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二人の王編
『魔猊』
しおりを挟むレオンハルトはそれから一週間、こんこんと眠った。
魔素の枯渇に加え、新しいスキル『獣化』が発現し『多重記憶』が消えた反動が体に来たのだ。
目を覚ました時、傍にはアレックスがいた。側の椅子に座ってレオンハルトの寝具に伏せて眠っている。そのあどけない表情が幼い弟のようにも見えた。
なんだかんだとこいつに目をかけたのはそういう気持ちもあったのかもしれない。
「起きろ。アレックス。」
がばりとアレックスが体を起こした。うたた寝だったのだろう。
「陛下?!お目覚めですか?!ご気分は?」
「色々すまなかったな。」
その言葉にアレックスが固まる。信じられないようなものを見るようにレオンハルトを見た。
流石に色々の一言で済ませすぎたか。それとも?
「俺が詫びたら何か悪いのか。」
「いえ、初めてでしたので。」
「そうだったか。だが世話になったのだから謝罪は必要だろう。」
柄にもなく照れ臭くなりふいと視線を外した。それを見たアレックスが吹き出した。
「いつものようにお願いします。今までの貸しと帳消しだって。」
ああ、こいつはそういうやつだった。何だか安心してつい憎まれ口が出た。
「馬鹿が。あの程度で帳消しになるわけないだろう。まだまだ貸しは残っている。完済するまで許さない。」
「ええ?!俺そんなにツケがありましたっけ?」
「利息がついて膨れ上がっている。」
「‥‥利息は勘弁してください。」
ルクレティアとテオドールには散々泣かれてしまった。特にルクレティアは後宮を抜け出しずっと付き添ってくれていた。なのにレオンハルトの目覚めに立ち会えなくてアレックスに当たりまくっていた。
悪いと思いつつも、その様子を見たレオンハルトから笑みが溢れた。
検証したいことがあり、宰相業務で席を外すツェーザルを除き、『獣化』を見た三人を部屋に呼んだ。『獣化』を特定するために呼んだのだが。
「あれは見たことのない獣でしたな。例えるならなんでしょうかのう。」
「黄金の毛皮で‥‥。すみません、余裕なくてそれくらいしか憶えてません。」
「足が四本あって尻尾があって顔がにゅっとして、あと頭のあたりに何やらもさもさ~っと。」
三人もいてこの情報量か。しかも一番情報があるグライドの説明が雑でよくわからない。言葉でわからんのになぜ身振りで説明しようとしてるんだこの男は?最初からツェーザルだけを呼んだ方が良かったか?
とりあえず全員に絵を描かせてみたがひどかった。
なんだこれは?アレックスのは黄色い犬?グライドは襟巻きを巻いた猫か?ぎりぎりバースのは見れたものだったがなんで墨絵なんだ?これは記憶というより絵心の問題か?描かせた俺が悪かったな。
ハイドの記憶からなんとなく予想をつけて自分で描いてみた。
「これです!まさにこんな感じでした!見てたのですか?!」
「うわっ陛下上手!画家ですか?!なんでも出来すぎでしょ!マジ怖っ才能怖すぎます!!」
「お前らがひどすぎるんだ。」
騒ぐアレックスとグライドにレオンハルトはふん、と眉を寄せた。俺をお前らと一緒にするな。
ハイドの記憶では檻に入ったライオン。この世界の今の時代には存在しない獣。千年前は存在していたように思う。始祖王の記憶が微かに思い出された。
形が特定されたからだろうか。スキルが『獣化』から『魔猊』に変わった。当たりだったか。
呪いは『獅子化』か。始祖王はかつて『猊下』と呼ばれたこともあったな。皮肉なものだ。
『魔猊』はなかなか手を焼いた。生後半年で『魔狼』になったアレックスと違い十歳で始めたせいなのか、王宮の魔素の薄さか。
絶対安静中の暇つぶしにベッドの中で色々試してなんとか変化できるまでになった。
朝様子を見にきたテオドールがベッドの中の『魔猊』を見て腰を抜かさんばかりに驚いていたが、状況がわかると根にもたれてしばらくねちねち嫌味を言われた。悪気はなかったのに狭量な男だ。
絶対安静の意味がおわかりですか、とテオドールに冷たく言われたが暇なものはしょうがない。
たまたま見舞いに来たメリッサにも『魔猊』を見られてしまい、半狂乱で抱きつかれてアレックスに殺気を飛ばされた。これは不可抗力だ。俺は悪くない。
あの騒動がなかったかのように、穏やかな日々に戻っていった。
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