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第102話 女将のお題⑨
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「戻せぇ~~……!! 戻せぇぇぇ~~~……!! 戻さないと呪って死んでやるからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~……」
私の足にしがみつきながら、恨み言を綴る、セーラー服を着たオバサン。
「……これは…………」
「うむ……見るに耐えんな……」
菜々ちんと百恵ちゃんの二人は、まるで汚物を見るかのような目で、そんな死ぬ子先生の痛ましい姿を見下ろしている。
今の先生はさっきまでの若々しい姿ではなく、元の29歳児に戻っていた。
「…………おい、ヒロインよ、これ……どうやったのだ?」
場末のコスプレ酒場にたまに出没する痛ましいベテランコンパニオンと化してしまった姉を指差し、百恵ちゃんが聞いてきた。
「いやぁその、普通にラミアに頼んで元に戻してもらっただけなんだけど……。
ほら、存在エネルギーを操作だっけ? それが出来るんなら、簡単に元にも戻せるって事だろうと思って……」
「……なるほど。つまり、姉貴の言っていた説明は正しかったというわけか。
しかし、だからといってそんな簡単に操作出来るものなのか?」
「ラミアに頼んだらやってくれたけど……?」
その言葉を聞いて二人とも呆れ顔になる。
「……普通はファントムと会話なんてありえないんですけどね」
「まったくだな。しかし、そうなるとヒロインは能力操作に関しては訓練の必要は無いかもしれんな……」
「え? そうなの??」
「うむ、普通は宿主が半ば無理やりファントムから能力エネルギーを引き出し、自分の身体を介して指向性のある術に精製し直して発動させるわけじゃが、これを上手くやるのがなかなか難しく、長い訓練が必要となってくるのじゃ。
しかし、お主はそれをほとんどファントムにやらせているという事ならば話は変わってくる」
「そうですねぇ。……能力を行使するのがファントム本体ならば宿主の熟練度は関係無くなりますから、複雑な能力もファントムとの話し合い一つでいくらでも使えるって事になりますね」
「うむ……まったく羨ましい限りじゃが、ファントムに好かれているなどと特殊な状態にあるヒロインだけにもたらされたアドバンテージみたいなものか……?」
じと……と、嫉妬の眼差しで私を見てくる二人。
要するに、本当は訓練が必要な能力の操作を、私の場合、ラミアが好意でやってくれていると。そしてそれはとても特殊なケースで二人は羨ましがっていると。
「そうか、だったらもう私、自由に超能力が使えるようになったってこと? 訓練もせずに?」
「うむ、どれ……ちょっと試してみようか?」
そう言って百恵ちゃんは、私の足にしがみついてメソメソしている姉の首根っこを掴んで見せてきた。
「もう一回、こやつを若返らせてみよ」
「え?♡」
死ぬ子先生の顔が期待でパッと輝く。
「あ~~……と、ラミア? 出来るかなぁ?」
『きゅ~~……』
聞いてみたが、ラミアの返事は芳しく無かった。
「何て言っているんですか?」
菜々ちんが、私の肩に乗っているラミアを覗き込みながら尋ねてくる。
ちなみにファントムはある程度の能力者でなければ認識すら出来ないらしい。
よく巷にいる霊感の強い人間なんかは、その素質があるということだ。
「それが、精気が不足しているらしくて……これ以上使うと私の体に負担が掛かるから、したくないって言ってる」
「……よく解読できるもんじゃな」
そこはそれ、奇跡の相性による以心伝心ですよ。
もしかしたら、これこそが私の超能力者としての最大の才能なのかもしれない。
「では逆はどうじゃ? 吸ってみい」
『きゅ!!』
「がってん!! だって」
と、同時にそのように調整された能力エネルギーが流れ込んでくる。
後は私が引き金を引くだけだ。
「え、えぇ~~……。ちょっと……まってぇぇぇ……!??」
青ざめ引きつった死ぬ子先生の抗議が上がるが、はて、聞こえない。
私は無慈悲に能力を行使した。
「……さて、では応用問題をやってみようかの?」
ロビーに移り、問題の巨大コンクリートを見上げながら百恵ちゃんは呟いた。
「あの……死ぬ子先生、放ったらかしで大丈夫でしょうか?」
『平気でしょ(じゃよ)』
菜々ちんの心配に、私と百恵ちゃんが同時に返事する。
いまごろ彼女は年老いた御婆のように干からびて畳の上に転がっているだろう。
だがそんな事でどうにかなる変態ではない。心配など無用中の無用である。
「そんなことよりも、応用って?」
百恵ちゃんに聞くと、彼女はラミアをジッと見て言う。
「先程の姉貴を使った人体実験で、ヒロインとラミアの関係性は理解した。……信じがたい事だが、本当におヌシは自らの意志でヒロインに仕える奇特なファントムのようじゃな?」
『きゅきゅっ!!』
「そしてファントム体であるおヌシは、能力操作などは人が手足を動かすが如く簡単に操れる。……で、良いな?」
『きゅ~~~~!!』
鼻息荒く、バンザイの仕草で答えるラミア。なんとも愛らしい。
「……ふむ、言葉はわからんが、わかった。ならば、話は簡単だ」
ふっと息を吐いて百恵ちゃんは頭を掻く。
なんだかやるせない表情をしているようだが?
「ど……どういうこと??」
何もわからない私は目をパチクリしているが、菜々ちんはしばらくの思考の後、何かを察したように何度か頷いた。
なんだ? わかってないのは私だけか??
百恵ちゃんは一体何を言おうとしているんだ??
