく騎士のようだ。魔狼の毛皮が眩しいほどに光を放っていた。それは初めて俺と出会った時と似ていた。こいつと繋がった魔狼の力が解放されているとわかる。

「制裁を。潰す」
『畏まりました』

 あれを倒す。そう言った。だが言ったのは俺じゃない。俺の中にいた誰か、それが今俺を動かしている。俺は意識体としてそれを見ているだけ。突然現れたこいつに肉体おれの支配権を完全に奪われた。

 人族があれ程の傷を負った。致命傷、俺は死んだと竜は思った。飛んでいれば魔狼の攻撃も届かない。ドラゴンの負った傷も深いが勝ちを確証したのだろう。竜の誇らしげな鳴き声が聞こえた。逃げないのはその嗜虐性が故だ。だがそれがこの竜の命取りになった。

「うるさい」

 不快げな呟きとともに俺が動く右手をドラゴンに突き上げた。同時にガツンと硬い音がする。竜が障壁に激突する音だ。予想外の展開に驚いたドラゴンは逃れようと羽ばたくも何かに阻まれて飛び回れていない。まるで見えない檻に閉じ込められているように。
 俺が突き上げた手をぞんざいに下ろす。手の動きに連動するように竜が地面に叩きつけられた。地面を抉る程の衝撃で地響きがした。ぐしゃりと竜の骨が折れる嫌な音、それでも竜がそこから逃れるために羽ばたこうとする。

「動くな」

 俺が右手で指差した先、地面から鋭い剣が大量に突き出して竜を串刺しにした。正確には剣ではない。これは鉱物、水晶の結晶が針のように竜を突き刺していた。さながら竜は剣山で貫かれているよう、貫かれた竜の足が水晶と化し剣山と同化、竜の動きを封じている。盾や鎧にも使われる程の硬度を誇る竜の鱗を難なく貫いていた。

 これは"万物の支配者"たる女神の力。こいつは女神の力を使いこなしている。

「いけ」

 俺の低い声で魔狼が風のように駆けていく。そして動けずに苦痛でもがくドラゴンの喉笛に噛み付いた。喉笛を噛み砕く音が響く。魔狼はその勢いのままにドラゴンを仰向けに押し倒した。ドラゴンの背が水晶の剣山に貫かれた。これで完全に動きを封じられた。

 あれ程手こずった竜をこいつと魔狼であっさりと拘束。力の差は歴然、呆気ない程に圧倒的だ。

 血濡れた口でドラゴンの喉笛を咥えたまま、魔狼がこちらを見た。

 え?これは‥‥

 全身の骨が砕かれ剣山に貫かれ喉笛を噛み砕かれても竜は生きていた。四肢がちぎれようとも生命力が強い竜は心臓が動く限り生き続ける。

 俺がゆっくりと竜に近づいていく。手近に突き出した水晶を一本気だるげに引っこ抜いた。それが俺の右手の中で細身の剣となる。

 え?え?ちょっと待って!まさか?

 助走なしのジャンプで俺はふわりと竜の胸の上に乗った。鼓動脈打つ胸の上を歩きながら俺が何かを探すように剣先で鱗の上をトントンと叩いている。そしてある箇所で手を止めた。それは竜の心臓の真上。

 倒す。それは命を奪うこと。
 わかっていたはずなのに。

「理より外れたものよ、これはお前が負った報いだ」

 俺が止める間もなかった。

 それは一瞬だった。俺の翳した右手が躊躇いなく振り下ろされ、剣が竜の心臓を鱗ごと貫いた。細い剣がめり込み引き抜かれた箇所から赤い血があふれ出す。その無慈悲な一突きで竜は苦しむことなく絶命した。

 理に反するものは等しく罰が下される。女神はそう言っていた。拘束のために苦痛は与えられたが懲罰にむごさはなかった。罪は死のみであがなわれる。そこに慈悲はない。怨嗟も暴虐もない。だから竜はその瞬間苦しまなかった。

 万人に公平なる断罪者、
 公平が故にこいつはどこまでも冷徹だ。

 そして初めて俺は理解した。

 ああ、こいつは‥‥

 こいつが魔王だ



 その直後、俺の中の魔王が突然、跡形もなく消えた。まるで蒸発したように。肉体の支配権が急に俺に戻った。いきなりの状況に驚くも、同時にとんでもない激痛が襲いかかってきた。先程の負傷の痛みの比じゃない。竜の腹の上で膝をついてうずくまるも痛みはひどくなる。

「グッ アアァァァッ」
『陛下!』
「ぁん‥‥だこれ‥‥いた‥‥‥ッ」
『陛下!』

 体を転がしてのたうつ俺の周りをポメが困ったようにうろうろしている。その間も身を切り裂かんばかりの激痛が続いていた。体の中でバキバキと何かが壊れる音がした。うつ伏せから俺は必死に動かないはずの左手をポメに差し出した。目が曇るのは血が汗か涙か。

「いたぃ‥‥‥いたぃ‥‥‥たすけ‥‥‥」
『ああ陛下!おいたわしい!』
「ポメ‥‥いやだ‥いやだ‥よぉ‥おれ‥‥しに‥たくなぃッポメ‥‥たすけ‥ゲホッ」

 吐き出したものは血、ああ、俺はやはり死ぬのか?鼻血も出てる?もうヤバい。
 せっかく異世界に転生出来たってのに短い人生だったな。痛いの嫌だって言ったのに。俺に戦闘とか、やっぱこんなの俺には無理ゲーだったんだよ。期待に応えられなくてごめん、俺の嫁。大好きだったよ。もっとイチャイチャしたかった。先立つ不幸を許してくれ。あぁ、痛い‥俺はもうダメだ‥‥来世では必ず幸せにす———

『我が主!お気を確かに!魔王は死にません!神の器は死ぬことはありません!』

 ポメの衝撃発言に俺の意識がうっすら戻った。

 へー?俺死なないの?すッげぇ、さすが俺。
 じゃあこの激痛ずっと続くんじゃね?
 おいおい、これって生殺しじゃん?勘弁してよ。

 激痛で朦朧とする思考の中でそんなことを考えて。そして死なない俺は諦めて唯一できる逃避に入った。

 俺は意識を手放した。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...