【完結】ダメダメな僧侶とめんどくさい盗賊の一年間

ユリーカ

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リアソフィア(時々ミーア)の事情

第三話

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 それから数日は二人は討伐に明け暮れた。
 もう失恋は吹っ切れたようだ、とミーアは安堵していたのだが。

 ある日、二人はギルドに顔を出さなかった。休みか?と思っていたのだが、その翌日マティアスがギルドの現れた。いつもと違い黒づくめの戦闘服で眼鏡がない。
 無表情でパーティ解散届けを出す。それを受け取ったミーアが絶句する。

「なんで?!ここまで、一年もやってきて何で今更解散?」
「リアに縁談が来た。」
「はぁ?!」
「引退するそうだからここまでだ。」

 冷ややかにそう言い放ち去っていくマティアスを見送りミーアは茫然とする。我に返りリアが泊まっている二階の部屋に全力で駆けつけ扉を蹴破った。鍵の意味は全くない。

 リアは薄暗い部屋でベッドのシーツに頭から亀のようにくるまっていた。啜り泣きが聞こえる。泣きじゃくっていたのだ。
 怒鳴り込むつもりだったミーアはその様子に言葉を飲み込んだ。

「あんた、何があったのよ?」

 枕元からミーアが覗き込めば、シーツの中にリアの泣き顔が見えた。

「‥‥マティアスが‥解散‥するって‥」
「うん、今手続きにきたよ。どうしたのよ?縁談って?引退するの?」
「引退しない!違うのぉ!」



 事は二日前。

 仕事の帰りに魔物に襲われる馬車を助けた。乗っていたのは二十歳になる伯爵家の若き次男坊だ。すでに子爵位を持っているお坊ちゃんである。命を救われたことに痛く感動し、また見た目普通のお嬢さんであったリアソフィアに相当驚いてた。そして一目惚れしたと言う。

 いやいや、落ち着いてください、とひとまず子爵を送り届ければ翌日には執事が縁談を持ってやってきた。
 いやいや、冗談でしょ?これは引退か?と笑うリアソフィアにマティアスが冷静に言った。

「いい話じゃないか。」

 では話を進めておきます、と帰る執事。そして婚約を進めることになってしまった。



 話を聞いていたミーアは怪訝な顔をする。
 いい話だ。カタギの子爵との縁談。しかも相手が乗り気だ。いわゆる玉の輿。これは引退してでも受けるというもんだ。しかし腑に落ちない。

「事情はわかったけど。あんたなんで泣いてるの?」
「‥マティアスが‥行くなって‥‥引き止めてくれなかった‥」
「はぁ?!あんたまさか?!」

 リアはとにかく惚れっぽい。いい人ができれば必ずミーアに報告していた。だがマティアスのことは聞いていなかった。
 
「あんたそれいつから?!」
「‥初めて会った時から‥‥」
「一年も前じゃないの!あんた何してたのよ!」

 リアが黙って目を閉じて頭を振る。
 一年も?!バッカじゃないの?!なんで?どうしてこんなに拗れてる?!そしてはたと気づく。

 ‥‥あれ?リアもマティアスが好き?
 え?これって?

 恋愛は押してなんぼ!のリアが俄然焚き付ける。

「告れ!押し倒せ!腕力ならあんたの方が強いから!」
「‥‥ダメだって。それしたら解散される‥」
「は?なんで?!」
「マティアスに最初に言われた。パーティ内で恋愛禁止だって。したら解散するって。玉砕するなら黙ってる方がいい‥」
「‥‥‥ぁんのバカ!!」

 ミーアは目元を手で覆う。ミーアは事情を知っている。リアの過去の男トラブルのせいだ。パーティ内での揉め事防止だろう。だがそのためにこんなに拗れている。リアも。マティアスも。
 リアが涙を拭う。目は泣き腫らしていた。

「‥‥今までなんだかんだ最後はダメ男だって追っ払ってくれてちょっと嬉しかったんだよね。私のこと気にかけてくれてるって。」

 いや、ホントにみんな!ことごとく!ダメ男だったから!マティアスがやらなかったら私がやってるとこだから!
 というか?今の口ぶりだと惚れっぽいのはわざとなのか?無意識?やめておけと言われたくて?それは流石に拗らせ過ぎでしょ?

