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Ⅱ メガミ、俺。
018: 憤怒
しおりを挟む「んー?あのドラゴンの弱点ってなんだ?」
『弱点ですか?』
「属性ってやつ?ドラゴンにはドラゴンタイプだったよな?あとはフェアリー?フェアリータイプなんて魔導ないぞ?あともう一つ弱点あったようなー?なんだったかな。毒効くか?確か初期魔導にポイズンがあったな」
『毒の霧を今吐いていますのであれに毒は無理かと』
「あれ?これそーなん?」
『はい、毒ブレスです』
「おお!これもかの有名な!定番ブレス!」
俺とポメでのほほんと紫の霧を見上げた。
なんかドラゴンがぶわぁって毒々しい色のブレス吐いたなーっと思ったら文字通りの毒ブレスか。紫色納得。じゃあ俺の毒攻撃効かないな。って今俺のターンじゃん!何さらっと連続攻撃してるんだよ!
背後をちらりと見やれば青ざめたお姉さん方は結界で守られていた。毒ブレスは洒落にならん。結界があってよかった。あの咆哮にも耐えられたんだからあの結界凄いんじゃね?さすが魔導士のお姉さん!
ドラゴン登場で怯えてるのかな?安心させようと俺が笑顔で手を振れば皆さんに更に目を剥かれた。ドラゴンの毒ブレス中にのん気すぎたか。まあ当然だが毒も俺には効かない。
咆哮に毒ブレス。悶え苦しむはずが鼻ホジ並に平然とする俺らに竜は苛ついているようだ。俺の隣に魔狼が進み出た。
『ドラゴンに魔導は相性がよくありません。我が露払いを。陛下は隙を見てブスッとトドメを』
「だーかーらー、無理だって言ってんだろ!てかお前は戦って大丈夫なのか?」
『心配ご無用、陛下の矛となり盾となる、それが我の役目でございます』
魔狼を相手にドラゴンが不敵に笑ったようだ。見た目人族の俺に一歩下がり従う魔族、明らかにポメを見下している。だが実際はこいつは魔王の最強の守護獣だ。
ゴブリン使い、咆哮、毒ブレス。ドラゴンなら自らの直接攻撃で一瞬で殲滅できるだろうに、繰り出す技は間接的にじわじわ相手を苦しめいたぶるものばかり。それがこの竜の本質なのだろう。
おそらくこのドラゴンは今まで多くの街や村をゴブリンに襲わせていた。一息には殺さない。殺戮や蹂躙を好む。だから人族に残虐なゴブリンを使う。嗜虐性——血に酔ったこいつはもがき苦しむ様を見て悦に浸っていたのだろう。
弱肉強食なら仕方ない。身を守るため、命を繋ぐための争いだ。だがこれは違う。快楽のための殺戮はこの世の理から外れる。
全てはこの世界の理の元に、魔王である俺が判断しろと女神は言っていた。
ならばこいつは殲滅に値する。
「俺の最強の守護獣、あれを狩ってこい」
『仰せのままに』
金色の魔狼は俺にうやうやしく頭を下げた後、ドラゴンの前に歩み出た。
ポメは強い。それはわかっている。
だが今の状況はよくない。竜はずる賢かった。
こいつは魔狼ではなく俺たちに攻撃を仕掛けてくる。ポメは俺を庇ってそばを離れられない。圧倒的に強くても踏み込んだ攻撃ができない。一方竜は尻尾やブレスを吐いて好き勝手に攻撃してくる。
ポメが俺たちを庇うとわかっていてこいつはわざと俺たちを攻撃している。ポメは身を挺して俺たちを庇う、結果竜の一方的なタコ殴りだ。
俺たちがここから離れられればいいが、毒ブレスが漂う中でお姉さんたちの結界を解いて逃げることはできない。そうとわかってドラゴンも毒ブレスを吐きまくっている。
こいつ、俺達をなぶり殺すつもりか?!このままじゃ強いこいつでもいつかは負ける。ジリ貧だ。迷っている場合じゃない!
