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003:きみにきめた!①
しおりを挟むそれは一人の少女だった。年頃は十か十二くらいか。女人の群れの中ではあまりに幼い。小さな体にぶかぶかの大人の服を無理に着ている。真っ白な髪が背に流れ落ちて視線を奪われた。
だがそれ以上に———
似ている‥‥あのひとに‥
朔弥は迷わず指差した。
「彼女は?」
「あれは‥‥‥‥」
朔弥の指にファウナは顔を顰めた。明らかに狼狽している。
「‥‥あれをお望みでしょうか」
「ダメなのか?選べと言っただろう?」
「ダメではありませんが‥少し障りがございます」
「障り?何が問題だ?」
瞑目したファウナがふぅとため息をついた。
「あれは光の眷属で大精霊。位に問題はございませんが‥代替わりしたてでまだ育ちきっておりません」
「確かに幼いが」
「いえ、見た目ではなく精神の話です。なるほど‥あれをお選びでございますか」
精神?確かに目の前に進み出た少女は無表情だ。じっと朔弥を見上げるも感情が感じられない。だが目を逸らせない。その視線を無視できない。
「構わない。この子がいい」
女人の群れの中からどよめきが上がる。ファウナが背後の女性とヒソヒソと話し込んでいる。その姿で朔弥ははたと今の危うい状況を理解した。
「えっと?あれ?なんか誤解してる?」
「陛下の御心のままに。最初に陛下の御傍に控えさせなければならないところでございました。私の配慮が至らずお恥ずかしい。素晴らしい心眼でございます」
「あ?いや?幼い子が好みとかロリとか‥そういうんじゃ‥違うッ違うからな?!友達を選んだだけだからな?!」
「重々承知しております。ファウナは感服いたしております」
感服?ホントか?本当にそうか?!部屋の空気が生ぬるくなったぞ?!
あれほどいた女人たちがふわりと部屋から消えた。朔弥はビビったが全員精霊というのはホントだったんだと納得した。
「私も下がります。何かございましたらいつでもお呼びくださいませ」
「はぁ‥えっと、この子のお世話は」
「この娘は光のショウセイレイを従えております。王君がお望みでしたら小精霊に何でも申し付けください」
ファウナの姿がふわりと消えた。まだ見慣れない超現象にドキドキするのは仕方がない。
少女の体から光が溢れ何やら蛍の様なものが舞い出した。よく見たら蝶の羽をつけた小人だ。なるほど?これが小精霊か。脳内の漢字変換も二回目で対応出来た。
騒がしかった部屋が急に広く静かに感じられた。ものすごく広い空間に自分と幼い少女の二人きりだ。
朔弥は改めて少女を見やった。きょとんと小首を傾げて少女も朔弥を見上げていた。
真っ白なストレートな髪に同じくらい白い肌。目鼻立ちはくっきりしていて日本人離れしている。真っ青な瞳が朔弥を射抜く。あの時、この視線を無視できなかった。
全然似ていない
なぜこの子があのひとに似ていると思ったのか
訝しく思うも朔弥は少女の前にしゃがみ込んだ。
「ごめん、厄介なことに巻き込んじゃったね。君の名前は?」
きょとんとした少女は小首を傾げたのち左右に振った。この首振りの意味がわからない。名前を言いたくない?それとも厄介ごとじゃないと言いたい?
「えっと?名前ってわかる?言葉通じてるかな?俺の名前は朔弥って言うんだ。さ、く、や。さくや」
少女が口をぱくぱくするがやはり音が出ていない。かろうじて掠れた一音が出た。
「さ」
「お、上手、そうそう朔弥だ。よろしくな」
ファウナはこの子が未発達だと言っていた。声が出ないことも含まれるのだろうか。そうなるとこの子の名前もわからない。
「えっと?自分の名前は言えない?俺はさくや、君は?文字は書ける?手にかけないかな?」
だがこの少女が日本語を知っているとも思えない。なんとも焦ったい。少女は頑張って口を開き掠れた音を出した。
「るぅ‥ぁ」
「ん?るあ?ルナか?」
朔弥が何度か発音し少女が首を振ること数回、やっと頷いてくれた。
「ルキナか。いい名前だね。よろしくな」
少女がこくりと頷いた。相変わらず表情はない。声もだが感情も色々これから育つと言う意味だろう。意思の疎通ができるし今のところ問題はなさそうだ。
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