【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
81 / 114
Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。

072: サクラス

しおりを挟む



 先生の顎を掬い上げてちゅっと口つけて離した。触れるだけのキス、そこまで流れるような自動作業、そして俺は我に返った。

 俺のファーストキス、それを場慣れた男のようにサクッとしてしまった。俺って何?無自覚でこれ?初心者ノービスなのに天性のタラシか?まあ経験豊富だろう先生(涙)にしてみればこの程度フツーに———

 一方の先生は目を見開いたまま茫然と固まっていた。まさに石化。そこで俺は別の可能性に気がついた。

 おいおい、先生に彼氏とか好きな人がいたらこれアウトだろ?先生は俺が患者だから世話をしただけなのに俺が勘違いして勝手に舞い上がって———

 やっちまった!!俺はベッドで勢い良く謝罪の土下座だ。

「ごッごめんなさい!つい!許してください!」
「なッなんで謝るのよ!」
「え?でも‥‥嫌だったんじゃ?」

 土下座から俺が顔を上げれば真っ赤な先生が困った顔をしていた。

「べ、別に嫌じゃ‥‥初めてだったから驚いただけで」

 え?初めて?

 海外だと習慣的にこういうこと挨拶がわりにするんだと思ってた。俺の母国はそっちに比べると奥手だし。先生もまさかのファーストキス?

「私に‥こんなことする人はいなかったし」

 先生の衝撃告白に俺に激震が走る。
 同時にトンデモ妄想が俺の脳内を走り回った。

 それは今までカレシいなかったということ?
 こーんなに可愛いのに?

 先生女子校にいた?それとも修道院?いやいや、こんな可愛かったら女子だって放っとかないぞ。先生ってば百合?だけどこんなことするはいなかったって言ってたから男女とも経験なしなんじゃ?

 落ち着け!暴走すんな俺!今はそこじゃない!

 嫌じゃない。つまりさっきのはオッケー?混乱する脳内でなんとか先生の言葉の意味を理解した。

 そういうことなら?

「‥‥‥‥じゃあもう一回してもいい?」
「だから!そういうのは聞かないのよ!」
「えー?聞かないとわからないよ?」

 ちょっと意地悪く先生の顔を覗きこめば随分躊躇って真っ赤な顔で先生が目を泳がせて。そしてこくんと頷いた。それがもんのすごく可愛い。俺より年上のはずなのに。もうたまらんたまらん!思わず目の前の体をぎゅうぎゅうに抱きしめた。

「先生‥‥嬉しい!大好きだよ!」
「アスカ‥ちょッ 待って‥や‥ぁん‥んんッ」

 抱きしめて押し倒し口つける。経験とかじゃない、もうこれは本能だ。先生の手がおずおずと俺の首に回ってくればますます止まらない。抱き合って夢中で貪りあった。

 二回目のキスは一回目よりずっと長く甘いものになった。


 俺の想いが通じた。それだけでもう俺は幸せいっぱいだ。そこでずっと気になっていたことを初めて先生に聞いた。

「先生の名前は?」
「え?」
「初めて会った時も教えてもらえなかったから。その‥嫌じゃなかったら名前、教えて欲しい」

 ポカンとしていた先生が気がついたように目を瞠る。

「そういえばそうだったわね!ごめんなさい、私ったら。えっと、‥‥サクラスというの。サクラス・グリフィス」
「サクラス!すごい!可愛い名前!」
「‥‥そう‥かな?」
「うん、俺の国にも似た名前の木があるんだ。サクラなんだけど。ピンクの花を咲かせるんだ」
「サクラ?花の名前?」

 先生が目をまるくしている。あんなに物知りなのに知らなかったのかな?

「サクラって呼んでいい?髪の色とも合ってて似合ってるから」
「‥‥サクラ‥‥うん。サクラ、嬉しい」
「そうなの?」
「‥‥サクラスって名前、好きじゃなかったし。名前で呼ばれることもなかったから」

 仕事柄先生と呼ばれることも多いから?
 ソフィアからも呼ばれなかったの?