「ポメ!こっちに構うな!」
『しかし』
「行け!俺たちは大丈夫だ!」
こいつを倒さないと結局俺たちは殺される。なら撃って出るしかない。お姉さんたちは結界に守られている。俺は防御の術はないがなんとかしよう。最悪さっきの最終兵器ぶっ放してやる!
俺の意図を理解し腹を括った魔狼が竜に飛びかかった。予想外の魔狼の反撃に竜は驚いたようだ。ドラゴンの尻尾を咥え引きづり魔狼が竜を崖に打ちつけた。これは効いただろう。ドラゴンの威嚇が響き渡った。
魔狼が竜の手に噛み付いてブチブチと引きちぎった。魔狼はのたうつ竜を抑え込みさらに鋭い牙で羽を引き裂いている。魔狼が寝技で竜を押さえ込んでしまえば竜は俺たちを攻撃できない。そうなれば魔狼の独壇場だ。
すげぇ‥‥ポメ強ぇ。一方的じゃないか。味方でよかった。
と、地面にねじ伏せられ悶える竜の口がパカッと開いた。それは俺に向いていた。ずっと毒しか吐かなかった竜の口が初めて炎を吐いた。火炎放射が俺に襲いかかってきた。咄嗟に身を庇うも俺は炎耐性もあるのか熱さは全くなかった。俺どんだけなんだ?
だが魔狼の意識が俺に逸れた。その一瞬で竜が魔狼の拘束から抜け出し飛び立った。
あっという間のこと。魔狼から逃れ飛び立った竜がその勢いのままで尻尾を崖に打ちつけた。それは俺の真上。間違いない、こいつは俺を狙った。
崖から岩が俺めがけて大量に落ちてくる。避けるにも俺の足ではもう間に合わない。岩を防ぐ術もない。あの最終兵器だって今から発動とか無理だ。
毒耐性も火耐性もあった。だが物理耐性は?この体はどれだけの防御力があるのだろうか。
咄嗟に背後の結界を見やった。おそらくあそこには岩は落ちないだろう。剣士のお姉さんが結界の中で俺に手を伸ばす。だがそれは俺に届かない。
ポメが飛び込んできて俺を落石から庇うがそれさえすり抜けた鋭い岩が針のように降って俺の体を引き裂いた。衝撃で俺の体が跳ね上がる。仰向けに倒れる瞬間、駆け寄るポメの動きが妙にゆっくりに見えた。
『陛下!!』
鉄の匂いがする。左手が動かない。右足も感覚がない。内臓もやられている。仰向けから体を動かそうと身動ぎすれば激痛が走った。
「ぐぁあああッ」
『陛下!!』
視界が赤い。切れた額から血が流れて目に入ったせいだろう。動く右手を目の前にかざせば血のりで赤く染まっていた。
血‥‥‥血が流れている‥‥赤い‥‥
浅い呼吸の中で血を見た俺の体が痙攣したようにガクガクと震え出した。
「いやだ‥‥‥血は‥‥もう」
脳の中で映像がフラッシュのようによぎるも早すぎてよくわからない。誰かが叫んでいる。鼓膜を破るような爆音。破壊された部屋。そして血みどろの女性が俺を庇うように抱きしめている。瞳孔が開く。もう震えが止まらない。
この震えの意味は?寒さ?恐怖?それとも?
これはいつの記憶だ?
『陛下!お気を確かに!陛下!』
俺を気遣うポメの声が遠い。必死に語りかけてくれるが俺はそれどころではない。激痛の中、ドクドクと血が滾る音がする。酷い悪寒、意識の混濁。もうこの音しか聞こえない。そしてドス黒い何かが腹の底から湧き上がる。それは理不尽な暴力に対するもの。唸るような声が俺の口から出た。それは誰の声だったか。
「‥‥よくも‥‥よくも‥‥」
『‥‥この私の身に傷を‥‥』
「下賤の分際で‥‥許さん‥‥絶対許さんぞッ」
俺と女神、そしてもう一人誰かの震える怒りがひとつになった。
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