【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
31 / 114
Ⅲ ハンター、俺。

028: 偉大なる魔王ルキアス様

しおりを挟む



 まだ陽も高い。テントを建てる前に俺はすることがあった。不審者の職務質問だ。

「どれ、じゃあ署でちょっとお話を聞かせてもらえませんかね?」
「なんじゃ?今忙しい。わらわは話などないぞ」
「ほう?どの口がそんなことを言うのかな?」

 魔王の俺に対して任意同行拒否。いい度胸だ。

 魔狼に笑顔で抱きつく魔女っ子の首根っこを摘み上げて暴れるのを無視して倒木に置いた。召喚で降って来たから俺の味方だとは分かるがまだ得体が知れないわけで。

「お前、何者だ?」
『ご安心を!これは我の妹です!』

 魔狼が自慢げに紹介したんだが。

「いやいや、まずそこからツッこもうか?こいつが魔狼のお前の妹?人の形をしてるぞ?」

 魔狼の妹が魔女っ子。明らかに種族が違う。それに完全なる人型を有しているのは魔族では”神の器“の俺だけのはずだろう?だがこいつも人の形をしてるじゃないか!

『我らは同じ血の海より生まれし兄妹、姿形が違えど血は繋がっております』
「わらわはヒトではないぞ。魔族じゃ』
「それは知っているって。じゃあナニモンだ?」
「魔女じゃ」
「魔女?」

 それは見たまんまだが。
 あれ?魔女って種族?職種じゃなく?

「わらわは大いなる魔女の娘、その強大な力で一国を平定した」
「国を?平定?」
「先週建国した。わらわは女王じゃ。真の力が解放されれば蘇生も可能じゃ。そんなわらわがおれば千人力じゃろう?」

 魔女っ子はドヤ顔だがその話はまんま信じられない。

 大いなる魔女?女王?建国?このちっこいのが?口調が偉そうだと思ったが女王だったから?蘇生は聖女でもできるかできないかの大技だ。話半分に差し引いてもちょっとない。子供のホラか?

 その俺の冷ややかな反応に魔女っ子が足をダンダン踏み鳴らして不満を吐き出した。 

「この姿は!お前のせいじゃ!魔王が封じられてわらわや兄者も弱体化しておる!大いなる魔女の娘であるわらわがなぜこのような姿に!さっさとなんとかせんか!この威風堂々とした兄者があんなに可愛い仔犬とか!神罰ものじゃ!でもあの兄者も大好きじゃ!」

 キャーッと黄色い声をあげて魔狼に抱きつくデレデレ魔女っ子。こいつ、ブラコンか。ポメも妹を可愛がっているようだし見た目は合わないがいい兄妹だ。一人っ子の俺としてはちょっと羨ましい。
 俺とこいつらは繋がっている。俺が封じられたことでこいつらにも影響が出ているということだ。魔王と繋がった魔狼があれだけ強かったからそういうことなんだろう。だがそれも俺のせいじゃない。

 おっと、そういやこいつの名前が変だったな。

「んで?お前の名前は?」
「わらわの名はへるぅじゃ!一度で覚えんか!」
「んー?なんだって?ぇるぅ?」
「違うッへるぅじゃ!」

 へ(小)ぇ(↓)るぅ(↑)

 発音と上げ下げが難しい。ヘルじゃないのか?こいつの滑舌が悪いだけ?何度やり直しても魔女っ子からダメ出しが出る。あぁもうめんどくせぇ!!

「もういいわ!お前今日から"るぅ"な」
「ちがーうッ へるぅ!勝手に短くするな!」
「1音落とした程度でぎゃあぎゃあ騒ぐな!ポメもそう呼んでんだろが!」
「兄者はベッカクだからいいのじゃ!お前には許さんぞ!無礼者が!」
「無礼はどっちだ!」
「お前じゃ!ならばお前のこともルキと呼ぶぞ!」

 おいおい、主たる魔王様相手に2音落としの呼び捨てか?幼女相手に大人気ない?いやいや、これは目上のものからの愛情、教育的指導だ!

「俺の名はルキじゃないぞッ"偉大なる魔王ルキアス様"だッ 一言一句落とすこと許さんからな!」
「魔王が封じられたヨワヨワのお前なぞ2音で十分じゃ!ルキッ」
「ぁんだとこのヤロゥッ」

 俺がデコピンをしようとした手を払い魔女っ子が飛び上がった。華麗な回し蹴りが俺に飛んできたが足技が来るのは初回登場時に学習済みだ。なかなかにいい魔女っ子の蹴りを左手で受けて右手でタイツを履いた足を掴み投げ飛ばす。そこを華麗に回転して魔女っ子はシュタッと着地。こいつ、手‥‥もとい足が早いな。そして猫のようにすばしっこい。

 魔女っ子なのに魔法なし?肉弾戦なのはどうよ?

 教育的指導のはずが兄妹げんかのようになった。一触即発な睨み合いにポメが仲裁に入った。

『まぁまぁここは一つ穏便に』
「お前!妹に甘すぎるぞ!」
『あれは神なる海より生まれ出た際に陛下のおそばに控えること叶いませんでした。今後陛下のお力を目にすれば自然と畏怖の念が湧いて参りましょう。どうぞ長い目で見てやってくだされ』

 ぐぅ。俺が大人になれと。そう言われるとこれ以上キレては魔王の俺がカッコ悪い。ポメは説得も上手いな。

『るぅも良いな?このお方は我らにかけがえのない御方ぞ。言葉使いに気をつけよ』
「はい、わかりました兄者!」

 兄貴にはめちゃくちゃ素直だな!腹立つなー!
 俺は大人だから!いいけどね!

 その後「偉大なる魔王ルキアス様」をことあるごとに連呼されウザさと羞恥のあまりにルキ呼びを許可した。自分で言ったことなんだが、なんだろうこの敗北感は。


 とりあえずと前の街で買っておいた乾燥干し肉とパンで食事をして一息入れた。保存食といえど干し肉は美味かった。漬け込んでいるタレのせいかスパイシーで食が進んだ。メシはやっぱ大事だね!

 メシを食いながらふと思い出したことを聞いてみた。

「そういやお前、街で急にいなくなっただろ?何してたんだ?」
『申し訳ありません、少々絡まれまして』
「絡まれた?!やはりお前を誘拐しようと!」
『誘拐?いえそうではなく。あの街のボスにお前ナニモノだと聞かれたので。ケンカを売られては無視できませんでした』
「ボス?」

 ボス?そんなやついたかな?

 俺はパンを頬張りながら考える。

「で?」
『裏路地で真の姿を見せてやりましたところそいつが悲鳴を上げて逃げてしまいまして』
「真の姿?騒ぎにならなかったか?!」
『はい、幸いにも。そしたらそいつの子分共が我に是非ここの縄張りのボスになってくれと」
「ん?」
「我は陛下にお仕えする身、ボスは無理だと断りましたが、手駒がいる分には良いかと思いまして』
「んん?ちょっと待て。お前なんの話をしてる?」

 更に話を聞いてわかった。ポメに絡んで来たのはその街を仕切っていた野良犬のボス、ポメラニアン風の魔狼に喧嘩を売ったわけだ。ポメはそいつを威圧し新キングの座につくところだったと。

 アイドル犬、ストリートキングを瞬殺。
 かっけーな!流石はポメだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

物置小屋

黒蝶
大衆娯楽
言葉にはきっと色んな力があるのだと証明したい。 けれど、もうやりたかった仕事を目指せない…。 そもそも、もう自分じゃただ読みあげることすら叶わない。 どうせ眠ってしまうなら、誰かに使ってもらおう。 ──ここは、そんな作者が希望や絶望をこめた台詞や台本の物置小屋。 1人向けから演劇向けまで、色々な種類のものを書いていきます。 時々、書くかどうか迷っている物語もあげるかもしれません。 使いたいものがあれば声をかけてください。 リクエスト、常時受け付けます。 お断りさせていただく場合もありますが、できるだけやってみますので読みたい話を教えていただけると嬉しいです。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

処理中です...