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Ⅶ マオウ、俺。
090: めぐり逢い
しおりを挟む床には複数の足跡、だが同一のものにも見える。最近ではないが何度も通ったせいかそこだけチリが積もっていない。
目の前には旧式のシェルター扉、金属製の扉の取っ手だけがチリがない。やはり使われた跡があった。
かつてこの要塞にいた生命体はサクラだけのはず。サクラがここを使っていたのだろうか。それとも例の襲撃者集団か?そいつらがサクラの肉体を攫ったのか?
「扉はロックされていますので解除を試みます。ヘラ、サポートしてくれるかい?」
『わかったのじゃ』
ガンドが電子キーがあるだろう扉に手を置いた。中のデータを読み込んでいるのだろう、解除しようとするもエラー音が出た。
「だめですね。普通のロックではないようです」
「何かキーが必要か?鍵穴があるとか」
「アナログロックでもないようです。ロックの仕組みが特殊ですね。初めて見ました」
「ヘラ、どうだ?」
『ダメじゃ、やはりこちらからシェルター内の様子は確認できない。中は外部接続もない完全な独立環境じゃ』
独立環境?電源さえとっていないと?それはありえないだろうに。一応シェルターだろうから中に自家発電があるんだろう。
「仕方ない、破壊しよう」
そう言った俺はうきうきと前に出た。
重厚な核シェルター扉。パワー系、ずっと壊すなと言われていてストレスが溜まってたとこだ。迎撃ロボ壊すだけじゃ全然足らん。ブッ壊し系は俺の出番、煉獄火炎でドロドロにしてやろう。俺が魔力を込めて扉に手をかけたところでガチャンとロックの外れる大きな音がした、それも内側から。
「なんだ?」
「これは‥‥陛下の声紋と顔認証に反応したようです。ロックが解除されました」
「俺の声?顔?なんでそんな」
「わかりません。我が先に入ります、陛下は我の後ろへ」
ガンドが騎士のように俺を庇い前へ出る。ガンドは見た目は王子なもんで庇われるとなんだか申し訳ない。俺の方が多分頑丈だし。
轟音とともに旧式の重厚扉が開いた。目が慣れていない一瞬の闇の中、俺の目の前の映像が飛んだ。そして俺の耳に場違いな声が聞こえていた。
そこは薄暗い森の中だった。見たこともない緑の眩しい景色、だがどことなく懐かしい。それは俺が夢に見たような田舎の風景だ。様子はスイスの山奥の森のようだった。
「これは一体‥‥ガンド?」
見回してもさっきまで俺の前にいた青年が消えていた。ここには俺一人しかいない。
「これはどういうことだ?」
ホログラム?擬似映像?だが風もあるし森の匂いもする。鳥のさえずり、本当の森の中にいるようだ。時空移動は『ソフィア』に封じられているからそれはありえない。
警戒しつつも賑やかな甲高い声に誘われ森を進めば森が開けてそこに一軒のログハウスがあった。家の前には大量の子供、数人が俺に気がついた。
「あ、誰か来た!」
「お客さんだ!誰かばあちゃん呼んでこいよ!」
「ばあちゃーん!」
一人が家にかけていく中で歓声を上げて子供達が俺のそばに駆け寄ってくる。皆泥だらけだ。今まさに泥遊びをしていたと言わんばかりに木陰に泥だらけの子供が転がっている。
幼い子供、多くが幼児から小学校低学年くらい、数人が中学年。全部で十人以上はいる。髪も瞳も肌の色もまちまち、国籍のない児童預かりサービスのようだ。
この展開は予想外だった。あまりのことに俺は声も出ない。子供達が集まってきて遠慮なく俺を値踏みしてる。
「なんだこいつ。どんくさそう。何しに来たんだ?」
「でも頭いいし強いよ?ばあちゃんの知り合い?」
「でけぇな、変な服」
「私達と遊んでくれるの?」
「髪まっ黒だね。でも目の色がばあちゃんとお姉ちゃんに似てる」
「カッコいいからおねえちゃんのカレシじゃない?」
「違うだろ!サクラスは俺の嫁!」
———サクラス
まだ幼い少年のその単語で俺は我に返った。
「サクラス!サクラがここにいるのか?!」
俺の言葉に子供達全員の視線が一斉に鋭くなった。子供ながらにすごい迫力だ。
「そんな人いません。帰ってください」
「そうだ!でてけよ!ここは俺たちの家だぞ!」
「敵がきたぞ!みんな集まれ!」
幼児、児童に群がられわあわあ攻め立てられる。どうやら俺は敵認定されたようだ。ヒーローショーで子供達のブーイングを受ける悪者役のよう、このノリはちょっと対処に困るやつだ。
「いや、俺はそんなんじゃ」
「これおやめ、この人はお客様だよ」
「ばあちゃん!」
「こいつが悪いんだよ!サクラスを連れて行こうとしたんだ!ワルモノだって!」
俺まだ何もやってないんですが?
幼児たちがばあちゃんと呼んで群がる女性を見て俺は唖然とした。それは俺の記憶にある青い瞳の老婦人だ。
「やっときたね、坊や」
「え?え?ソフィア?」
ソフィアは死んだ。そう記録されていた。
じゃあ目の前にいるこの人は誰だ?
いや違う、死んでなかったんだ。俺はソフィアの死に目には会っていない。あの記録はダミー、ソフィアの『神の器』は完成して———
「いや、私は確かに死んださ。お前の思ったようなことにはなっていない」
「は?」
例によりソフィアは賢者のように俺の脳内を読んでくる。もはやこれも懐かしい。これはサクラとそっくりだ。人の感情に敏感な二人、それが魔女と呼ばれる所以。
「どれ、中で話をしようか。ほら、皆は準備をするんだよ。出かけるところだったろう?」
「あ、そうだった!」
「はーい!」
「なにすんの?」
「かくれんぼだよ」
「俺たち先に行ってるからばあちゃんもすぐ来てね」
「ああ、すぐ行くよ」
泥だらけの子供の軍団が歓声を上げて森の奥に走って行く。子供だけでどこに行くのか。
この状況を理解できない。ここは確かに要塞『ソフィア』の旧市街エリアだ。生命反応はないとヘラも言っていたし俺も気配を感じられなかった。放棄エリアのはずなのにどうして———
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