【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

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Ⅶ マオウ、俺。

091: 真の罪

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「坊やを待っていたよ」
「なんで‥‥‥」
「もう一度会えると言っただろう?忘れたかい、賢いのに相変わらず抜けているね。どれ、アスカが迎えに来ればあの子も喜ぶだろう」

 質素なログハウスに入れば正面には暖炉、大きなダイニングテーブルに大量の子供椅子。奥の部屋には二段ベットが続いている。そして窓際にはロッキングチェア。その椅子に一人の女性が腰掛けていた。

「‥‥‥‥サクラ」

 あの日精神を切り離した姿のまま、椅子の上で眠るように目を閉じている。手を握れば暖かい。浅い寝息、肉体は生きている。

 サクラの肉体があの人工知能に見つからなかったわけがわかった。ここに、ソフィアに匿われていたんだ。

「その子を起こす前にお前に確認しておきたいことがあるんだよ」
「俺に?」
「アスカ、お前は死を望んだのかい?」

 俺の意識が飛んだ。問いの意味がわからない。死を望む?自殺ということか?

「いえ、それはないです」
「だがこの子はそうだと言っていたよ。お前が死にたがっていたのに生かしてしまったと」

 そこで思い当たった。「アスカ」の頃、闘病の激痛で苦しんで、疲れ果てた俺はいっそ死にたいと思った。だがそれは苦痛のせいだ。サクラの励ましで俺は頑張れたんだ。

「違います、そんなことはない」
「じゃあ死ねないとはどういうことか考えたことはあるかい?」

 さらにソフィアに切り込まれた。それはおそらく今の俺の状況、こういう時のソフィアは遠慮がない。実はそこについては俺も気持ちの整理はついていない。長い冷蔵冬眠中に考え抜いて、でもやはりわからなかった。死んだこともないのに死ねないことを嘆くのか?不毛だろそれ。

「‥‥よくわかりません」
「‥‥そうだね。これはお前が十分に生きたと思った時に聞くべき問いだった。こんなことになって本当は私が詫びなければならないのに‥‥本当に済まなかったね」

 俺がソフィアの被験者にされたことを言っているのか?そこに元々俺の遺恨はない。

「俺は別に‥‥」
「いや、それもだがもう一つさ」

 サクラを囲んで俺たちは椅子に腰掛けた。サクラはただ穏やかに眠っているようだ。

「この子は手違いで『神の器』になってしまったんだよ」
「手違い?」
「私の意図した『神の器』は病に打ち勝つ肉体だ。天寿を全うする程度の強さでよかった。それなのに‥‥強すぎる知識は時に不幸を招くものだね。AIが完全な『神の器』になる薬を作り出しこの子に投薬したんだ。私が気がついた時はもう遅かった。その薬はすぐデータを削除して使用禁止とした」
「それは———」

 あの人工知能が『大いなる魔女』を、神を作り出したということ。至高神を気取るわけだ。

「この子は歳も取らずに死なない。人工細胞が常に最適の肉体を保とうとするからね。若いままがいいというのは歳をとった経験があるものがいうことだ。そんな未来も奪い、死ぬことのない‥‥精霊の解放さえ許されない体にしちまった。だがこの子は恨み言を私に言わなかったよ。これは私の罪だ」

 今語られた記録は一切ない。俺は知らない。ソフィアが薬と一緒に記録から削除したのだろう。

「だがね、この子も罪を犯した。己がエゴでお前にあの薬を使った。禁じられた薬を」

 それは俺の治療記録にあった。AI『ソフィア』が作り出した薬を俺は投薬されて俺は生き延びた。

「AIの指示で投薬したと」
「AIに唆されたとしてもだよ。捕食したAIの影響かあれも随分と性悪になったもんだ。『学習』機能が良くなかったかね。きっと薬を使わないとお前が死ぬと脅されたんだろうよ。だがそうとわかっていれば罪だ。お前の意志を無視してこの子はお前を生かしたんだよ。お前は魔力が強かった、あそこまで症状が悪化したお前を生かすのなら最後の禁薬を使うしかなかっただろう。だがそれはお前の死を奪う行為だ」

 サクラが最後まで謝っていたこと。
 ディートが言っていたサクラが俺にした酷いこと。

 言いたいことはわかるんだが、俺自身に実感がない。それほど酷いことだろうか。わからない俺がおかしいのか?
 あそこで投薬されなければ俺は死んでいた。死を彷徨った瞬間、永遠に生きるか死ぬかの二択なら俺は生きるを選択するだろう。この二択を突きつけられて死を選ぶやついる?だからサクラは悪くない。罪はない。

「坊や、それは結果論だよ。たまたまお前の意志とあっただけだ。勝手をしたこの子に罪はある。私は最期に拒絶した。お前にはその機会が与えられなかった」
「え?まあそうですが‥‥ダメですか?そうかなぁ?そうなるとやっぱりよくわかりません」

 俺の答えにソフィアがくつくつと笑っている。

「お前は本当に‥この子に甘いね。あれからずっと私は『神の器』を元に戻せないか、子供たちと一緒にずっと検証し続けていた。人工細胞を食う細胞を作ることも可能だが、そうすると肉体は死ぬ。結局お前たちに寿命を戻してやることはできなかったよ」
「‥‥‥‥そうですか」

 元には戻れない。

 すでに『神の器』にされている能力者たちは複数いる。そいつらの救済になる可能性もあったが。開発者ソフィアが五千年かけても見出せなかった。だが殺す方法は見つかった。

 人工細胞を食う細胞を作る、か。
 細胞を破壊する、もはや病だ。

 『神の器』の始まりは病、精神を殺す以外で『神の器』を殺す方法、結局は病だと。

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