105 / 114
Ⅶ マオウ、俺。
091: 真の罪
しおりを挟む「坊やを待っていたよ」
「なんで‥‥‥」
「もう一度会えると言っただろう?忘れたかい、賢いのに相変わらず抜けているね。どれ、アスカが迎えに来ればあの子も喜ぶだろう」
質素なログハウスに入れば正面には暖炉、大きなダイニングテーブルに大量の子供椅子。奥の部屋には二段ベットが続いている。そして窓際にはロッキングチェア。その椅子に一人の女性が腰掛けていた。
「‥‥‥‥サクラ」
あの日精神を切り離した姿のまま、椅子の上で眠るように目を閉じている。手を握れば暖かい。浅い寝息、肉体は生きている。
サクラの肉体があの人工知能に見つからなかったわけがわかった。ここに、ソフィアに匿われていたんだ。
「その子を起こす前にお前に確認しておきたいことがあるんだよ」
「俺に?」
「アスカ、お前は死を望んだのかい?」
俺の意識が飛んだ。問いの意味がわからない。死を望む?自殺ということか?
「いえ、それはないです」
「だがこの子はそうだと言っていたよ。お前が死にたがっていたのに生かしてしまったと」
そこで思い当たった。「アスカ」の頃、闘病の激痛で苦しんで、疲れ果てた俺はいっそ死にたいと思った。だがそれは苦痛のせいだ。サクラの励ましで俺は頑張れたんだ。
「違います、そんなことはない」
「じゃあ死ねないとはどういうことか考えたことはあるかい?」
さらにソフィアに切り込まれた。それはおそらく今の俺の状況、こういう時のソフィアは遠慮がない。実はそこについては俺も気持ちの整理はついていない。長い冷蔵冬眠中に考え抜いて、でもやはりわからなかった。死んだこともないのに死ねないことを嘆くのか?不毛だろそれ。
「‥‥よくわかりません」
「‥‥そうだね。これはお前が十分に生きたと思った時に聞くべき問いだった。こんなことになって本当は私が詫びなければならないのに‥‥本当に済まなかったね」
俺がソフィアの被験者にされたことを言っているのか?そこに元々俺の遺恨はない。
「俺は別に‥‥」
「いや、それもだがもう一つさ」
サクラを囲んで俺たちは椅子に腰掛けた。サクラはただ穏やかに眠っているようだ。
「この子は手違いで『神の器』になってしまったんだよ」
「手違い?」
「私の意図した『神の器』は病に打ち勝つ肉体だ。天寿を全うする程度の強さでよかった。それなのに‥‥強すぎる知識は時に不幸を招くものだね。AIが完全な『神の器』になる薬を作り出しこの子に投薬したんだ。私が気がついた時はもう遅かった。その薬はすぐデータを削除して使用禁止とした」
「それは———」
あの人工知能が『大いなる魔女』を、神を作り出したということ。至高神を気取るわけだ。
「この子は歳も取らずに死なない。人工細胞が常に最適の肉体を保とうとするからね。若いままがいいというのは歳をとった経験があるものがいうことだ。そんな未来も奪い、死ぬことのない‥‥精霊の解放さえ許されない体にしちまった。だがこの子は恨み言を私に言わなかったよ。これは私の罪だ」
今語られた記録は一切ない。俺は知らない。ソフィアが薬と一緒に記録から削除したのだろう。
「だがね、この子も罪を犯した。己がエゴでお前にあの薬を使った。禁じられた薬を」
それは俺の治療記録にあった。AI『ソフィア』が作り出した薬を俺は投薬されて俺は生き延びた。
「AIの指示で投薬したと」
「AIに唆されたとしてもだよ。捕食したAIの影響かあれも随分と性悪になったもんだ。『学習』機能が良くなかったかね。きっと薬を使わないとお前が死ぬと脅されたんだろうよ。だがそうとわかっていれば罪だ。お前の意志を無視してこの子はお前を生かしたんだよ。お前は魔力が強かった、あそこまで症状が悪化したお前を生かすのなら最後の禁薬を使うしかなかっただろう。だがそれはお前の死を奪う行為だ」
サクラが最後まで謝っていたこと。
ディートが言っていたサクラが俺にした酷いこと。
言いたいことはわかるんだが、俺自身に実感がない。それほど酷いことだろうか。わからない俺がおかしいのか?
あそこで投薬されなければ俺は死んでいた。死を彷徨った瞬間、永遠に生きるか死ぬかの二択なら俺は生きるを選択するだろう。この二択を突きつけられて死を選ぶやついる?だからサクラは悪くない。罪はない。
「坊や、それは結果論だよ。たまたまお前の意志とあっただけだ。勝手をしたこの子に罪はある。私は最期に拒絶した。お前にはその機会が与えられなかった」
「え?まあそうですが‥‥ダメですか?そうかなぁ?そうなるとやっぱりよくわかりません」
俺の答えにソフィアがくつくつと笑っている。
「お前は本当に‥この子に甘いね。あれからずっと私は『神の器』を元に戻せないか、子供たちと一緒にずっと検証し続けていた。人工細胞を食う細胞を作ることも可能だが、そうすると肉体は死ぬ。結局お前たちに寿命を戻してやることはできなかったよ」
「‥‥‥‥そうですか」
元には戻れない。
すでに『神の器』にされている能力者たちは複数いる。そいつらの救済になる可能性もあったが。開発者ソフィアが五千年かけても見出せなかった。だが殺す方法は見つかった。
人工細胞を食う細胞を作る、か。
細胞を破壊する、もはや病だ。
『神の器』の始まりは病、精神を殺す以外で『神の器』を殺す方法、結局は病だと。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる