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第104話 隠された記憶①
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――――それから一週間。
プロの業者による修繕作業も終わり、旅館はすっかり元通りとなった。
私が病院送りにしてしまった従業員の方達もようやく退院してくれて、これでやっと手伝いから解放される。
「……やれやれ、なんで吾輩まで手伝わされにゃならんかったのじゃ……」
中居の着物を着せられた百恵ちゃんが、疲れ切った顔をして廊下をトボトボ歩いてくる。
「百恵ちゃんはまだいいでしょ。私なんてずっと掃除当番させられたんだからね」
割烹着を着せられ、ハタキを手にした私は羨ましそうに彼女を見た。
「いいなぁ……その着物……私もそっちが良かったなぁ……」
「阿呆か。こんなモノ窮屈で重くて敵わんわ。
割烹着の方がよほど仕事に向いている、そっちの方が良い」
女将さんの指示で、不器用な私は掃除当番。しっかり者の百恵ちゃんは仲居の仕事に振り分けられていた。
といってもまだ一般客を受け入れてはいないので、接客はせず、部屋の飾りつけや小道具の準備が主な役割だったようだが。
「……いっそのこと接客もやってみたら? たぶん大受けすると思うよ?」
着物に合わせ髪型をアップにしている百恵ちゃんはメチャクチャ可愛かった。
清楚な着物と、彼女特有の仏頂面が妙にマッチしていて、目の下のクマがひたむきさと悲壮感を演出し、お父様心を鷲掴みにしそうな破壊力がある。
「冗談じゃない、一般客など下等な連中に頭など下げられるか。そんな事よりも吾輩は修練に没頭したい!!」
そう言って私を恨めしげに睨む彼女。
どうやら私が能力だけでなく、結界術まで使いこなせてしまった事をずっと根に持っている様子だ。あれからことあるごとに私に追いつくとか、いい気になるなとか食って掛かってくる。
まぁ、それは私も悪いと思っている。
普通なら最低限の制御まで一年。マスターするまで十年掛かると言われている能力操作と、同じく三十年掛かると言われている結界術を両方一気に使えるようになってしまったのだ。真面目に修練している彼女が腹を立てるのも当然のことだと思う。
でも、言い訳をさせてもらえれば、それらを使いこなせているのは私じゃなくてファントムのラミアなのだ。私自身はその生成された力を受け取って発動しているだけの存在で、言うなればラミアが本体で私は発射台のようなものである。
凄くともなんともないし、彼女に勝っているなんて本気で思っていない。
それは彼女にも伝えたが、まだ幼い彼女はそこまで感情を操作する術を知らないんだろう不機嫌が直ることは無かった。
『いいじゃないか、可愛いもんだよ。お前は後輩だが、年上なんだからその辺は理解しておやりよ?』
と女将さんは言ってきてくれたが、私もそれはわかっている。それで彼女を嫌うなんてことはない。
それに彼女は私に謝ってくれもした。
地下での戦いの事だ。
暴走した私を止めるためとはいえ、かなり酷い事をした、危うく殺してしまうところだったと。
確かにあれは酷かったし死ぬほど痛かったが、あのままラミアを暴走させて、もし仲間の誰かを死なせてしまうような事になってしまっていたら、私はそっちのほうが辛い。
だから、彼女の判断は間違っていなかった。
むしろお礼が言いたいくらいだった。
ともかく、彼女がいくら私を嫌おうと、私は彼女を嫌ったりなんかはしない。
「……ぬ? なんじゃニヤニヤして気持ち悪いヤツじゃのう」
「ううん、なんでもありまちぇんよ~~。困ったことがあったらお姉ちゃんになんでも相談するんでちゅよ~~~~♡」
「……どうやら、ここでまた喧嘩をしたいらしいな」
バリバリっと彼女の結界が火花を上げる。
「こらこら、こんな所で喧嘩しないの。また一から手伝わされる事になっても知らないゾ♡」
と、声を上げたのは私ではない。別の生物だ。
「……げ、姉貴」
そう、死ぬ子先生だった。
今日の先生の服装は、地元の高校のブレザーにチェックのミニスカート。
