【完結】この度召喚されて精霊王になりました。

ユリーカ

文字の大きさ
64 / 72

046:精霊の牢獄③

しおりを挟む



 洞窟は細く伸びていた。途中邪霊に出くわしもすぐに怯えたように身を隠す。朔弥の放つ精霊王の気配が邪霊を遠ざける。朔弥は足を止めることもなく黙々と奥へと進んだ。何か突き抜けたせいで思考は澄んでいて躊躇いはない。何も恐れるものはなかった。

 牢獄の最奥、少し開けた場所に出て朔弥が目を瞠る。そこには二人の大精霊。

「サクヤ‥」
「陛下‥」

 二人の大精霊が争っていたとわかる。その背後には牢の鉄格子。その中に朔弥が視線を送り息を呑んだ。

「ルキナ‥ヴァルキリー」

 牢の中で両手両足を鎖にばくされた精神の大精霊、そこに寄り添う光の大精霊。二人が投獄されている。見えたものが信じられない。

 ここは牢獄。番人しか入れない。おそらく番人はこの大精霊二人。だが二人は争っていた。一人は説得役。ニクスもそう言っていた。そしてもう一人は牢を背にしている、相手を阻止するように。一目で状況は理解した。しかし事情はわからない。

 その大精霊に朔弥は目を向けた。

「———これはどういうことだ、ファウナ」

 膝をつき頭を下げ平伏する樹木の大精霊ファウナは無言だ。朔弥の放つ威圧に水の大精霊ヴァルナが身を引いた。ニクスに囁きかける。

「これはどういうことですの?なぜサクヤがここに?!」
「悪い。地雷を踏み抜いた」
「はぁ?大事にしないよう説得するまで待つって」
「すまん、焦って動いちまった。今のあいつに逆らうな。あたしらでも消される」

 無言のファウナを見据えるも答えはない。取り繕うこともない。ファウナのその様子で朔弥の脳内にある可能性が浮かび上がった。

 目を細めた朔弥が視線を鉄格子に向けて右手を払う。その一振りで鉄格子が砂塵の如く崩れ去った。罪人を逃さないように特に丈夫に作られた格子を手刀一振りで粉々にした。控えていた大精霊二人が目を瞠る。

 無言で牢に入った朔弥が二人に歩み寄った。そしてヴァルキリーの枷に繋がる鎖を手刀で切断する。意識なく倒れるヴァルキリーを受け止めて抱き支えた。ルキナは縛されていなかった。きつく抱きついてくるルキナの肩を労うように抱いてやれば安堵の息が出た。語らなくてもその態度でルキナも不安だったとわかる。朔弥の中の焦燥が半分消えた。

「遅くなってごめんな。よく頑張った、えらかったぞ。大丈夫か?」
「ルキナへいき。まもったけどヴァルキリーつかれてる」
「どのくらいここにいた?」
「はんにちくらい」

 自分が眠っていた間だ。それはキツい。王であってもここのおそましさがわかる。息苦しい。精霊界で最上位に相当する光のルキナがヴァルキリーを守っていてもこれだけ消耗しているのは枷で縛されたためか。それとも下界で肉体を有しているためか。意識のないヴァルキリーの額に手を置いて精霊力を送る。そのすべはなんとなくわかった。ふわりと大精霊が目を開けた。

「ヴァルキリー?」
「サ‥クヤ?」
「ああ、すまん。巻き込んだな。俺のせいだな?」
「ごめん‥サクヤ‥わたし‥側女になれないよ」

 その言葉にやはりと朔弥は確信し目を閉じた。

 朔弥にそのつもりはない。この大精霊はあくまで自分の同士だ。心を許してはいるが恋愛対象にない。だがそう映らなかったあの大精霊に縛された。

「それは絶対ない。俺がさせない。本当にすまない。俺の意図したことではないがお前に酷いことをした」
「サク‥」
「下界まで送り届けよう。だがその前にもう少し力を。だいぶ弱っている」
「‥‥よかった‥」

 ふぅと安堵の息を吐くヴァルキリーとの会話をファウナが平伏しただ沈黙して聞いている。

「詫びがしたい。もう一度問う。お前の願いはないか」
「‥いいよもう」
「部下のしでかしたことは王の責任だ。そうだろう?」

 身を起こしたヴァルキリーの手を取り目を閉じる。精神の大精霊を通して下界の様子が朔弥の脳内に映し出される。
 灰銀色の髪の男が見えるもすぐに消える。そして傍に愛らしい小柄の女性。さらにそこにはもう一人の男。端正な顔立ち、やや冷たい雰囲気で背が高く鈍い金髪を有している。だがあまりに精霊力が希薄だ。

 魔術?魔導士か。少し違う?この男は?
 だがひどく心が硬い‥これは‥‥
 
 そこで映像がぷつりと途絶えた。ヴァルキリーが打ち切ったようだ。精神は頬を赤らめて目を伏せている。そこでこの大精霊が置かれている状況を理解した。

「なるほど‥‥これは手強いな」

 呟いてふむと朔弥が思案する。

 これもおそらく前例がないことだろう。歴代王の記憶はない。だが本能でわかる。精霊界の摂理を歪める行為だ。だが不安はなかった。

「ヴァルキリー、お前を守護精霊の任から解く」
「‥‥‥‥え?」
「お前はただの大精霊だ。誰のものでもない」

 ヴァルキリーが掠れた声を出して目を瞠る。周りの大精霊も同様だ。

「待て待てサクヤ!それはマズい!」
「なぜだ?」

 闇が思わず声を上げてからしまったと顔を顰める。これがこの大精霊の性分。考えるより先に体が動いた。

「いやぁその‥‥まだ召喚士は下界にいるし守護精霊がいなくなるのは」
「当然代わりの守護精霊は送るようになる。交代するだけだ」
「こ、交代すんのか?!」
「ありえませんわ!」

 今度は水も声をあげる。朔弥が眉を顰めた。それ程に異例のことなのか。

「ヴァルキリーはもう下界で肉体を得ています。それは守護精霊だからですわ。それを交代すればヴァルキリーがどうなるか」
「どうもならない。肉体もこのままだ。ただ守護精霊の任を解く。ヴァルキリー、選べ。あの男のツガイになるか?」

 精神の大精霊の喉がひゅっと鳴った。背後の大精霊たちも息を呑むが言葉は発しなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...