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012: だいせいれいがあらわれた!(たたかう/▶︎はなす/にげる)②
しおりを挟むヴァルキリーの口調が慣れてきたのか砕けてきた。ものすごく軽い。無自覚か配慮もなさそうだ。素がこういう性格なのだろう。
精神を司るのにこの軽さ。
こんなガサツで大丈夫なのか?
「ちなみにどのくらい長寿なんだ?ファウナさんは五千って言ってたけど?」
「五千?ンな訳ないだろ?あいつサバ読みやがった!若作りしやがって!」
「そうは言ってもファウナっちはウチらよりは下だよね。若いっていいなぁ。あ、ウチらマンは超えてますよん?」
「マン?万年か?!」
バケモンだ‥もう桁が意味わからない。自分が二十年しか生きていないのが場違いなようだ。そこで隣にちょこんと腰掛ける少女の歳が気になった。
「えっと?じゃあルキナは?頼むから万はナシで!」
「ルキナはまだ全然生まれたてだ。十年くらいじゃねぇか?あ、この酒うめぇな」
十年。割と見た目通りだった。生まれたてというが自分より一応歳下だったとなぜか朔弥は安堵する。
一方でニクスが空になったカップ酒の瓶に一升瓶の酒を注いでいる。一升瓶には「細女」と書かれていた。朔弥も先ほど少し飲んだが甘口の飲みやすい酒だった。贈答でもらった酒、きっといい酒だろう。せめてニクスに美味しく頂かれれば酒も本望だろう。
ヴァルキリーがふわりとルキナに微笑んだ。
「ん?あれ?でもずいぶん大きくなったね」
「あらそうかしら?」
「うん、精神がものすごく成長してる。ちょっと見ない間にすごく可愛くなったし?何かあったん?」
「いいメシもらって王サマとにゃんにゃんしてるからじゃねぇの?」
「おいそこ!異議あり!発言が不適切だ!」
「被告の異議を却下。原告の発言を認めますわ」
赤面朔弥のクレームをおっとりヴァルナが裁判長のようにいなす。そこにさらにヴァルキリーが食い気味に反応した。目が爛々としている。
「え?なになに?恋バナ?そこもっと詳しく!にゃんにゃんってあのにゃんにゃん?え?ルキナが王サマの側女?オトモダチ?キャーッうっそ!こんな幼い子を?!あらぁ王サマってソッチなんだ?」
「ソッチってなんだよ?!そんなんじゃないからな?!」
万年生きた大精霊が三人も相手では二十歳程度の青二才は分が悪い。散々からかわれたところでヴァルキリーが立ち上がった。
「さてと、そろそろ帰るわ」
「え?もう行くのか?」
全然話を聞けなかった。もっとこっちの世界の話を聞きたかったのに。ヴァルキリーが苦笑する。
「下界ほっとけないし。精霊界の話ならニクスちんかヴァルナちんから聞いちゃって。急がないと下界は時間がここより早く流れるんで」
「そうなのか?」
「あ、陛下のいらしたトコヨ?はこことそんなには違わないとは聞いてるから。下界だけなーんでか時間の流れが早くって。えっと‥アッチをあまり留守にするとちょっと問題が‥」
ヴァルキリーが困ったように俯く。守護精霊の役目という意味にしてはもじもじしすぎだ。
「そうだな、まぁまた帰ってこいや」
「そうですわ、急がないと可愛い仔猫ちゃん寂しがってたくさん鳴いてるんじゃないかしら?」
「ソソソンナコトナイナイアルヨ!」
「ないんですの?あるんですの?」
ニヤニヤと笑う黒紫二人に慌てふためくヴァルキリー。そこを朔弥が文字通りに誤解する。
「仔猫?猫飼ってたのか?言ってくれたらよかったのに。引き止めて悪かったな。餌とか大丈夫なのか?」
「いいいいやぁ!ダイジョブデス!自分でできるんで!」
「へぇ?賢いな」
「ウウウウンウン!カシコイ!スッゴクカシコイヨ!」
壊れたようにぶんぶん頷くヴァルキリーがはっと目を見開いた。
「あー!そだ!これから王サマともオトモダチってことになるのかな?」
「まあそうなるか」
「じゃああだ名決めないと」
「は?」
「オトモダチはまずはあだ名でしょ?何がいいかね」
「いいいやいや?そんな歳じゃないし?なんであだ名?」
「サクヤ‥‥だったら‥さっきょん、さくやん、さくさく、やっくん、さくやまん、さっきー、さーや、それに」
ヴァルキリーの口から延々とあだ名候補が出てくる。話を全く聞いていない。大精霊は皆こうなのか?この歳で流石にあだ名は恥ずかしい。口を開きかけたところで朔弥がガチンと固まった。
「うーんと、あとはなんだろ、さっくんとか?」
さっくん
リビングの空気が凍りついた。痛いほどの沈黙。それとわかる凍てついたものが朔弥から放たれた。
「‥‥‥‥あだ名はいらない」
「ふぇ?でもさ?」
「俺のことはサクヤと呼べ。それ以外は許さない」
朔弥の低い声に、初めて見せる王の威圧に大精霊三人が息を呑んだ。立ち上がった朔弥が無言でキッチンへ消える。その後をルキナがついていった。キッチンからぼそりと声がした。
「お前らもう帰れ」
空気を読んだ黒銀ニクスが瞑目しため息をついた。
「‥‥ヴァルキリー‥お前ってヤツはいつもどうして‥ホントに精神か?」
「ヤバい。何か地雷踏んだかな?」
「もうお行きなさい。今日はお開きよ」
「うぇ~ん、ごめんサクヤ~」
その日朔弥がキッチンから出てくることはなかった。
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