【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

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Ⅳ マドウシ、俺。

045: ヒロイン、俺。再び

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 久しぶりの街滞在だ。俺たちは存分に食っちゃ遊び寝て温泉に入りーので。

 あっという間に三日経った。一緒に来るかとポメとるぅを誘ったんだが忙しいと断られた。だから何に忙しいんだ?護衛でついてくると思ったがそこはいいのか?

 というわけで、俺は一人で魔導教室会場に来ていた。入門編ということで会場には俺と同じくらいの少年少女が集まっていた。この教室の教師は現役宮廷魔導士の弟子らしく、能力が優秀なら王都の王立学園への推薦状も出してくれるらしい。かつて俺も在籍していた貴族御用達の王立学園に市民が入学するのはこういった推薦状が必要だ。玉の輿、逆玉の輿を狙う奴らには絶好の機会だろう。
 ほとんどが知り合いか友達参加なのか教室のあちこちで話をするグループが見える。皆身なりがいい、貴族ではないがそこそこ金持ちの子女なんだろう。そこに一人入る俺。苦い記憶が蘇った。

 大学によくあるすり鉢状の大教室の端っこに俺は腰掛け頭のフードを落とした。教室の視線が一斉に俺の顔に集まる。もうこれは慣れた。
 授業は今日一日だけ、そして俺は社交的じゃない。友人は気の合う奴が数人いればそれでいい。よって集まる視線に無視を決め込んでいたがそんな俺に話しかける奴がいた。まあこれも予想はついていた。

「君一人で参加?」

 身なりがいい、でも貴族ではない。「ルキアス」は貴族だったからわかる。こいつは豪商の息子と見た。ぼっちにわざわざ話しかけるのは下心か正義感か。甘いマスクが女子たちの視線を集めていた。

 クラスに一人は居るであろう優等生委員長タイプだ。転校生のぼっちに最初に話しかける英雄。俺にとってはこういう奴は昔からウザいだけだ。最低限の会話を返す。

「そうです」
「そうなんだ。ここにいるやつは昔からの知り合いだから居心地悪いかもしれないけど、仲良くしよう。今日はよろしくね」

 俺は魔導を習いにきた。仲良くなるためにここに来たわけじゃない。皆で仲良く?よろしくね?団体行動強制すんなよ、うぜぇ。イラっときた。
 待て待て、こういう反応するから過去さんざん揉めただろ?ここはうわべだけ取り繕っておけばいいんだ。

「はい、よろしくお願いします」

 俺はきゅるんと笑顔を見せた。この営業スマイルも随分板についたな。破壊力は保証付きだ。無表情からの俺の笑顔に委員長が絶句、男子たちからもどよめきが起こる。一方女子たちから剣呑な視線。中でも金髪の気の強そうな女子から睨まれた。なんでだ?これは過去経験がない。

 そこで教師と思しき年配の女性が教室に入ってきた。エリート教師にありがちな冗談が通じないタイプだろう。

「静かに。これからテキストを配ります。今日一日で基礎を詰め込みますので皆集中するように」

 だろうな。まあ俺は魔導書で予習済みだからこのパートは正直いらない。自分のテキストを一冊とって残りを後ろに回すという配り方だったが最後俺の分が足りなかった。まあよくあるやつだ。別にこんなの要らないが金は払ってるんだしもらう権利はある、と俺が手を上げようとしたところで隣の奴が声を上げた。

「先生、一冊たりません」

 いつの間にか俺の隣に座ったさっきの委員長男子が手をあげた。チッそのぐらい俺もできるのに。そして俺の前に座っていたさっきの金髪女子から鋭い視線。え?何これ?ちょっと嫌な感じがした。
 その後もプリントが来ない、順番飛ばされる、無視されるとちょっとしたトラブル続出だがその都度この委員長が俺を庇う。それがさらに女子たちの怒りを買う。動じない俺にも苛立っているようだ。なんか知らんが今はクラスの全女子を敵に回したようだ。一方で男子からは熱狂的な視線。

 まぁね、鈍い俺でもようやく理解できた。

 これって乙女ゲームの導入か。身分の低い可愛い女子が学園で王子と仲良くなって?悪役令嬢にいじめられるという?また俺はヒロインか。俺、こいつ全然狙ってないんだけど。女子って陰湿だな。ま、俺にとってはへでもない。肝心な魔導発動のコツを聞ければ十分だし。

 退屈な座学に二時間費やして。
 やっと!待ちに待った試し撃ちの時間になった。

「では各自杖を持って外の練習場に集まってください」

 杖?杖って?

 周りを見れば皆ステッキのようなものを持っている。魔導士が持っているあれか。確か魔力上げのバフ機能がついている魔導士必須アイテムだが。ないとダメ?俺バフは要らないし。まあ杖なしでいいだろ。

 なのに委員長が余計なことを言ってきた。

「あれ?杖ないの?」
「えっと、家に置いてきてしまったみたいで」
「じゃあ撃つ時は僕のを貸してあげるよ」

 だから要らんって。下心はなさそうだが優等生のつもりか?偽善だ。初級魔導ごときバフなくても撃てるだろ?そして金髪女子が殺気立っている。
 委員長も杖貸すならあっちに貸してやれって。あぁもうめんどくせぇ!金髪もさ、嫌がらせする根性あるならさっさと告れよ。無駄だろこれ。

 練習場には足の長い燭台にろうそくが一本。いかにもファイア撃てというシチュエーションだ。そして結界の気配。ここなら安全に魔導が撃てる。

 ん?待てよ?ということは?
 結界を張れればどこでも魔導の練習できんじゃね?

「皆さんにはファイアを撃ってもらいます。体内の魔力を感じて集中、高まったところで魔導を放ってください」

 え?そんだけ?俺そこはもうできてるんだけど?どうやったら初級魔導を出せるんだ?なんか上手く発動するコツとかないんか?

 ろうそくめがけて順番にファイアを発動している。ちゃんと火がついている、いいなぁ。女子と男子が交互に撃っていくのだが、当然俺は無視され順番を抜かされている。別に最後でいいし。ホントめんどくせぇ

 そんなことを考えて何気に振り返ると視界の端で誰かが手を振っていた。遠く草むらの暗がりに居たのは魔女っ子るぅ、ポメとスケジもいる。今日は忙しいって言ってたのに見に来たのか?スケジが魔導筆談の巨大文字でフキダシのようにるぅの言葉を一つずつ伝えている。

 チョ ッ ト コ ッ チ 来 イ

 教師の目を盗んで俺は草むらに近寄った。
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