【完結】この度召喚されて精霊王になりました。

ユリーカ

文字の大きさ
16 / 72

005: 聖域降臨!①

しおりを挟む



 朔弥は楽観を決め込んだ。

 深く考えればドツボにハマる。衣食住は保障されている。命の危険もない。ホラーは苦手。血も嫌い。怖い目痛い目にも遭ってはいない、今のところは。つまり望んだ状況ではないが最悪の状況でもない。
 ファウナの何か言いたげな視線は痛いが繁殖期、王様云々も忘れた。しばらく問題ないだろう。そう踏んで早々に問題にぶち当たった。

「うわぁ、なにこれ‥」
「お口に合いませんでしょうか」
「口に合わない以前の問題。味がしない」

 食事がしたいと言えばファウナが驚いた顔をした。肉体がない精霊界ではそもそも食事からエネルギーを取る必要がないという。朔弥も腹は減っていないが一日三食きっちり食べていた習慣は簡単に消えない。脳が食事を欲しがった。

 見た目は豪華絢爛の料理だがどれも味がしない。食感もおかしい。歯ごたえが全部粘土のようだ。

「えっと?味覚って無くなるんだっけ?」
「そのようなことはございません。料理は食事をしたことがないものが作りましたので味がないのでしょう」
「うーん?そういうもん?」

 食べたことがないものに料理を作れというのも無茶か。

 じゃあこの料理はどこから?

 ふわふわと白い手が食卓に料理を並べる様子で思考を止めた。そこは学習済みだ。深く考えるのはやめよう。

「えっと?なら俺が作れば味がするんじゃないか?」
「陛下御自らおつくりに?」
「別にいいでしょ。キッチンどこ?」
「きっちん?」
「え?まさかのわからない?厨房?台所?」
「ちゅー?」

 料理がない世界にキッチンがあるはずもない。無駄とわかりながらも必死で説明する。ないなら作るしかない。食へのこだわりは人一倍だ。飯が食えないなら心が死んでしまう。

「えっとね?水が出て火が使えて材料冷やす倉庫があって食糧庫があって‥そんな部屋が欲しいんだけど」

 自宅のキッチンを思い浮かべる。リフォームしたての最新アイランドキッチンは掃除しやすく使い心地が良かった。脳裏に焼き付いた聖域が鮮明に思い浮かぶ。そんな思考でファウナに説明するも反応は鈍い。ファウナは困ったように首を傾げている。
 そこで朔弥は例により肩をトントンと叩かれた。この展開は何度も経験済みでもう慣れた。朔弥は、ん?と振り返る。

 白い手が背後の扉を指差した。先程までそこになかった扉。何もない空間にドアが立っている。誰でも知ってるかの有名な!どこにでも行けちゃうドアのように。突然現れたそれは見覚えがある聖域への扉だ。

「え?ええ?まさか?」

 扉を開けて朔弥は歓喜の声を上げる。そこは確かに朔弥の聖域のキッチンだ。アイランドキッチンにダイニングテーブル。大型冷蔵庫まで同じ。冷蔵庫を開ければ解凍中のウニやアワビ。アワビはまだ凍っている。奥には水出し昆布が見えた。チルドルームには大事に一枚ずつ食べていた千枚漬け。冷凍庫には牛トロ丼。

 冷蔵庫の前で朔弥がへなへなと腰砕けになる。常世で食い残した食材が目の前にある。涙をのんで諦めた食材が!

「これこれ!お前ホントすげぇな!俺んちのキッチンだ!くぅぅ!最高だよ親友!」

 散々ホラー扱いしていた白い手と朔弥はがっちり熱い握手をする。体があればハグしているところだ。嬉しいのか白い手がほんのり赤くなる。

「これは‥そんな‥」

 おずおずとキッチンに入ってきたファウナが青ざめている。

「すごいよ!うちのキッチンじゃん!帰ってこれたんだよね?‥‥って?あれ?何かまずいのか?」
「まずいというか‥ですね」

 眉間を揉んで瞑目するファウナ。何がいけないのか?

「これは陛下の“テンチソウゾウ”と“ジクウマホウ”のお力です」
「“てんちそうぞう”?“じくう”?」

 脳内で天地創造、時空魔法と漢字変換された。漢字表記は素晴らしい。一発で意味がわかる。

 天地を創造?時空?SF?創世記か?なんかすげぇのきたな。

「天地創造は大変珍しいお力です。全ての王君に顕現するものではありません。大変素晴らしいお力です」
「え?俺が作ったの?」
「正確には陛下のお力をお借りしてあの光の小精霊が作り出したようです」

 すでに白い手は消えていた。自分は使い方がわからない能力を使ってくれるとはありがたい存在だ。

「作られた‥えっと?ここは複製ってこと?じゃあ」

 浮かれていた朔弥の心がすっと冷えた。

 帰ってこられたわけではない。
 別に帰ってきたかったわけではない。
 あちら側に思い残したものもない。

 常世には未だに朔弥が帰らない本物の自宅がある。

 ふとキッチンから和室に続く廊下への扉に目をやる。


 あそこを開けたら和室の仏壇があるのか‥?


 ファウナは何やらブツブツ呟いている。ファウナの躊躇う意味がわからない。

「え?これ使っちゃダメだった?」
「いえ!めっそうもございません!どうぞ大いにお使いくださいませ!過去この能力をお持ちの王君は側女に部屋を設けて御子をたくさんおつくりでした!この能力で!側女を囲いお励みいた」
「さーってさっそく何か作ってみるかな?」

 握り拳で力説するファウナに朔弥がかぶせ気味に気合いの声を上げる。

 つまりキッチンなんか作んなと?
 いいじゃん気にすんな!皆まで言うなって!!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

処理中です...