48 / 114
Ⅳ マドウシ、俺。
043: きな臭い?
しおりを挟む「む?ひょっとしてあれがそうか?」
足湯に浸かっているムンクに気がついたようだ。魔女っ子がずんずん近づいていきなりムンクを鷲掴みにした。
「おい!待て!そいつは」
俺は耐性があるからいいがお姉さんがヤバイ!俺はお姉さんの背後から抱きついて咄嗟に耳を塞いだ。普通の人は精神攻撃・ムンクの叫びに耐えられない。俺に抱きつかれて耳を塞がれたお姉さんから悲鳴が出た。うんうん、やっぱ怖いよね。
一方鷲掴みにされてジタバタするムンクに魔女っ子はいい笑顔だ。
「これがキングか。確かに活きが良いぞ。ほぉ、このわらわの前で叫ぶのか?初めて聞くがそれも悪くない。ほれ、存分に良い声で鳴いてみるがいい。じゃがその後おぬしがどうなるかは知らぬがな」
可愛らしい魔女っ子が黒い笑顔でオソロシイ言葉を吐いた。魔女っ子に足を鷲掴みにされたジタバタしていたムンクはそこでるぅの正体を察知したようだ。ムンク顔のまま汗ダラダラのガクブルで硬直した。そして完全に沈黙。結局ムンクの叫びは披露されなかった。
「お前は賢いな、見どころがある。気に入ったぞ。わらわについてこい。きちんと言うことを聞くなら悪いようにはせんぞ?」
捕虜連行?それ、ガッツリ悪党セリフだ。仲良し風に魔女っ子の肩にインコのように腰掛けているが、ムンクすんげー脂汗出してるし。
お姉さんの耳栓を解けばお姉さんはちょっと驚いた風だった。
「え?もう終わり?」
「すみません、急に耳を塞いで。大丈夫だったみたいです」
「そ、そうなんだ?もうちょっと長くてもよかったのに。残念」
「はい?」
よくわからないことを言われたがお姉さんが無事でよかった。お姉さんが笑顔でるぅの頭を撫でている。
「あらあら、すっかり仲良くなったの?叫ばなかったのは珍しいわね。この子すごく態度が大きかったから」
「こいつ、買い戻せませんか?倍払いますので」
「え?買い戻し?どうかしら?」
「わらわが責任持って面倒見るのじゃ。こいつもわらわと一緒がいいと言っている。のう?そうじゃろ?」
魔女っ子に促され壊れたようにぶんぶん頷くムンク。るぅがヤクザのボスのようだ。あんまパワハラすんなよ?
「あらそうなの?なら偉い人に聞いてみないと」
お姉さんからギルドマスターに掛け合ってもらった結果、意外にもオッケーが出た、しかもタダでいいと。
「実はもう株がだいぶ増えてるからその子がいなくてもなんとかなりそうなんだよね」
結構その子肥料食らいだったし?とお姉さんもネタバラシしてくれた。つまりは口減しである。確かにこいつ太ったな。どんだけ肥料食ったんだよ?
というわけで両者円満でムンクの身請けが決定した。餞別に粒肥料までもらってしまった。
るぅがムンクの身体検査に夢中になっている間、俺は受付のお姉さんから情報収集だ。
「なんか以前に比べて魔導士増えてないですか?」
「あー、それね。実は王都がアレって噂よ」
「アレ?」
お姉さんが俺に手招きする。近づけば内緒話をするように俺に耳打ちした。
「きな臭い」
「‥‥‥‥戦争が起こると?」
「んー、ギルド内での噂。まだ内緒ね」
お姉さんは人差し指を唇に当てて俺にウィンク。その仕草にギルド内の男性冒険者がざわついた。このお姉さんも美人で気配り上手、良妻賢母のいい奥さんになるだろうと男の冒険者に大人気だ。そして美少女な俺に何故か刺すような視線。なんで?この展開、いつもと違う?
「ほら、歩兵の徴兵って結構準備いるのよ。武器に鎧とかね。でも魔導士は杖は必須アイテムで自前だし弾は魔力だし飛び道具だしで即戦力なわけ。だから最初に徴兵されるのさ。この間、第一次の魔導士徴兵があったって」
「それは英雄の魔王討伐のせいじゃ?」
「そうとも言い切れない。それならもっと早くに動くはずだし?」
確かにそうだ。タイミングが合わない。
ということは?
「魔導士も色々いてさ、戦闘じゃなくアカデミックに極めたいってのも結構いて?鼻の効く連中はひとまず様子見で最寄りの町に疎開してる感じ。うちはマオウトンネルが開いたから手っ取り早いって人気みたいよ?」
「マオウ街道はまだ開通してないんですよね?」
「舗装はまだ。歩く分には問題ないわ。だから歩きでの往来は結構あるのよ」
納得だ。人族最大の王国ラトスリアが戦争をしかけるのならば、やはり相手は魔族?あいつらは魔族を敵と勘違いしてるようだし。隣国との折り合いは今のところいいはずだ。だが魔王は未だ未確認のはず。この間王子もそう言っていた。ならばどこに撃って出る気だ?
「あ、でもこの間魔王が出たんだって。あの山奥の鉱山の街で」
俺の思考を読んだようなセリフに俺の体がびくりと跳ねた。金鉱の街?俺らがちょこっとだけ滞在したあそこか?
「え?ほんとですか?」
「なんでも魔王がゴーレムで街に攻めてきて?居合わせた英雄軍のメティオストライクに破壊されたって。ホントかしらね?そんな上位魔導士なんて今の英雄にはいないはずなんだけど」
お姉さんの答えに俺は内心安堵の息を吐いた。
あー、びっくりした。こないだの件はそういうことになったのか。身バレしたかと思った。
まあ俺はいいけどね。自分でゴーレムの起動スイッチ押しちゃったから自分で片付けただけだし。ついでにレベルも上がってごっつぁんだった。
別に感謝されたいわけじゃないが、露骨に魔王下げに勇者上げってのが引っかかる。プライドの高いあの王子殿下はこういうのを良しとしないはずだ。これはきっと王宮側の指示なんだろう。
やたら魔王を悪役に置くのは?国威高揚?プロパガンダか?魔王を人族の敵と必死に刷り込んでいるようにも見える。その意図は?
そんなお姉さんが時計を見て嬉しそうに俺に話しかけた。
「あ、もうこんな時間!ねぇお昼まだでしょ?一緒にランチ行かない?私、午後休みなのよ、ルキアスく‥‥ちゃんがよかったらなんだけど」
何やら頬を染めてモジモジするお姉さんにギルド内がさらにざわついた。やはり何やらボソボソ話している。足元のポメがぴくりと耳をそよがせた。
おお、お姉さんからランチのお誘い。だが大体の情報はもう聞けた。正直ガールズトークは苦手なのだ。女子ウケする持ちネタもないし。グループならまだしも一対一だと間が持たないし。それに———
「えーと」
「るぅちゃんも一緒に!ポメちゃんオッケーのケーキが美味しいお店もあるんだよ?ね?どうかな?」
ここでお約束の胃痛がキリキリと。
はい、わかっております。
ギルド内の視線も痛い。ちゃっちゃと撤退だ。
「すみません、この後約束があって。また今度誘ってください」
「え、そ、そうなの?じゃあまた今度!絶対よ!」
残念そうな受付のお姉さんに笑顔で手を振って。男どもからの突き刺すような敵意の視線の中で俺は逃げるようにギルドを出た。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる