78 / 114
Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。
069: ソフィア
しおりを挟むそんなある日。
「アスカに是非会って欲しい人がいるの」
「会う?俺に?」
俺、面会禁止なのに誰に会うの?
「うん、私の大切な人」
モジモジと頬を染め微笑む先生に婚約者でも紹介される?!と俺は内心ガクブルで最悪展開を想像したわけだが。
面会者は車椅子に座った品の良い老婦人だった。肌は浅黒くジプシーのような雰囲気、ものすごく高齢にも見えるが纏う気配は若々しい。真っ白い髪が眩しい、そして真っ青な瞳。先生の瞳よりはだいぶ薄いがそれでも青空みたいにきれいだ。それでいて雰囲気は威厳があるというか。見た目はちょっと厳しいおばあちゃん?
そのおばあちゃんからフランス語で話しかけられた。
「はじめまして坊や、アスカと呼んでもいいかい?」
「構いません、初めましてマダム」
「礼儀正しい、いい子だね。発音もきれいだ。私はソフィア・グリフィスだよ」
グリフィス?それは?
先生が頷いて微笑んだ。
「私の義理の母。私を引き取って育ててくれた恩師なの。私のたった一人の大事な家族。この病気をずっと研究してきた第一人者なのよ」
「え?そうなんですか?」
実はすごい人だった。老婦人の目尻には笑い皺。話してみればとっても知的で穏やかな感じだ。先生と並ぶと仲の良い曽祖母とひ孫のよう。シワだらけで温かい手が俺の手を取ると俺も暖かくなったような気がした。そこで老婦人がドイツ語でつぶやいた。
「これはまた‥随分と賢い子だね。それに強い」
「アスカはすごいの!何でも知ってるのよ?アスカは本が大好きだからかしら。それにね」
「いや、そんなことは」
初対面で賢いと褒められたのは初めて。内心びっくりだ。雑学王ではあるんだが。先生が嬉しそうに俺を紹介している。ちょっと持ち上げられ過ぎで照れくさい。
「ソフィアは私の先生なの。医学をたくさん教えてもらったわ」
「え?先生の先生?」
「そうよ」
「私はもう引退しているよ。どれ、坊やの治療は順調なようだね。‥‥賢い犬を飼っている。だいぶ高齢だ、大事にしておやり。料理はもう少し頑張りな、時間はかかるがうまくいくだろうよ」
「え?は、はい」
「アスカ、お前は必ず助かる。頑張るんだよ」
ガンドのことも料理が下手なことも先生にも言っていないのになぜこの人は知ってる?病気の完治も予言してくれた。俺の手を握っただけでズバズバ言い当ててる。まるで占い師みたいだ。
「私は魔女だからね、カンがいいんだよ」
俺の思考さえ見透かしたソフィアが俺に微笑んだ。
ソフィアとはその後通信ソフトやチャットでやり取りしていた。俺にばあちゃんはいなかった。話の合う博識なばあちゃんができたみたいで嬉しかった。
俺が色々と自分の話をする。通っていた中学のこと、高校でつまずいたこと、たまにものすごく感情的になって腹立たしくなること、読んだ本のこと、気に入っていたファンタジーゲームの話まで。先生は忙しい、他に会える人もいなかった。話し相手に飢えていたせいもあったかもしれない。それをソフィアはうんざりするでもなく聞いていた。
ソフィア曰く、内容ではなく知らないことを知ることが楽しいらしい。ものすごい知識欲だ。まあ俺もなんだが。
一方でソフィアは俺の疑問に全て答えをくれた。俺が納得できないものもあったがそれも答えの一つだと諭された。ソフィアの宗教観も俺に影響を与えた。それは俺の母国では聞いたことがないもの、俺の通った幼稚園がカトリックだったから聖書の知識もあったがそれとも違った。俺はソフィアの思想を抵抗なく受け入れていた。
出会ってから間もないが博識なソフィアは情緒不安定だった俺を導いてくれた。ソフィアは俺の掛け替えのない師になった。
俺が入院してから二つのことが起きた。
一つはガンドが死んだこと。
苦しむことなく息を引き取ったとじいちゃんから連絡があった。カメラ越し、昼寝するように横たわるガンド。だが命はもうそこにない。俺は結局ガンドの死に目に間に合わなかった。
「ガンド‥約束守れなくてごめんな」
死は誰にでも訪れる。俺にだってそうだ。ガンドの骸に俺自身を重ねる。ぶるりと身震いが出た。
「大丈夫?」
通信を終えてどのくらい経っていただろう。気がつけば先生が部屋の入り口に立っていた。涙を見せたくなくて俺は慌てて目を擦った。
「すみません、気がつかなくって。どうしたんですか?」
「なんとなく‥‥誰が亡くなったの?」
「‥‥‥‥家族です‥俺の‥兄貴でとってもいいやつで‥」
「‥‥そう」
俺とガンドが映るスマホの写真を一緒にのぞき込んだ。この先生もソフィアに似てカンがいい。特に俺の機微に敏感だ。俺の腕につけてる機械のせい?
気がつけば鼻血、最近特に多くなってきた。ティッシュで鼻を押さえてると先生がふわりと抱きしめてくれた。先生に抱きしめられたのは初めてのことだ。
「せ?先生?」
「怖いね、辛いね。ひとりじゃないから。そういう時はいつでも頼ってくれていいんだよ?」
ガンドを失った。じいちゃんだって父さん母さんだっていずれいなくなる。そうやって俺はひとりになっていく。俺だっていつか死ぬ。それは変わらない。それが今日か一年後か、じいさんになった時かの差だ。
その時を俺は誰と迎えるんだろうか。
でもひとりじゃないと言ってくれた先生のその言葉だけで俺は救われたような気がした。
もう一つは戦争が始まったこと。
俺の母国の隣の大国が陸続きの隣国に攻め入った。内乱やクーデータは今までだってあった。だが他国に攻め入る戦争はこの世界の情勢を暗転させていた。食料問題、エネルギー、難民、軍事、経済。ネットでは情報が溢れかえっていた。たくさんの家が燃やされ、たくさんの人々が殺された。
「人類はまた同じ過ちを犯しているね」
「歴史は繰り返すってやつ?」
「そうさね、もう人類はダメかもしれないね。だがこれも精霊の解放だ」
モニター越しのソフィアが悲しげにため息をついた。それが俺の不安を煽った。精霊の解放、文字通りの意味だとソフィアの宗教観でそれは世界の終末を意味する。ソフィアは何かを諦めたのかもしれない。
「‥‥‥‥ソフィア?」
「できれば最後まで見届けたかったが。私は行かなくちゃならない」
「え?どこに?」
「少し問題があって呼ばれているんだよ。今回は長い仕事になりそうだ。しばらくお前とも会えなくなる」
「そんな!なんで?」
「魔女にしかできない仕事なんだよ。安心おし、お前とはまた会える。アスカ、知ることを躊躇ってはいけないよ、知識は真の至高神からの賜り物だ」
それはソフィアが良く使う言葉だ。それは彼女の宗教観、常に探求し続けろと。
「優しい坊や、あの子のことを頼んだよ」
ソフィアは先生のことをなぜかあの子という。どうして名前で呼ばないのか。そこで自分も先生の名前を知らないことに気がついた。
「ソフィア?それはどういう」
「私はあの子に幸せになってもらいたいのさ」
微笑んだソフィアに一方的に通信を切られてしまった。
それがソフィアとの最後の通信になった。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
物置小屋
黒蝶
大衆娯楽
言葉にはきっと色んな力があるのだと証明したい。
けれど、もうやりたかった仕事を目指せない…。
そもそも、もう自分じゃただ読みあげることすら叶わない。
どうせ眠ってしまうなら、誰かに使ってもらおう。
──ここは、そんな作者が希望や絶望をこめた台詞や台本の物置小屋。
1人向けから演劇向けまで、色々な種類のものを書いていきます。
時々、書くかどうか迷っている物語もあげるかもしれません。
使いたいものがあれば声をかけてください。
リクエスト、常時受け付けます。
お断りさせていただく場合もありますが、できるだけやってみますので読みたい話を教えていただけると嬉しいです。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる