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035:精霊界最強決定コンペ開催!⑨
しおりを挟む「くっそ!ルキナ!ヒカル!光だ!」
肉弾戦を諦めたニクスの叫びに応じヴァルナに寄り添うヒカルが巨人の上空に眩い光の板を作り出した。鏡のようにそこから強力な光が巨人に降り注いだ。だがルキナは動いていない。それにニクスが怒声を吐いた。
「ルキナ!サボんじゃねぇ!光!」
「むだ」
バッサリ言い捨てるように呟いた少女に朔弥は絶句する。
無駄とは?
動かないルキナに舌打ちしたニクスが巨人に手を翳した。ただ光を浴びせるだけでは巨人にダメージは与えられない。これは光と闇の合成技。ヒカルの作った強い光で巨人の足元、水面に濃い闇が出来た。そこから巨大な闇の手が現れた。その手が巨人の足に絡みついた。
巨人を見下ろすニクスが牙を剥いた。
「———捕まえた‥闇に引き摺り込んでやるッ」
それはいつぞや王の召喚で見た闇の手とはまた別の、漆黒の手だ。
「あれは?!」
「闇の精霊魔法“深淵牢獄”、相手の動きを封ずる技でございます」
「封じる‥のか」
敵を倒さず無力化するのならばこうなるだろう。闇の手に絡みつかれ巨人の歩みが止まるもキキキと嫌な音が響いた。ぷちぷちと何か裂けるような音。
巨人が闇の手を引きちぎった。引き裂かれた闇の手が散り散りに崩れ落ちていく。
「チッ ヒカルだけじゃ光が弱かったか‥」
ニクスが顔を歪ませ再び鎌を構え直した。
ルキナが加わっていれば相当に強い魔法だった。なぜ手助けしなかったのだろうか。訝しむ朔弥にルキナの声は凪いでいた。
「むり。わたしたちじゃあれはたおせない」
「ルキナ?」
「あれはちがう」
「違う?じゃあどうすれば?」
無表情で語るその言葉の意味がわからない。だが動揺した様子が一切ない。ルキナが朔弥をついと見上げた。
「サクヤはどうしたいの?」
一方でニクスは荒い息だ。散々鎌を振るっても足止めもできない。何か達観したように顔を伏せる。
「これでもダメか‥ファウナ行け!」
朔弥は茫然としていた。あの大精霊二人でも歯が立たない。ニクスの声が水の中にいるようにくぐもって聞こえる。そして正面の黒い巨人を見上げた。
穴のせいで顔のようにも見えるが直感で違うとわかる。生命体ではない。そこから命が感じられない。
先程ファウナは言っていた。
存在する精霊や生命体は過去の精霊界と同じ。世界の姿のみ変わる。目の前の穢れた破壊神は生命体ではない。ならばあれを創り出したのは———
「‥‥‥俺があれを創ったということか?」
だとしても弱点さえわからない。
これもう無理ゲーだ!レイドボスというなら特殊武器かスキルが必要なのかもしれない。そんなもの、初見では絶対無理だって!
あの大精霊二人では止められない。もうダメだ。
圧倒的な力に前に朔弥は死を意識した。
古代の名将然り、戦国の武将然り、死を予感するとはこういうものかとどこか冷静に思考が働く。そこへファウナが朔弥の手を取った。
「陛下、どうぞこちらへ」
「え?」
ファウナの背後には時空が開いている。ファウナがその中に導く。ファウナが朔弥の背後に控えていた理由。
「結界の中の城は安全でございます。避難を」
「だがあの二人が」
「大精霊は死にません、大事ありません」
死なない?死なないからいいのか?いや、それでも苦痛は感じる。先ほどのミズキの声なき悲鳴でわかった。死なないからいいというわけじゃない。
「ダメだ!あの二人を撤退させろ!」
「なりません、陛下が先に」
「ファウナ何やってんだよッ 行けって言ってんだろッ さっさとしろッ」
前のめりになっていた朔弥の体が強い力でぐいっと後ろに倒される。そのまま時空に引き込まれそうになるも朔弥が堪え踏ん張った。足元にあの手が見える。朔弥の影から伸びる闇の手が朔弥を時空の切れ目に引きずり込んでいる。
「ニクス!ダメだ!そいつは俺が創り」
「行けよ!あたしらを最弱な大精霊にするつもりか!王サマが生きてりゃまだ立て直せるんだよ!!」
「違う!そうじゃ」
「これは戦略的撤退、逃げることは悪いことじゃありませんのよ!」
ヒカルの側で立ち直ったヴァルナが声を張る。赤い湖の水を操り巨人を縛そうとするもそれさえ引きちぎられる。巨人の歩みはゆっくりになるも止まらない。真っ直ぐに朔弥を目指して近づいてくる。
なんでこっちに?狙いは俺か?
真っ黒な巨人。頭に角があるのは悪魔か鬼か。鬼ならばその役目は懲罰。地獄に堕ちた咎人を捕らえにきた。
「大丈夫だ!あたしらもすぐに行く!」
「早く!長くもちませんわ!」
ニクスとヴァルナの声に朔弥が迷った。
二人が時間を稼いでいる。
自分がここにいれば皆が犠牲になる。
だがこのままで解決するのか?あれを残したまま。あれはきっとどこまでも追ってくる。ここでまた逃げて———
俺は逃げるのか?また?
怯え逃げようとする自分。皆を気遣い留まろうとする自分。
身を震わせ迷い躊躇う朔弥の目の前に白い手が差し出された。その白い手の主を朔弥は見下ろした。
「サクヤはどうしたいの?」
「ルキナ?」
「にげる?たちむかう?」
朔弥は動揺で目を瞠った。
この少女は朔弥の躊躇いさえ見透かしてる。
「サクヤさいきょう。たたかうならルキナがてつだう」
ぎゅっと手を握られた刹那、朔弥の迷いは晴れた。
「‥‥俺の足を放せッ」
それでも縋り付く闇に手から己が足を引き抜いた。妨げるファウナの手を掻い潜りすり抜けてルキナに導かれるように前に進み出る。
「陛下!なりません!」
「邪魔するな!下がれ!」
朔弥の低い声に一喝されファウナがびくりと動きを封じられた。
ルキナが朔弥の右手首を握り空に掲げた。ルキナの意図がわからなかったが朔弥は抵抗せず身を任せる。
「ルキナ?」
「だいじょうぶ。サクヤがここのおきて。いちばんだから」
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