超能力者の私生活

盛り塩

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第67話 ドキドキ大作戦⑥

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 ギリギリギリギリギャギャッ!!

 タイヤを軋ませながら死ぬ子車は裏路地へと滑り込む。
 ポリバケツをふっ飛ばし、野良猫が飛び去る。
 横滑りしながら止まったその目先に瞬は倒れていた。

 ここはちょうど飲食店街の裏道、道端には収まりきれないほどの生ゴミが山積みしてあり、瞬はその袋の山に埋もれるように倒れていた。
 太ももから大量の血を流し、落下の衝撃で頭を打ったか、完全に気を失っている。

「ちょろいものね、やっぱり弱ベヒモスだわ」

 そう言って死ぬ子先生は車を降り、瞬に近づく。
 いつの間にか手には二つの手錠が握られていて、慣れた手付きで瞬の手足を固定した。

「よし。これでとりあえずは暴れないわね。
 ……さて、ほんとは持って帰って色々実験してみたいんだけど、車が汚れるのはちょっとね」

 言いつつ色々思案する先生。
 いや、何をいまさら……。
 私は傷付いてベコベコに凹んでしまっている車を見て呆れる。

「あんたちょっと今ここで能力使ってみなさいな。うまく行けば傷も治って血も止まるし、ベヒモス化も解除出来たら今日の訓練はこれでお終いにするから」
「んなお気軽な……」
「ほらほら、さっさとしないと騒ぎで人が来ちゃうわよ?」

 すでに遠くの方からサイレンが聞こえてきた。さっきの事故でも処理しに来たのだろう。ここから少し距離は離れているが、このままゆっくりしていたら面倒な事になりそうだ。

「しょうがない……」

 いくらこいつがベヒモスで殺人鬼だとしても、人の形をしたモノで実験なんてしたくない。でも怪我したこいつをこのまま放っておくのも見辛いので、ここはひとまず能力を使ってみることにする。

 私はゴミ袋に埋もれる瞬に近づき、血が溢れ出ている足の銃創に手をかざす。

「で?」
 と私。

「で?」
 と死ぬ子先生。

「いや、能力を使うってどうするのよ?」

 そう言えば、私は自分の能力の使い方をよく知らなかった。

「う~~~~~~ん…………」
 そう聞かれてずいぶん困った顔をする死ぬ子先生。

「とりあえず、この間やったみたいにしてみれば?」
 などと適当なことを言う。

「いや、そう言われてもこの間はもう無我夢中で……。マンションの時も半分意識がなかったし……ほとんど覚えてないんですけど?」
「まぁ……そうよねぇ」

 額に手を当てて唸る先生。

「正直、能力の発動条件って人それぞれなのよね。私みたいに写真を意識するだけで発動する者もいれば、妹の百恵のように自分のファントムの名前を呼んでそれをきっかけにしているものもいるわ。
 どうすれば自分の能力が自由に発動出来るようになるか、それを見つけるのが能力者の初めのハードルなんだけど……あなた何か心当たり無い?」

「心当たりっていうか、私の場合ほとんど無自覚に発動しているから……。傷ついたら能力が勝手に動いて体を治しちゃうみたいな……」
「菜々や楠彩花、あと、マンション襲撃の時の馬鹿男の場合はどうだったの?」
「あれは……だから、無我夢中で……気がついたらやってたって感じ?」
「……つまり、何もわからないと言うことね?」
「……そういうことですな」

 すると先生は私ににじり寄って肩に手を回す。
 わあ、嫌な予感しかしない。

「ってことはよ?」
「……ってことは?」

 一筋の汗が頬をつたう。

「状況を再現するのが一番の良策だとは思わない?」
「状況と言うと?」

 私の中の危機管理センサーが一斉に警告音を鳴らす。
 それに合わせるように私の顔全体が引きつり、強張っていく。

「そう、その顔っ!! その恐怖と危機に晒された表情、それこそがあなたの能力の発動条件だと私思うのようふふふふふふふふふふふふふふふ」

 先生の顔がいつもの不気味な職場モードに変わる。
 と、――――ぐりっ。
 横腹に冷たい感覚が走った。
 見ると拳銃が押し当てられていた。

「おやおや、なんのご冗談で??」

 訊ねる私の耳を、先生のささやき声が震わした。

「うふふふふふふふふ。……冗談なんかじゃ~~……な・い・ん・だ・ぞ・☆」
「や……やめろーーーーーーーーっ!!????」

 ――――ガンガンガンッ!!!!
 しかし躊躇なく弾丸は私の体にめり込んだっ!!

「げぇぇぇぇっっ!!??」

 吹き飛ばされ、撃たれた箇所から血を吹き出させる。
 やがて身体からシュウシュと湯気が立ち上がり、みるみる傷が塞がっていく。
 代わりに私の体は精力を消耗し、縮んでいく。

「ほらほら、今のうち今のうち!! 
 どさくさにまぎれてこいつも治してほらほらっ!!」

 ペシペシと瞬の頭を叩きながら私を起こそうとする。
 いや、ばかやろう。こっちは痛くて苦しくてそれどころじゃないんだってかこの女絶対ぶっ殺す!!!!

 やがて湯気が収まり体の傷が癒えた。
 ゼイゼイと息を整えつつ、すっかり痩せて美少女となった私。
 鬼の眼で死ぬ子を睨む。
 しかしバカは絶頂しそうな表情で、

「ああいいわぁ……その顔ぉ~~……そんな表情されたらぁ……先生逝くわよぉ~~~~」
 などと変態丸出しな恍惚な目で顔面を近づけて来る。

「お、お望み通りにしてやるわっ!!」

 怒りが絶頂に達した私はその変態バカに飛びかかる。
 だがそれをひらりと躱した死ぬ子は、私の足を引っ掛け、

「ん~~……まだぁ、ちょっと足りないみたいねぇ~~……?」

 と、倒れ込んだ私の頭に銃を突きつけた。

 躊躇なく引かれる引き金を睨みつけながら決心する。
 このアマまじで能力が自由に使えるようになったら殺して蘇生して殺して蘇生して殺して蘇生して殺して――――、

 ――――ガァンッ!!!!

 銃声とともに、意識が真っ黒になった。
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