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約束の時間。そして・・・
しおりを挟むサクリと音がした。
そこにはやはりあの晩の時のように仕着せ姿のロザリーがいた。その格好は魔封の森にはそぐわない、だが当然ここに居るべく森の闇から滲み出たように見えた。
「ラウエン公爵様、約束のお時間です。」
この侍女は全て見ていたのだろう。約束の弾劾の時間。誓約は破られ幸せな時間は終わったのだ。
「これはアレックス卿とダリウス卿の間で結ばれたお約束。どのような理由があろうとも家同士の誓約は絶対です。」
ロザリーがメリッサにそう諭す。
そう、家同士の誓約は絶対だ。アレックスは舐めていた。当初メリッサに秘密を作る罪悪感はあったが、こんなぬるい条件でいいのかと思った。
実際はメリッサへの自分の気持ちを甘く見ていたのだ。こんなに秘密を守るのが辛いと思わなかった。たとえ先程しのげていたとしてもいずれ破綻していただろう。
「わかった。約束通り破棄を受け入れよう。」
もうこんな枷は嫌だ。
縁談を、あの誓約を破棄してもう一度気のいいあの爺さんに、死ぬ気で婚姻を頼み込もう。俺はもうメリッサなしでは生きられない。
だが君の気持ちはどうだろう。
俺を好きだと言った後、あのバケモノを見た。怖がられなかったが、好意は別だ。あの姿を見てもまだ好きだと言ってくれるだろうか。
—— いや、本当は距離をおいた方がいいのかもしれない。この身の内のバケモノはいつか君を縊り殺すかもしれないのだから。
「ではお選びください。メリッサ様はどうされたいか。シャムロック家に戻るのか、このままアレックス卿の側に残るか。」
メリッサがじっと見上げる。その体は微かに震えていた。
俺が怖いか。当然だ。でももし、もしも君が望んでくれたらもう絶対離さない。だから、だからどうか俺を選んでくれ‥‥。
アレックスはメリッサに乞うように見つめ返した。永遠とも思えた沈黙ののち、メリッサは震える声でアレックスに告げた。
「私は公爵様のお側に居たいです。私を妻にしてくださいますでしょうか?」
望んでいた答えだったのに、信じられなかった。
脳がゆっくりと言葉を理解した一拍後にアレックスは堪らずメリッサを抱き上げた。やっと!やっと!!
「メリッサ‥やっと‥やっと手に入れた!!」
愛しいメリッサが俺の手の中に堕ちてきた。
俺だけのメリッサになってくれた。
アレックスは慌て驚くメリッサをぎゅっと抱きしめた。周りで歓声が上がるが気にも止めない。
「メリッサ、俺を選んでくれてありがとう!俺も大好きだ!生涯かけて幸せにする!絶対だ!」
ちょっと怒ったように真っ赤になるメリッサが可愛い。愛おしい。早く婚約の印をはめたくて左手の薬指をべろりと舐めると可愛い悲鳴が上がった。
こんなところでグズグズしていられない。早く俺たちの邸に帰ろう。
靴がないメリッサを肩に抱き上げると不安げに頭に縋りついてくる。メリッサに抱きしめられ甘い香りも堪能できる。
狼耳が気になるのかツンツンしてくるのもこそばゆくていい。これ最高だ!
「よーし!みんな帰るぞ!今夜は婚約祝いで無礼講だ!」
野太い声に気分が上がる。
ああ、そういえば。歩きながら肩のメリッサを仰ぎ見た。
「メリッサ、あの言葉もう一度言ってくれないか?」
「何をですか?」
キョトンとするメリッサ、可愛い。
もう何しても可愛いな!色々したくなるが皆がいるのでぐっと堪える。
「洞窟で魔狼の俺に言ってくれた言葉。この姿で聞きたい。」
“大好きでした。” あれはメリッサ的には間接話法だった。ちゃんと俺に言って欲しい。
メリッサの顔が真っ赤に湯立つ。
「ええ?!もう伝わったんですからいいじゃないですか!」
「ダメだよ。もう一回!ほら!だいたいなんで過去形だったんだ?俺なら現在形でも未来形でも言える。」
「だって!あの時は魔獣に襲われてもうダメだと思ったから!」
「あんな雑魚に?ありえないよ?」
メリッサは口をパクパクしている。あ、この顔初めてだ。可愛い。
何度かおねだりした後、頭をかがめたメリッサに耳元で囁かれた。
‥‥ぐっヤバい。腰にキた!囁くのは卑怯だろう。狼耳だったからさらにキたぞ!
お返しにメリッサを腕に抱き寄せ耳元に同じ事を囁き返す。脱力したようにしなだれかかってきたメリッサを抱きしめる。
ほんと、可愛い。このままイチャイチャしたいところだが皆がいるので再びぐっと堪える。くそぅ!不本意だ!
‥‥まさかこのためにロザリーは騎士達を連れてきたのか?だとしたら本当に恐ろしい侍女だ。
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