「ごめん、俺、ずっと先生って呼んでて」
「ううん、違うの。そうじゃなくて」

 そして先生は、サクラは囁くように呟いた。

「私は皆から『大いなる魔女アークウィッチ』って呼ばれていたから」



 俺の体調を気にするサクラは俺の部屋にしょっちゅうやってきたが実際は入り浸りだ。一緒に食事もするし夜は同じベッドで眠る。サクラは俺が眠っていた一ヶ月間、俺の容態が心配で添い寝していたらしいが俺にとっては初めてのプチ同棲、もちろん大歓迎である。

「他の担当患者とかいないの?」
「いないわ、ここは貴方しかいないし。私は貴方専属よ」

 まさかの専属制だった。まあ他の患者なんて見たことなかったけどね。こんな美人医師を俺の専属に派遣してくれるとか!なんて素晴らしい病院なんだ!こうなればもうサクラ一本で永久指名したい!

 つまり俺、サクラを独占?楽園すぎる!

 だからといって色々と進展するわけもなく。俺たちはキスとハグだけという清い関係だ。
 二人きりの楽園で?邪魔者がいなくって(掃除と配膳のおばちゃんたちはいるが)?毎晩同じベッドで寝てて?監視カメラとかもないとか?聞いちゃうと男なら我慢が利かないもんだろ?

 だが深い関係になろうとするとサクラから文字通りドクターストップが入った。

「まだ精密検査の結果が出てないから。無理しちゃ体に良くないわ」

 我慢する方が体に良くないんですが。

 サクラもまんざらじゃない雰囲気なんだけど。だが俺も舞い上がりすぎて飛ばしすぎなんだろう。ちゃんと順序立てて清い交際をしろよ俺!あんまりがっつくと性欲バカのそっち目当てと思われてしまう。俺もまだ一応患者だし?晴れて健康体になって退院できたら交際をちゃんと申し込もう!そして脱初心者ノービスだ!

 そう言い聞かせぐっと理性で我慢する。頑張れ俺!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

物置小屋

黒蝶
大衆娯楽
言葉にはきっと色んな力があるのだと証明したい。 けれど、もうやりたかった仕事を目指せない…。 そもそも、もう自分じゃただ読みあげることすら叶わない。 どうせ眠ってしまうなら、誰かに使ってもらおう。 ──ここは、そんな作者が希望や絶望をこめた台詞や台本の物置小屋。 1人向けから演劇向けまで、色々な種類のものを書いていきます。 時々、書くかどうか迷っている物語もあげるかもしれません。 使いたいものがあれば声をかけてください。 リクエスト、常時受け付けます。 お断りさせていただく場合もありますが、できるだけやってみますので読みたい話を教えていただけると嬉しいです。

Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美
キャラ文芸
才能ある者が地下へ落とされる。 歪つな世界の物語。

幻想プラシーボの治療〜坊主頭の奇妙な校則〜

蜂峰 文助
ファンタジー
〈髪型を選ぶ権利を自由と言うのなら、選ぶことのできない人間は不自由だとでも言うのかしら? だとしたら、それは不平等じゃないですか、世界は平等であるべきなんです〉  薄池高校には、奇妙な校則があった。  それは『当校に関わる者は、一人の例外なく坊主頭にすべし』というものだ。  不思議なことに薄池高校では、この奇妙な校則に、生徒たちどころか、教師たち、事務員の人間までもが大人しく従っているのだ。  坊主頭の人間ばかりの校内は異様な雰囲気に包まれている。  その要因は……【幻想プラシーボ】という病によるものだ。 【幻想プラシーボ】――――人間の思い込みを、現実にしてしまう病。  病である以上、治療しなくてはならない。 『幻想現象対策部隊』に所属している、白宮 龍正《しろみや りゅうせい》 は、その病を治療するべく、薄池高校へ潜入捜査をすることとなる。  転校生――喜田 博利《きた ひろとし》。  不登校生――赤神 円《あかがみ まどか》。  相棒――木ノ下 凛子《きのした りんこ》達と共に、問題解決へ向けてスタートを切る。 ①『幻想プラシーボ』の感染源を見つけだすこと。 ②『幻想プラシーボ』が発動した理由を把握すること。 ③その理由を○○すること。  以上③ステップが、問題解決への道筋だ。  立ちはだかる困難に立ち向かいながら、白宮龍正たちは、感染源である人物に辿り着き、治療を果たすことができるのだろうか?  そしてその背後には、強大な組織の影が……。  現代オカルトファンタジーな物語! いざ開幕!!

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

処理中です...