そんな私に彼女はすごく面白く無さそうな顔をして言った。
「……女将がお主にやらせようとしている事がわかったんじゃよ」
私の足にしがみつきながら、恨み言を綴る、セーラー服を着たオバサン。
「……これは…………」
「うむ……見るに耐えんな……」
菜々ちんと百恵ちゃんの二人は、まるで汚物を見るかのような目で、そんな死ぬ子先生の痛ましい姿を見下ろしている。
今の先生はさっきまでの若々しい姿ではなく、元の29歳児に戻っていた。
「…………おい、ヒロインよ、これ……どうやったのだ?」
場末のコスプレ酒場にたまに出没する痛ましいベテランコンパニオンと化してしまった姉を指差し、百恵ちゃんが聞いてきた。
「いやぁその、普通にラミアに頼んで元に戻してもらっただけなんだけど……。
ほら、存在エネルギーを操作だっけ? それが出来るんなら、簡単に元にも戻せるって事だろうと思って……」
「……なるほど。つまり、姉貴の言っていた説明は正しかったというわけか。
しかし、だからといってそんな簡単に操作出来るものなのか?」
「ラミアに頼んだらやってくれたけど……?」
その言葉を聞いて二人とも呆れ顔になる。
「……普通はファントムと会話なんてありえないんですけどね」
「まったくだな。しかし、そうなるとヒロインは能力操作に関しては訓練の必要は無いかもしれんな……」
「え? そうなの??」
「うむ、普通は宿主が半ば無理やりファントムから能力エネルギーを引き出し、自分の身体を介して指向性のある術に精製し直して発動させるわけじゃが、これを上手くやるのがなかなか難しく、長い訓練が必要となってくるのじゃ。
しかし、お主はそれをほとんどファントムにやらせているという事ならば話は変わってくる」
「そうですねぇ。……能力を行使するのがファントム本体ならば宿主の熟練度は関係無くなりますから、複雑な能力もファントムとの話し合い一つでいくらでも使えるって事になりますね」
「うむ……まったく羨ましい限りじゃが、ファントムに好かれているなどと特殊な状態にあるヒロインだけにもたらされたアドバンテージみたいなものか……?」
じと……と、嫉妬の眼差しで私を見てくる二人。
要するに、本当は訓練が必要な能力の操作を、私の場合、ラミアが好意でやってくれていると。そしてそれはとても特殊なケースで二人は羨ましがっていると。
「そうか、だったらもう私、自由に超能力が使えるようになったってこと? 訓練もせずに?」
「うむ、どれ……ちょっと試してみようか?」
そう言って百恵ちゃんは、私の足にしがみついてメソメソしている姉の首根っこを掴んで見せてきた。
「もう一回、こやつを若返らせてみよ」
「え?♡」
死ぬ子先生の顔が期待でパッと輝く。
「あ~~……と、ラミア? 出来るかなぁ?」
『きゅ~~……』
聞いてみたが、ラミアの返事は芳しく無かった。
「何て言っているんですか?」
菜々ちんが、私の肩に乗っているラミアを覗き込みながら尋ねてくる。
ちなみにファントムはある程度の能力者でなければ認識すら出来ないらしい。
よく巷にいる霊感の強い人間なんかは、その素質があるということだ。
「それが、精気が不足しているらしくて……これ以上使うと私の体に負担が掛かるから、したくないって言ってる」
「……よく解読できるもんじゃな」
そこはそれ、奇跡の相性による以心伝心ですよ。
もしかしたら、これこそが私の超能力者としての最大の才能なのかもしれない。
「では逆はどうじゃ? 吸ってみい」
『きゅ!!』
「がってん!! だって」
と、同時にそのように調整された能力エネルギーが流れ込んでくる。
後は私が引き金を引くだけだ。
「え、えぇ~~……。ちょっと……まってぇぇぇ……!??」
青ざめ引きつった死ぬ子先生の抗議が上がるが、はて、聞こえない。
私は無慈悲に能力を行使した。
「……さて、では応用問題をやってみようかの?」
ロビーに移り、問題の巨大コンクリートを見上げながら百恵ちゃんは呟いた。
「あの……死ぬ子先生、放ったらかしで大丈夫でしょうか?」
『平気でしょ(じゃよ)』
菜々ちんの心配に、私と百恵ちゃんが同時に返事する。
いまごろ彼女は年老いた御婆のように干からびて畳の上に転がっているだろう。
だがそんな事でどうにかなる変態ではない。心配など無用中の無用である。
「そんなことよりも、応用って?」
百恵ちゃんに聞くと、彼女はラミアをジッと見て言う。
「先程の姉貴を使った人体実験で、ヒロインとラミアの関係性は理解した。……信じがたい事だが、本当におヌシは自らの意志でヒロインに仕える奇特なファントムのようじゃな?」
『きゅきゅっ!!』
「そしてファントム体であるおヌシは、能力操作などは人が手足を動かすが如く簡単に操れる。……で、良いな?」
『きゅ~~~~!!』
鼻息荒く、バンザイの仕草で答えるラミア。なんとも愛らしい。
「……ふむ、言葉はわからんが、わかった。ならば、話は簡単だ」
ふっと息を吐いて百恵ちゃんは頭を掻く。
なんだかやるせない表情をしているようだが?
「ど……どういうこと??」
何もわからない私は目をパチクリしているが、菜々ちんはしばらくの思考の後、何かを察したように何度か頷いた。
なんだ? わかってないのは私だけか??
百恵ちゃんは一体何を言おうとしているんだ??
そんな私に彼女はすごく面白く無さそうな顔をして言った。
「……女将がお主にやらせようとしている事がわかったんじゃよ」
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