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Ⅴ メシア、俺。
062: 天の裁き
しおりを挟むハイエルフの村長は俺の言うことを聞いて森奥の洞窟への全村民の撤退を受け入れてくれた。唯一無二の女神の指示、効果抜群だ。血気に逸る若いエルフはディートが説得、ディートは俺に比べて信頼がある。こちらも村から引き上げていった。さらにポメとディードが洞窟に結界を張った。エルフがどこにいるか、人族もわからないだろう。
そして今この森は無人となった。
夜になり俺たちは村にやってきた。切り株の上にはこの森のざっくりとした地図。中央の森の複数のポイントをディートが指差した。
「昨日うまくいったから今日も複数の村を攻めてくるだろう。おそらくこことここ」
「そうだな。ポメ、るぅ」
『では行って参ります』
「無理するなよ。何かあれば撤退しろ」
「任せるのじゃ。夜ならばわらわは無敵じゃ」
『ディート、陛下のおそばを離れるなよ』
「わかってるよ、兄さん」
ディートが笑顔で手を上げる。魔狼と魔女っ子の姿が消えた。森の左右にある村で敵襲を待ち受ける段取りだ。
ディートの話だけではまだ判断はできない。人族がただエルフの村に迷い込んだだけとも思えないが、そいつらが村を襲撃する行為に及んだその時には制裁を加えるよう指示してある。
収納から黒い服を出して着替えた。これは戦闘服、スカートはなしだ。俺はコンパクトを取り出して中を覗き込んだ。今日は途中から何故か女神様と連絡が取れない。またあの電波障害かもしれない。女神様の気配は俺の中にいる。だから大丈夫だよね?
鏡に映る女神様の顔に俺はそっと囁いた。
「じゃあちょっと行ってくるね」
ポメとるぅがいなくなり久しぶりにこいつと二人きりになった。最後の別れ際があれだったが俺も大人だ。蒸し返すつもりもない。なかったものとして話しかけた。
「ディート」
「なんだい?」
「なぜ出会った最初に俺たちに話をしなかった?」
そうすれば被害はもう少し抑えられていたかもしれない。まあこれは結果論、かもしれない、の話だが。ディートは目を閉じている。まだ顔色は悪い。疲れてるんだろうか。
「そうだね、今となってはそれがよかったのかもしれない。君が魔王であるという確認は取れたが魔王自体を信じられなかった。君が人族に指示しているのかもしれないと思ったから」
げッ まさか俺、疑われてた?!
俺そこまで悪党ではないぞ!
「奴らの神託は偽物だ。俺じゃない。女神様がそんなことするはずないだろう?」
「‥‥‥‥そこはまだなんとも言えないけど」
含みのある言葉。こいつ、まだ俺たちを疑っているのか?不謹慎にも遊びすぎたのは深く反省した。こうなれば行動でこいつの信頼を勝ち取るしかない。
「お前たち兄弟が揃った。もう無敵なんだろ?」
「そうだね、それは確かだ」
俺のそばにいたディートが俺の肩に手を置いた。同時に俺の体がふわりと浮き上がった。
「え?ええ?!」
「飛べない魔王を特等席に。こっちの方が見やすいよ」
陽が沈み闇に包まれた森の上空に俺たちは居た。雲がかかり月が消えている。俺たちの姿も地上から見えないだろう。
俺の眼下、左右には地の果てまで続く太古の森、正面奥には砂漠のような岩場、その遥か彼方に街の灯りがほのかに見える。そして背後にはやはり無限に続くような森とさらに遠くに闇と同化した海が見えた。
「あそこにいる」
ディートの指が光りレーザーポインターのように地上のある箇所を指し示した。
森の外、少し離れたところに闇に紛れた人族の軍隊が見えた。主隊は歩兵、魔導士ではないから国が抱えている兵士なのだろう。そして森の外、左右に複数の人の群れが見える。これが野党役。これから森に押し入るのだろう。確かに上空の方が状況がわかりやすい。
ディートの情報は間違いなかったか。
不可侵エリアは森の中。森の外はフリーエリアだ。そこに軍を置くこと自体は問題ない。魔王の城もフリーエリアにある。英雄たちとの小競り合いもセーフだ。だがあの軍が一歩でも不可侵の森に踏み入れば進軍とみなされる。
野党役が森の中に散った。狙いはエルフの村。ディートの予想した村だ。そこにはすでにポメとるぅが待機している。
森は木が目隠しになるが開けた村であれば上空からよく見える。野党が村の家に押し入り次々に火を放っている。エルフがいないと気がついて探しているようだ。
超えてはならない一線を超えた
ふぅと息を吐いて俺は囁いた。
「裁きを」
「『はい」』
野党の前に金色に輝く魔狼が姿を現した。
戦闘モードで巨大化した魔狼の登場に野党はそうとう驚いているようだ。悲鳴をあげ剣を抜く野党を魔狼が前足で払った。それだけで野党が木の葉のように吹き飛んでいる。問答無用で爪で切り裂き踏みつけ噛みちぎる。圧倒的だ。ドラゴンさえ易々と屠る魔狼に人族が敵うはずもない。
逃げようとした野党めがけ魔狼が後ろ足で立ち上がり前足を地面に打ちつけた。地面から氷柱が突き出す。アイスエッジが炸裂、全員氷づけにされている。
一方、ルウはひとり少女の姿だ。エルフの村、夜中に人族の少女が現れたわけで。その異常さに野党が剣を抜いている。るぅも拐うつもりなんだろう。
「愚かじゃのぉ。逃げることさえしない」
微笑む魔女っ子がふわりと右手を払った。その背後には大量の魔法陣、そこからスケルトンの軍団が姿を現した。スケさんたちもいる。それが一斉に野党に襲いかかった。
るぅの足元に一際大きな魔法陣が輝く。そして地面の闇から滲み出るようにそれは姿を現した。爬虫類の頭、コウモリの破れた翼、肉がところどころ落ち骨が見えた鱗を有した体躯、そして長い尻尾。首にはご丁寧に鞍がついている。魔女っ子が慣れた風に鞍に飛び乗った。るぅを首に乗せたままそいつは巨体をしならせ咆哮を放った。
「‥‥ド‥ドラゴンゾンビ‥」
唖然。夜なら無敵と言っていたが。アークリッチの死霊使役、ドラゴンゾンビを戦闘用ではなく乗用として召喚している。とんでもねぇな。
もうスケルトンだけで圧勝なのに?ここでドラゴンゾンビ出す?少女だけに手加減できんのか?これはオーバーキル必至だろ。威圧の効果は抜群だが。
そして納得した。
やはり召喚にはステッキも踊りもいらなかったんだな。
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