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Ⅴ メシア、俺。
057: 知恵の実
しおりを挟む「お前ら!なんでここに?!」
「あれ?歓迎の準備しとくって僕言わなかったっけ?だからみんな集めたのに。この企画イマイチだった?」
「歓迎の準備?あれは俺をボコボコにするという意味じゃなく?」
「なんで?文字通りの意味だよ」
唖然とする俺に魔女っ子からクレームが飛んできた。
「ルキ遅いぞ!もう少しで先に始めるところじゃった。主賓が来るまで待てと言われて必死で堪えておったのじゃ」
「陛下、よかった。ディートと無事会えましたか。入れ違いになったかと心配してしておりました」
「今食べゴロ、モット焼クヨ」
どう見てもお好み焼きパーティ。なんだこのアットホームな緊張感のなさは。このホットプレートは?またるぅのアーティファクトか?!毎度だが電力どうなってんだ?スケジがエプロンつけているのはソースが飛ぶからか。骨は白いからソースは目立つもんな。
スケジの手元には俺が愛用していた料理本。共働きの両親は帰りが遅い。俺一人の時はこれを見ながら料理をしたが味が最悪だったのは苦い思い出だ。こいつ、こんなものまで再現したのか?文章はこっちの文字になっているが。
そして文字と完成写真しか載っていない本を見てここまで完璧にお好み焼きを再現するスゲジ、お前天才だな。マジ羨ましい。俺、こっちの弟子入りしたい。
「陛下にはちゃんと洞窟の前で会えましたよ。心配いらないっていったでしょ、兄さん」
令嬢がおっとりとちゃぶ台に座りスケゾウの出す茶を啜り出した。侯爵令嬢がドレス姿で湯呑みで茶を飲んでいる、浮きまくりである。だがそれ以上に、その最後のセリフに俺に激震が走った。
「‥‥‥‥‥‥‥‥お前、最後なんてった?」
「兄さん」
「誰が誰の兄さん?」
「魔狼ガンドは僕の兄だよ」
これは!流石に!わからんわ!
無理もないだろう?このやんごとなき令嬢(見た目推定18歳)がポメ少年(見た目推定10歳)の妹!色々おかしいだろうが!!
同じくぽぇぇと茶を啜るポメ美少年に俺は詰め寄った。この展開で殺気立つのは仕方がないだろ?!
「お前!まだ兄弟がいたのか?他には?もういないか?!」
「これで最後です。我ら三兄弟、やっと合流できました」
「朝!お前が会いに行くと言っていたのはこいつか?!」
「はい。本人から連絡が来たのですが、まずは我が確認してから陛下にご紹介しようかと思っていました。ですが、すでに図書館で会っていたとディートから聞いて我も驚きました。すごい偶然ですね」
つまり?俺が魔女っ子が誘拐されたと思って必死に馬を駆っている時間にこいつはのうのうとポメと会っていたと?魔狼を使えばわかるってそういう意味かよ!ひッでぇ!
「ああ!俺も今!全力で驚いているところだ!ホントにこいつはお前の妹なんだな?」
ポメが令嬢を見やり沈黙すること数秒、少年が元気よく返事をした。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい!そうです!」
俺はその間がすごく気になる。何を迷った?お前の兄弟じゃないのか?それとも女じゃないのか?どっちなんだ?
だがまだおかしい。なぜるぅが初見で姉(兄)と気が付かなかった?元はと言えばあそこからおかしくなったんだ。
「前回と姿が違ったからの」
「毎回?」
「今回はまさか令嬢じゃったとは。この姿は初めてじゃった。さすがはあ‥‥姉上じゃ。前は別の姿だったし」
「この姿は先日解放された新しい擬態だからわからなかったね」
「よく似合うのじゃ」
「ありがとう、へるぅ」
性別がよくわからない。皆で俺をからかっているのか?混乱する俺にディートがくすくす笑っている。
スケジが見事な手際でお好み焼きを量産する。久しぶりの和食に俺は感涙ものだ。やはり和食はいい。こっちに来てずっと洋食だらけだったから。やっぱ和食サイコー!
たらふく食べて寝転がる俺。傍らのディートに話しかけた。
「なんで今のタイミングでポメに連絡してきたんだ?」
「兄さんたちが王都に来たのは気配でわかった。せっかくなので会っておこうと。あとは色々とやることあったし。本を読むのに忙しくてね。ずっと図書館に篭っていたから」
なんだと?それは聞き捨てならない。ディートの手招きで俺の部屋に新たにできていたピンク色の扉を潜り抜けた。そこは王都の図書館。俺とディートが初めて出会ったあの書庫だ。
「こ、これは!!」
「図書館と時空を繋いだんだ。どこ◯もドアみたいだろ?」
「いやいや!お前まさか!この!本天国に毎日一日中いたのか?!」
「うん、いたよ。シアワセだったなぁ」
ぽぇぇとするディート。この顔はポメ少年とそっくりだ。さすが兄弟、血は争えない。
だがこれは許せん!うらやまけしからん!活字中毒の俺はずっと苦しんでいたのに、こいつは本の中で暮らしていたと?!どんだけ本の虫だよ!
「書庫の奥の本は誰も呼んでないから持ち出してもバレないし。好き放題できたよ。あ、もちろん本はちゃんと返してるけどね」
俺は本棚からさっきティードが差し出した本を抜き出した。こいつの感性は俺に似ている。ここにある本を手当たり次第に読むよりはこいつのオススメを読む方がいいだろう。そこでずっと気になっていたことを改めて聞いた。
「なんでお前、前世の記憶があんの?」
「だからこれは前世じゃないよ。僕は転生者じゃない」
「じゃあなんだよ。どういうことだ?はっきり言え」
俺の問いにディートがひっそりと目を閉じ静かに語り出した。
「僕たち三兄弟が血の海から生まれた時にそれぞれ能力をもらった。兄ガンドは矛と盾、妹ヘラは支配と創造、僕は知恵の実と無限をもらったんだ」
「知恵の実?」
「僕は生まれた時に君の、魔王の記憶を受け取ったんだよ」
魔王の記憶を持っている。
「つまりお前は」
「君のコピー‥は言い過ぎかな?でも君が知らないことを色々知ってるよ」
初見で感じた違和感、なぜこいつを見てひどく落ち着かなかったのか、嫌な気持ちになったのかわかった。
対峙していたのは俺自身だったから。
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