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025:ルキナドレスアッププロジェクト③

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「お困りのようですわね。そんなサクヤに相談なのですが。うちの子を貸してあげようと思いますのよ?」
「うちの子?さっきの手?」

 ヴァルナの隣に水色の手が浮いていた。

「サクヤの意図はわかりますわ。ルキナを普段から着飾りたいのでしょう?正直今日の服は普段着ではありませんし」
「わかっててやってたのか?!」
「別に普段着の縛りはありませんでしたわ。勝負服ですもの」
「勝負服の意味が違う!」

 だがそもそもこの勝負スタイルをとったあたりでこうなったわけであって。スイーツに釣られたヴァルナが勝ちに行っても仕方がない。

「そこでなのですが、この子にも体を作ってあげられませんかしら?」
「体?」
「ヒカルのような体ですわ」

 ヴァルナが頬に手を当ててふぅとため息をついた。

「この子はおしゃれが大好きなのに体がないから自分は服を着られませんの。それがとても可哀想で。ヒカルのように体を作っていただければきっと喜びますわ」

 水色の手が慌ててヴァルナの影に隠れてしまった。どうやら驚いているようだ。

 ヴァルナの言いたいことはわかる。朔弥もヒカルに同じように思ったのだ。手だけでは可哀想だ、旨いものを食べさせてやりたいと。

 朔弥が隠れている水色の手に歩み寄った。手に視線を合わせたい。思いつきで片膝をついてしゃがんでみた。

「君はどうなんだい?体が欲しいかな?」

 王にひざまずかれ水色の手が少し困ったように手をモジモジと握っていたが、祈るように手を組み合わせた。お願いします、という意味だろう。

「うん、わかった。ごめんね、ちょっと触れるよ?」

 ヒカルの時は散々付き合いがあって気心が知れていた。だがこの水色の手は初対面だ。イメージがわからない。朔弥が騎士のように手を差し出せばおずおずと水色の手がそこに重ねられた。朔弥は目を閉じ気配を探る。

 可愛らしい手だ。働き者でヴァルナをとても慕っている。恥ずかしがりで少し人見知り?怖がりかな?でも好きなものには一途。おしゃれが本当に好きなんだな。

 一人の女の子のイメージが出来上がった。

 朔弥が目を開けてヴァルナを見上げた。

「水の小精霊が大量に必要だ」
「かしこまりました。お手伝いいたしますわ」

 部屋の端に控えていたファウナが気遣わしげに声をかけてきた。

「陛下」
「大丈夫だ、二回目だしヴァルナが手伝ってくれる」

 安心させるようにヴァルナがにっこりとファウナに目を細めた。自分が小精霊を集めると属性無視で大群の小精霊が押し寄せる。今回は水だけが必要だ。

 朔弥は目を閉じて右手をかざした。脳内でイメージに集中する。

 華奢な手だった。少し小柄。歳はヒカルと同じくらい。髪は長く艶やかで。目がクリッとした‥穏やかな水面みなも、優しい、癒しの水のような少女。

 朔弥の翳した手の前には水の小精霊が集まりだしていた。時空の彼方から数多あまたの水が現れる。小人の姿、魚や水鳥の形もある。それが集まって一つの渦を作り出した。

「まだだ‥足りない‥‥もっと来い‥もっと集まれ」

 千、万と集まり群れる小精霊の数があっという間に億、兆を超えた。渦が大きくなり輪郭がゆらりと歪む。魚、船、貝、飛沫しぶき。だがなかなか人の姿にならない。イメージ通りに形付かない。ただ時間だけが過ぎていく。予想外の展開で朔弥に焦りが浮かんだ。じわりと背中に汗がにじむ。

 なんだ?この間は出来たのになぜうまくいかない?何が足らない?今回は水だからか?

 そこへドレス姿のルキナがぽすんと朔弥の左手に抱きついた。

「ルキナ?」
「ルキナ、てつだう」
「お、サンキュ」

 そういえばヒカルの時もルキナに手伝ってもらったな

 焦りが消えて体の力が抜ける。緊張が解けた。どうやら無意識に力んでいたようだ。
 大きな雫型の水が光を放つ。ゆっくり輪郭を歪ませながら光り輝く人の姿を形取った。

 小柄な可愛らしい少女が目を閉じて宙に浮かび上がる。
 紺色のお仕着せと白いエプロンを纏っている。頭に纏うはエプロンとお揃いの白いヘッドドレスと左右の愛らしい赤いリボン。そして足には白いストッキングに紺のローヒール。白く透き通る肌にストレートのロングヘアはヴァルナと同じ紫がかった銀色。お仕着せの長い袖がふわりとたなびいている。肘から先の手はない。

 水の揺らぎのようにゆらめきながら出来上がった人形ヒトガタにヴァルナが感嘆の声をあげた。

「まぁまぁ!なんて可愛らしいのかしら!」
「どうかな?」

 水色の手が嬉しそうに小さく手を叩いている。気に入ってもらえたようで朔弥が安堵した。

「行っておいで」

 水色の手が少女の肘に繋がれば手は白く透き通った肌色になった。しばらくののち、お仕着せの少女が目覚めたように目を開けた。その瞳はやはりヴァルナと同じ紫色。水の眷属の色だ。

 紫銀髪の少女がふわりと床に降り立った。朔弥ににこりと微笑んでみせる。水がたゆむようにたぷんと輪郭が揺れた。やはりこのままでは崩れてしまいそうだ。

 そこで朔弥が目を閉じる。ルキナがぎゅっとその手を握った。

 深い水‥光が差し込んだ海だ
 天から降ってくるように朔弥の耳に音が湧き上がった。





 

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