 青ざめてちょっと引いてるミーアにリアは気が付かない。

「今回もダメ男だって‥言ってくれると思ったから冗談で引退するって言っちゃった。解散したらマティアスどこに行っちゃうの?マティアスなしで私もう生きていけないよ。」

 でしょうな。色んな意味でそうでしょうよ。リアがこうなったのは無責任なあの男のせいだ。

 戦闘の準備は当然だがリアの私生活全般の手配までする。ダメ男が近づけば排除する。借金すれば建て替えて完済させる。
 相変わらずの無表情だがやってることは野良猫の飼い慣らしだ。今更野良に返しても生きていけるわけがない。

 あいつが一から十までリアの世話をしすぎたんだ。リアの独り立ちどころかここまで甘やかして!
 わざとか?手管のつもり?だとしたらもっと許せない!ミーアが舌打ちする。

「ここまで手懐けといて放り出すのか?無責任すぎる!落とそうとしてるなら尚更!さっさとシバいときゃよかった!!」

 指をぼきぼき鳴らし鬼の形相だ。ちなみにミーアは現役時代は狂戦士バーサーカーだった。

 多分マティアスにも考えがあるんだろう。碌でもないかもしれないが。だからもう二人で話し合いをさせるしかない。

「ほら起きて!マティアスのとこに行きなさいよ。そして引退しないって言っといで!まだ間に合うから。解散手続き止めておくし。」
「ホント?まだ間に合うかな?」
「間に合う絶対!元気出せ!元気があればなんでもできる!どうせ解散の話が出てんだ。勢いで告ってこい!押し倒せ!んでもって振られたらぶちのめせ!その上で子爵ゲットだ!」
「そうだよね!わかった!ミーアちん、私頑張る!」

 握り拳のミーアの喝にリアが目を輝かせて立ち直る。立ち直りが早すぎだ。

 ワンピースに着替えたリアを伴いギルドに戻る。マティアスの家を知らない!とリアが言い出したのにはミーアも驚いたが。
 一年もコンビ組んでて家も知らんのかい?!
 仕方がない、と奥から個人台帳をひっぱりだしてくる。

「見てなさいよ。ギルドはなんでも知ってるんだからね!」
「ミーアちん!それヤバいっしょ!職権濫用って言うんだよね?」
「デカい声で言うんじゃないわよ!」

 二人はヒソヒソしてるつもりだが周りには丸聞こえだった。が、皆聞かなかったことにした。

「へー、街の郊外に一軒家か。一人暮らしなのに豪勢だな。金持ちじゃん。」
「じゃあ行ってくる!!」
「ちょっと待ちな!」

 ミーアがリアの首根っこを掴んで別の台帳を見る。ミーアも中々の怪力だ。そしてある箇所を読んで机に突っ伏して溜息を吐いた。

「やっぱり。‥‥あいつ、仕事受けてやがる。」
「ほえ?」
「今朝来た時戦闘服だったんだよね。あれから出かけたんだと思う。あー、これか。これはそうだね。割当業務ノルマだわ。」

 ミーアの言う意味がわからずリアがキョトンとする。

「今あいつは家にいない。討伐に出てる。一人で。」
「え?マティアス討伐できるの?一人で?」
「むしろソロ専門よ。まあそういう奴なんだけど。案件が厄介だよ。これソロでいく?いや奴なら大丈夫か。でも万が一があるし。うーん、でもなー‥」

 どっちかなーと唸るミーアにリアがキレた。

「大丈夫なのそうじゃないの、どっちなん?!どこに行ったの?!」
「地下迷宮だね。ゴルゴーンだ。」

 リアは息をのんだ。それはリアも行ったことがない。討伐以前にそもそも迷宮から無事脱出できる自信がない。
 しかも石化の魔物。万が一石化したら一人では復活できない。

「地下二階までは初心者用の迷宮だったんだけど、地下三階が見つかってさ。ゴルゴーンがいて大騒ぎになったんだよ。あいつなら大丈夫だとは思うが万が一もある。しょうがない、私も出るから‥‥」

 振り返ればリアがいなかった。二階から騒音が聞こえる。駆け降りてきたリアは青いワンピースに黒スパッツのままで手に戦鎚を持っている。格好と手の獲物がそぐわなすぎる。

「あんたその格好で行く気?!」
「あんまり防具関係ないことが最近わかったからいい。この方が動きやすい。」

 低い声のその物言いにその場にいた一同が絶句する。あんまり?防具が関係ない?どんだけの防御能力値?
 しかもちょっとお買い物に行ってきます的な格好で迷宮に入るという。それはあまりにも地下迷宮にそぐわない。

「時間ないから。ミーアちん、連れてって!」
「やっぱそうなるのね、方向音痴。待ちなって。私も準備するから。」
「連れてってくれるだけでいい。ソロの方が動きやすい。」

 リアのスイッチが入っている。この勢いは邪魔しない方がいい。長い付き合いのミーアはそう察した。

「わかった!馬で行くから落ちるんじゃないよ!」
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