超能力者の私生活

盛り塩

文字の大きさ
上 下
26 / 205

第26話 訓練学校⑤

しおりを挟む
「あ、あ、あ……あのですねぇこれでほんとに死んだらどうするつもりだったんですか!?」

 ようやく引いてきた痛み。止まった血の代わりに冷や汗がどっと出る。

「その時はぁ~~……。うん、責任をとって自殺するわぁ……」
「やめろう」

「うふふふ。でもあなたの能力……報告書通りすごいわねぇ、ほんと死なないのねぇ~~……でぇも、ちょっと残念だわぁ」
「残念とは!?」
「……頭を撃たせてもらわないとぉ、ホントの不死身か解らないじゃなぁい?」

 そう言って私が封じている、銃を持っている方の腕に力を込める先生。

「やめてください、やめてくださいっ!! それ私だって試したことないんですからっ!! 本当に死んだらどうするんですかっ!???」
「だからぁ……そのときはぁ一緒に死ぬからぁ~~……うふふ」
「だぁ~~~~~もうっ!!!!」

 先生から銃を剥ぎ取り離れた。

「ああん、返してよぉ~~~~~……」
「返すかぁっ!! 返したらあんたまた私を撃つでしょっ!!」
「もう……ノリの悪い子ねぇ~~……まぁ、いいわぁ。一応、能力の確認は出来たわけだしぃ……うん」

 そう言って先生はマジマジと私を観察する。

「ま、まだ何か!???」
「う~~~~……ん? いやぁ何だかすごいなぁと思ってぇ~~……」

 ガタコンと椅子になだれ込み、自分の腕を枕にして突っ伏す先生。
 私の返り血で机がベチャベチャになるのは気にしないらしい。

「あなたねぇ~~……それだけの能力を使ってもぉ……ファントムのブレが一切出ないのねぇ?」
「……ファントムのブレ???」
「そうよぉ~~……あ、そうかぁ……そこはまだ教わってないのねぇ……あ~~……どうしよう……説明がぁ面倒くさいわぁ……死のう」
「いや、そんなことで死なないで!??」
「……しょうがないわなぁ~~~……私、教官だからなぁ……んっ……」

 心底面倒くさそうにして体を起こすと、私に対面に座るように目配せする。

「あのねぇ……超能力ってねぇ、実は幽霊(ファントム)の力なのよぉ」
「はい?」
「幽霊……ていうかぁ……霊魂っていうかぁ~~……。
 まぁその辺りのモノよ、察してぇ?」

 察っせれんが?

「それがねぇ……少しの力だと隠れてるんだけどぉ……強い力を出そうとするとぉ……出てくるのよぉデレデレデレデレ……って」

 舌を出し、おばけのポーズをして顔を近づけてくる先生。ごめんなさい、似合いすぎてます、違和感無さすぎです、ごめんなさい。

 しかし幽霊だとう??
 それ、どこかで見たような……。

「あ、説明会のとき能力を使った片桐さんの後ろにうっすら見えたあれって……」

 私はその時の光景を思い出して口に出してしまう。
 たしか、私に能力を披露するためにペンを半分消失させたときだ。
 あのときは目の錯覚だと思って気にしなかったが、あれがもしかしてファントム?

「……なによぉ、あんたぁもしかして片桐のバカに会ったわけぇ?」
 不機嫌そうに睨んでくる先生。

「いえ、まぁちょとお世話になったというか……脅かされたというか」
「ふぅん……あのバカ女ぁ、あいかわらずぅ殺しまくっていたでしょぉ~~~~……?」
「ええまぁ……」

 すると先生は顔面を両手で覆って、

「はぁ~~……羨ましいわぁ……私も殺したぁい……クソで自己中で口先ばかり綺麗事言っている奴らをゴミのように始末したぁい~~……」

 この人は外でもこんな台詞を言っているのだろうか??
 だとしたらぜひとも他所では話しかけてもらいたくない。

「あの……それでファントムとは」
「あう~~……そうね、それね、はぁ……死にたい殺したい。
 でぇ……あんまりぃ、力を入れすぎてしまうとぉ……その霊魂が体からはみ出てきてぇ、それでもまだ使うとぉ、完全に分離しちゃうのよね~~……」
「分離?」
「そうよぉ。例えるならばぁ~~……鳥カゴから文鳥が逃げていってしまう感じかしらねぇ……ああ、ピーコ……死にたいわぁ」

 ピーコの思い出はとりあえずスルーしてと。

「で、分離するとどうなるんです?」
「狂うのぉ」
「え?」
「あなたも見たでしょぉ? ベヒモス。 あれになるのよぉ……」

 なるほど……つまりあの暴走した人たちは、そのファントムとかいう霊魂を力の使いすぎで分離させてしまった者たちってことか?
 そのファントムが分離するとなぜ狂ってしまうかはわからないが。

「ベヒモスになっちゃう可能性はぁ~~……超能力者ならみんな持っているわぁ。そしてその能力が強ければ強いほど厄介なのよぅ……」
「まぁ片桐さんのような人が狂ってしまったら……それはそれは地獄絵図となるでしょうね」

 ゾッとしながら答えると先生は逆に頬を染めて、

「ねぇ♡」
 と、短く答えた。

「と、ともかく……私が凄いっていうのは?」
「あなたはねぇ……それだけの傷を癒やす能力を使っても、ファントムのファの字も見えてこなかったのよねぇ~~~~……。
 普通ぅ、なんの訓練も受けていない子だったらぁ、どんなに微小な力を使ってもすぐ顔を出すのよぅ?」

 そう言って先生はまたスマホを私に向けシャッターを連射した。

 パシャシャシャシャシャッ。

 すると確かに先生の後ろに何か人影のようなものが見えた。
 おぼろげで良く見えないが、白い着物を着た女の霊のような……。

「ねぇ~~……みえたでしょぅ? 私のファントムぅ。
 教官の私ですらこの程度の能力《ちから》の使用で出てしまうものなのよぉう?
 それがあなたには微塵もぉ~~……でていないぃ」
「それって、超能力を完璧に使いこなせてるって……ことですか?」
「まぁ~~……生まれつきの天才って説もあるけどぉ……。
 もしかしてぇ~~……能力そのものが常識はずれに強いってこともぉ考えられるかもねぇ~~……」

「能力が――――強い?」

「そおぅ。自分の体をぉ、修復する程度の力じゃぁ~~……使ったうちにぃ、入って無いとかぁ~~……?
 どちらにせよぉ……検証する必要があるわぁ……うふ、うふふふふふふふふふ」

 そして先生は、新しいおもちゃを見つけた子供のような顔で私を見つめ、舌なめずりをしたのだった。
しおりを挟む

処理中です...