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Ⅴ メシア、俺。
058: 魔王の封印を解く方法
しおりを挟むだから俺の知っていることも知らないこともこいつはわかっていたんだ。記憶のコピー、それは確かに転生ではない。こいつの一人称が僕なのはそのせいか?
あの問題も俺本人であると確認するためのものだと言っていた。確かにそれはこいつにしか出題することができない。
つまり俺が失った記憶を、こいつは知っている。
そこに思考が至れば俺は思わずディートの二の腕を掴んでしまっていた。
「女神様との事故って?何があった!なぜ俺はこんなことに?!」
「それは知らない。僕の記憶は生まれいでた時点での魔王の記憶、その時はまだ魔王は事故ってなかったし」
「ぐぅ、そうなのか?」
ディートから手を離した俺はうめき声と共に腹の底から息を吐き出した。肝心なところはわからないまま、結局俺が思い出すしかないのか。
「知りたいなら思い出せばいいんじゃない?」
俺の思考を読んだようなディートの言葉に俺がカチンときて顔をあげた。それができれば苦労しないんだよ!
「思い出せてないから言ってんだろ!」
「できなくないよ、魔王の封印を解けばいい」
「封印?解けるのか?」
女神様は俺が強くなれば切り離せると言っていた。俺はもう女神様を切り離すつもりもないが、それ以外で魔王を解放する方法がある?だがディートが語ったものは俺の想像とだいぶ違っていた。
「簡単さ。女神なんてもういらないって思えば魔王の神の器と女神の繋がりは切れて、魔王の封印は解ける」
もういらない?
「‥‥‥‥なにを」
誰が誰を?
出てきたのは自分のものと思えない掠れた声、聞こえた言葉が信じられなかった。
「女神を捨てればいいんだよ。実際君が囲い込んでるでしょ?君の執着で彼女を繋ぎ止めているだけなんだから。君のわがままでこんなところに封じこまれてる女神も可哀想だしね」
その言葉に俺の血が凍った。実際体温も下がったかもしれない。体の震えが止まらない。こいつは何を言ってるんだ?
あの人を捨てる。
それだけは絶対ありえない。
「そもそもさー、中にいるそれ、本当に神様なの?邪霊とかかもしれないよ?」
「‥‥‥‥は?」
「君が神様だって思い込んでるだけじゃない?騙されてるかも。だってさ、本当は神様って天上にいるはずなのになんでここにいるのさ?それって神様の職務放棄でしょ?おかしいよね?」
「‥‥‥‥な」
言ってる意味が全くわからない。彼女は女神で唯一神だ。そこは揺るぎない事実。それなのにディートの言葉を否定できない。俺の額から嫌な汗が流れ落ちる。
「仮に彼女が本当に神だったとしても、天上にいないならもうその資格はないんじゃない?そうだよね?天を追われ堕天した神は僕たちを助けない。だからもうそいつは神じゃない。さっさと切り捨てるべきだ」
「黙れ‥‥」
「君は魔の国の王だ。いつまでそいつと遊んでるつもり?魔王はこの国を安寧に導く救世主、ちゃんと現実を直視して魔王の仕事しろよ」
「黙れと言っている!」
キレた俺がディートに右手で殴りかかるもひらりとかわされた。だが同時に俺の左手がディートの首を鷲掴みにしていた。これは俺じゃない。驚いたのかディートが目を瞠っている。
「え?魔王‥?」
俺の脳内のポイント切替機は切り替わっていない。だが俺の中に魔王の力が解放された。
この時点で、俺と怒れる魔王は完全にシンクロしていた。俺たちの共通点は女神様を守るということだ。
喉元を掴まれたディートが目元を覆いはーッと腹の底から深い息を吐き出した。
「‥‥魔王も同意なのか?最低最悪だ」
「え?」
力が抜けた俺の手をディートが払い除けた。そしてひどく蔑むような目で俺を見据えてきた。
「‥‥‥‥僕には魔王の記憶があるけど魔王の感情はないからね。僕は酷いことした女神を許せないけど、魔王は許したということ?それこそありえない。どんだけバカなんだ」
「ありえない?バカ?」
「心底がっかりだよ。君だけが残念だと思ったけど魔王も残念だったみたいだね」
そう言い捨ててデートは憤然と闇の中にかき消えた。夜の図書室に俺だけが残された。俺にしてみれば一方的に見たくもないものを無理矢理見させられた気持ちだ。
なんだあいつ、好き勝手言いやがって。勝手に俺を残念がって勝手にキレて消えた。お前の方がよっぽど残念だよ。
俺は図書館から部屋に戻り、ポメたちに人払いをいいつけ、さらに部屋を出た。一人無言で洞窟を歩く。そして月が見える洞窟の入り口まで辿り着いたところで腰を下ろしてコンパクトを出した。
「———女神様、いる?」
『いるわよ、やっと電波障害を抜けたみたいね。今どこにいるの?』
一日ぶりの女神様、なんだかとても懐かしい。電波障害のせいで俺達の状況はわからないようだ。そこで図書館からの経緯をざっくりと女神様に説明した。さっきのディートとのやりとりは伏せておく。
『ディート?二番目の子なのね?』
「女神様は面識ある?」
『ないわ。三人生まれたというのはわかってはいたの。私はガンドにも会えなかったから。魔王は会っていたかもしれないわね』
魔王。ざわりと震えが走った。
俺のことなのにまるで別人のようだ。性格も思考も違う俺ら二人の共通点は女神様だけ。
「魔王って‥どんなやつだった?」
『え?どうしたの急に』
「なんとなく‥気になって」
思えば女神様から魔王の個人的な話を聞いたことはない。それほどの付き合いじゃなかった?
そうならいいけど違う意味なら———
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