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Ⅲ ハンター、俺。
028: 偉大なる魔王ルキアス様
しおりを挟むまだ陽も高い。テントを建てる前に俺はすることがあった。不審者の職務質問だ。
「どれ、じゃあ署でちょっとお話を聞かせてもらえませんかね?」
「なんじゃ?今忙しい。わらわは話などないぞ」
「ほう?どの口がそんなことを言うのかな?」
魔王の俺に対して任意同行拒否。いい度胸だ。
魔狼に笑顔で抱きつく魔女っ子の首根っこを摘み上げて暴れるのを無視して倒木に置いた。召喚で降って来たから俺の味方だとは分かるがまだ得体が知れないわけで。
「お前、何者だ?」
『ご安心を!これは我の妹です!』
魔狼が自慢げに紹介したんだが。
「いやいや、まずそこからツッこもうか?こいつが魔狼のお前の妹?人の形をしてるぞ?」
魔狼の妹が魔女っ子。明らかに種族が違う。それに完全なる人型を有しているのは魔族では”神の器“の俺だけのはずだろう?だがこいつも人の形をしてるじゃないか!
『我らは同じ血の海より生まれし兄妹、姿形が違えど血は繋がっております』
「わらわはヒトではないぞ。魔族じゃ』
「それは知っているって。じゃあナニモンだ?」
「魔女じゃ」
「魔女?」
それは見たまんまだが。
あれ?魔女って種族?職種じゃなく?
「わらわは大いなる魔女の娘、その強大な力で一国を平定した」
「国を?平定?」
「先週建国した。わらわは女王じゃ。真の力が解放されれば蘇生も可能じゃ。そんなわらわがおれば千人力じゃろう?」
魔女っ子はドヤ顔だがその話はまんま信じられない。
大いなる魔女?女王?建国?このちっこいのが?口調が偉そうだと思ったが女王だったから?蘇生は聖女でもできるかできないかの大技だ。話半分に差し引いてもちょっとない。子供のホラか?
その俺の冷ややかな反応に魔女っ子が足をダンダン踏み鳴らして不満を吐き出した。
「この姿は!お前のせいじゃ!魔王が封じられてわらわや兄者も弱体化しておる!大いなる魔女の娘であるわらわがなぜこのような姿に!さっさとなんとかせんか!この威風堂々とした兄者があんなに可愛い仔犬とか!神罰ものじゃ!でもあの兄者も大好きじゃ!」
キャーッと黄色い声をあげて魔狼に抱きつくデレデレ魔女っ子。こいつ、ブラコンか。ポメも妹を可愛がっているようだし見た目は合わないがいい兄妹だ。一人っ子の俺としてはちょっと羨ましい。
俺とこいつらは繋がっている。俺が封じられたことでこいつらにも影響が出ているということだ。魔王と繋がった魔狼があれだけ強かったからそういうことなんだろう。だがそれも俺のせいじゃない。
おっと、そういやこいつの名前が変だったな。
「んで?お前の名前は?」
「わらわの名はへるぅじゃ!一度で覚えんか!」
「んー?なんだって?ぇるぅ?」
「違うッへるぅじゃ!」
へ(小)ぇ(↓)るぅ(↑)
発音と上げ下げが難しい。ヘルじゃないのか?こいつの滑舌が悪いだけ?何度やり直しても魔女っ子からダメ出しが出る。あぁもうめんどくせぇ!!
「もういいわ!お前今日から"るぅ"な」
「ちがーうッ へるぅ!勝手に短くするな!」
「1音落とした程度でぎゃあぎゃあ騒ぐな!ポメもそう呼んでんだろが!」
「兄者はベッカクだからいいのじゃ!お前には許さんぞ!無礼者が!」
「無礼はどっちだ!」
「お前じゃ!ならばお前のこともルキと呼ぶぞ!」
おいおい、主たる魔王様相手に2音落としの呼び捨てか?幼女相手に大人気ない?いやいや、これは目上のものからの愛情、教育的指導だ!
「俺の名はルキじゃないぞッ"偉大なる魔王ルキアス様"だッ 一言一句落とすこと許さんからな!」
「魔王が封じられたヨワヨワのお前なぞ2音で十分じゃ!ルキッ」
「ぁんだとこのヤロゥッ」
俺がデコピンをしようとした手を払い魔女っ子が飛び上がった。華麗な回し蹴りが俺に飛んできたが足技が来るのは初回登場時に学習済みだ。なかなかにいい魔女っ子の蹴りを左手で受けて右手でタイツを履いた足を掴み投げ飛ばす。そこを華麗に回転して魔女っ子はシュタッと着地。こいつ、手‥‥もとい足が早いな。そして猫のようにすばしっこい。
魔女っ子なのに魔法なし?肉弾戦なのはどうよ?
教育的指導のはずが兄妹げんかのようになった。一触即発な睨み合いにポメが仲裁に入った。
『まぁまぁここは一つ穏便に』
「お前!妹に甘すぎるぞ!」
『あれは神なる海より生まれ出た際に陛下のおそばに控えること叶いませんでした。今後陛下のお力を目にすれば自然と畏怖の念が湧いて参りましょう。どうぞ長い目で見てやってくだされ』
ぐぅ。俺が大人になれと。そう言われるとこれ以上キレては魔王の俺がカッコ悪い。ポメは説得も上手いな。
『るぅも良いな?このお方は我らにかけがえのない御方ぞ。言葉使いに気をつけよ』
「はい、わかりました兄者!」
兄貴にはめちゃくちゃ素直だな!腹立つなー!
俺は大人だから!いいけどね!
その後「偉大なる魔王ルキアス様」をことあるごとに連呼されウザさと羞恥のあまりにルキ呼びを許可した。自分で言ったことなんだが、なんだろうこの敗北感は。
とりあえずと前の街で買っておいた乾燥干し肉とパンで食事をして一息入れた。保存食といえど干し肉は美味かった。漬け込んでいるタレのせいかスパイシーで食が進んだ。メシはやっぱ大事だね!
メシを食いながらふと思い出したことを聞いてみた。
「そういやお前、街で急にいなくなっただろ?何してたんだ?」
『申し訳ありません、少々絡まれまして』
「絡まれた?!やはりお前を誘拐しようと!」
『誘拐?いえそうではなく。あの街のボスにお前ナニモノだと聞かれたので。ケンカを売られては無視できませんでした』
「ボス?」
ボス?そんなやついたかな?
俺はパンを頬張りながら考える。
「で?」
『裏路地で真の姿を見せてやりましたところそいつが悲鳴を上げて逃げてしまいまして』
「真の姿?騒ぎにならなかったか?!」
『はい、幸いにも。そしたらそいつの子分共が我に是非ここの縄張りのボスになってくれと」
「ん?」
「我は陛下にお仕えする身、ボスは無理だと断りましたが、手駒がいる分には良いかと思いまして』
「んん?ちょっと待て。お前なんの話をしてる?」
更に話を聞いてわかった。ポメに絡んで来たのはその街を仕切っていた野良犬のボス、ポメラニアン風の魔狼に喧嘩を売ったわけだ。ポメはそいつを威圧し新キングの座につくところだったと。
アイドル犬、ストリートキングを瞬殺。
かっけーな!流石はポメだ。
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