超能力者の私生活

盛り塩

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第25話 訓練学校④

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 とりあえずゲロの入ったゴミ箱を廊下に出し、先生は席に着いた。
 着いたというか突っ伏したといった方がいいだろう。

「あ……あの……」
 その頭をツンツンと突く。

「なぁに? ……ああ死にたい」
「いや、その私……どうしたらいいんですか?」
「……一緒に死んでくれる?」
「馬鹿を申すな?」
「……わかったわ……じゃぁ授業をはじめまぁ~~……」

 そしてゆらりと立ち上がり、白板にべチャリと張り付く死ぬ子さん。

 だれか助けてくれ。

 先生は何かブツブツ言いながら白板に文字を書いていった。

「まぁず。あなたがぁこの学校で……何を学ぶべきかを説明させてもらいまぁ……」

 す、ね。すまで言って。

 イライラとしながらそれでも大人しく聞く私。
 いちいち突っ込んでいたら、いつまでたっても話が進まないのだ。
 そして白板に書かれた文字は、

『清く健全に生き抜くこと』

「はいっ!」
 ビッと手をあげる私。

「はぁい、宝塚さぁん」
「説得力がないんですけどっ!!」
「……そおね。私も自分で書いててびっくりしたわ……」

 そしてゆらゆらと歩いてきて、ガッと私の両肩を掴む。

「……私だってねぇ……。書きたくないのよ、こんなキラキラとした言葉ぁ~~~~~~~~……。……ほんと、反吐が出るわぁ~~~~……。でもぉ~~……これ、決まりだからぁ~~……言ってんのよぉ。学校のぉ方針だからぁ~~……まぁ誰も守ってないけどねぇ、ふふふふふふふ」
「そ、そうなんですか」
「そうよぉ~~……だからぁ……一応、仕事だからぁ言うは言うけどぉ……聞き流してくれてけっこうよぉ~~……どうせみんないつか死ぬんだしぃ~~……」

 そしてガタコンと椅子に座り込むとへたり込みながら私を見上げ、

「……ベヒモスのことは知ってるぅ?」

 と、尋ねて来た。
 な、何だろう突然??

「え、あ、まぁ……所長から聞きました。
 ……なんでも暴走した超能力者の成れの果てだとかで……」
「そう、そう、それぇ~~……。
 けっきょくねぇ……そうならないようにぃ訓練をするのがぁ~~……この学校の目的のほとんどなのよぉ……ああ、死にたい」

「は、はぁ……」

「……もうねぇ……それが出来たらぁ、後はもうどうでもいいわけぇ~~……。
 それこそ、死のうが生きようが殺そうが殺されようが……。
 だからねぇ~~……、私はぁあなたにぃ~~その術《すべ》を教えてあげるのがぁ仕事ってわけよぉ……面倒くさいんだけどねぇ~~……」

「暴走しない術……ですか」

「そぉう。……まぁ簡単に言えばぁ……能力を知りぃ、それをぉ完全にコントロールする知識と技術を~~……教えるってことよぉ」
「な、なるほど……それでその、質問があるんですけど」
「なぁにぃ? 自殺の仕方とかならぁ~~……私ちょっとうるさいほうよぉ?」
「私の他に生徒っていないんですか??」

 ずっと我慢していたが、この人と二人っきりでいるのはマジで辛い。誰か、誰か一人でいいから仲間《みちづれ》が欲しかった。

 だが、私の希望は脆くも打ち砕かれる。

「いないわぁ~~……私の受け持ちはぁ、あなた一人よぉ~~うふふふふふふ。
 卒業までぇ……マンツーマンでぇ、じっくり鍛えてあげるからぁ~~……一緒に頑張って逝きましょうねぇ~~うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ♡」
「最悪じゃっ!!」

 心の声を収めきれずに音にしてしまった。

「あらぁ? いい響きぃ♡ 先生好きよぉ……そいういう否定的な言葉ぁ……。
 ああ……あなたに殺される未来を想像するのも良いものねぇ~~ふふうふ~~~~~ん、あ、あふっ……」

 ピクピクと痙攣しだす死ぬ子先生。
 ……だめだこの女、完全に狂ってやがる。

「はぁ……いけないいけないぃ……仕事を忘れてピーーしちゃうところだったわぁ~~……」

 ヨダレを拭きつつ我に返る狂先生。
 そして、

「まぁ、そういうことだからぁ~~……まずはぁさっそくぅ~~あなたの能力を見せてもらいたいわけよぉ~~……」
 と、目をギラつかせ懐から何かを取り出した。

「え!?」
 それが拳銃だということに私が理解するより早く、

 ――――ガンガンガンガンッ!!!!

 乾いた音が部屋に響いた!!
 ――――っ熱!???

 そして体から血が噴き出す。
 ――――撃たれた?

 それに気が付くのと、衝撃で壁まで吹き飛ばされるのは同時だった。

「――――なっ!??」

 い、いきなり何をと、先生を見上げる。
 しかし先生は、ものすごく楽しそうな表情で今度は私の眉間に狙いを定めている。

「ちょ、ちょっと待ってっ!!」
 言い終わるより早く、

 ガンガンガンッ!!

 再び発泡される弾丸。そこに全くの躊躇は無かった。

「ぐっ!!」

 しかしそれをギリギリかわした私は、椅子を投げつけ先生を怯ませる。
 その隙きをついて体当たりをして馬乗りになり、銃を持つ腕を押さえ、顎の下を鷲掴みにし体を固定する。

「ぐぅ、うふ、うふふふふふふふ……いいわぁ~~……」

 動きを封じられた先生は、私を見つめ恍惚の表情で笑う。
 頭部から流れた血がボタボタと先生の頬に落とされ、まるで赤の化粧をした不気味なピエロのようだった。
 かわしたと思った弾丸は皮膚と頭蓋骨を削っていた。

「い、いきなり何をするんですかっ!!」
「……だからぁ、言ったでしょぅ? 能力をぉ、見せてもらうってぇ~~……」
「だ、だからっていきなりこんなっ!!」
「だってぇ~~……仕方ないでしょぉ……あなたの能力ってぇ『不死身』なんでしょぅ~~……。だったらぁ、殺してみなくちゃぁわからないじゃぁないのぉ??」

 ――――くぁwせdrftgyふじこlpっ!!!!

 だからってホントに殺そうとするか!??
 私は言葉を失って卒倒しかける。

 しゅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。
 体から湯気が上がる。

「……あらあらあららぁ~~……? うふふぅ、その姿も可愛くていいわぁ……殺しちゃいたいくらいぃ~~~~♡」

 銃の傷を修復したのだろう。
 その代償に痩せてしまった私の姿を見て、先生はまた興奮を強めるのだった。
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