それを見事に着こなし、心も、体も、言葉遣いもピチピチの17歳(自称)である。
あれから先生は若返りにはまり、ことあるごとに私を捕まえては若返りを要求してくるようになった。
ちなみに、精気注入よる存在値操作での若返りには時間制限があって、大体一日もすれば本来の年齢に戻ってしまう。結局、能力による若返りなんて所詮は一時のドーピングのようなもの、神様の作りし摂理に逆らえる代物ではないのだ。
「旅館の手伝いは今日で終わりなんでしょ? だったらぁ~~先生にちょっと付き合ってくんない」
腰をくいっと曲げて手を添え、もう片方の手の親指でクイクイと後ろを指す。
本人はイケてるつもりなんだろうが、どことなく昭和のギャル臭が漂ってくる。
平成生まれだと言い張っているが怪しいもんだ。どうでもいいけど。
「……付き合う? どこに行くんじゃ?」
百恵ちゃんが嫌そうに尋ねる。
私はその十倍嫌そうな顔をする。
「どこって……モチのロン!! 『藤堂瞬《とうどうしゅん》』に会いによぅ?」
藤堂瞬……それは私が暴走しかけて、見るも無残な化け物に変えてしまった高校生の名前だった。
プロの業者による修繕作業も終わり、旅館はすっかり元通りとなった。
私が病院送りにしてしまった従業員の方達もようやく退院してくれて、これでやっと手伝いから解放される。
「……やれやれ、なんで吾輩まで手伝わされにゃならんかったのじゃ……」
中居の着物を着せられた百恵ちゃんが、疲れ切った顔をして廊下をトボトボ歩いてくる。
「百恵ちゃんはまだいいでしょ。私なんてずっと掃除当番させられたんだからね」
割烹着を着せられ、ハタキを手にした私は羨ましそうに彼女を見た。
「いいなぁ……その着物……私もそっちが良かったなぁ……」
「阿呆か。こんなモノ窮屈で重くて敵わんわ。
割烹着の方がよほど仕事に向いている、そっちの方が良い」
女将さんの指示で、不器用な私は掃除当番。しっかり者の百恵ちゃんは仲居の仕事に振り分けられていた。
といってもまだ一般客を受け入れてはいないので、接客はせず、部屋の飾りつけや小道具の準備が主な役割だったようだが。
「……いっそのこと接客もやってみたら? たぶん大受けすると思うよ?」
着物に合わせ髪型をアップにしている百恵ちゃんはメチャクチャ可愛かった。
清楚な着物と、彼女特有の仏頂面が妙にマッチしていて、目の下のクマがひたむきさと悲壮感を演出し、お父様心を鷲掴みにしそうな破壊力がある。
「冗談じゃない、一般客など下等な連中に頭など下げられるか。そんな事よりも吾輩は修練に没頭したい!!」
そう言って私を恨めしげに睨む彼女。
どうやら私が能力だけでなく、結界術まで使いこなせてしまった事をずっと根に持っている様子だ。あれからことあるごとに私に追いつくとか、いい気になるなとか食って掛かってくる。
まぁ、それは私も悪いと思っている。
普通なら最低限の制御まで一年。マスターするまで十年掛かると言われている能力操作と、同じく三十年掛かると言われている結界術を両方一気に使えるようになってしまったのだ。真面目に修練している彼女が腹を立てるのも当然のことだと思う。
でも、言い訳をさせてもらえれば、それらを使いこなせているのは私じゃなくてファントムのラミアなのだ。私自身はその生成された力を受け取って発動しているだけの存在で、言うなればラミアが本体で私は発射台のようなものである。
凄くともなんともないし、彼女に勝っているなんて本気で思っていない。
それは彼女にも伝えたが、まだ幼い彼女はそこまで感情を操作する術を知らないんだろう不機嫌が直ることは無かった。
『いいじゃないか、可愛いもんだよ。お前は後輩だが、年上なんだからその辺は理解しておやりよ?』
と女将さんは言ってきてくれたが、私もそれはわかっている。それで彼女を嫌うなんてことはない。
それに彼女は私に謝ってくれもした。
地下での戦いの事だ。
暴走した私を止めるためとはいえ、かなり酷い事をした、危うく殺してしまうところだったと。
確かにあれは酷かったし死ぬほど痛かったが、あのままラミアを暴走させて、もし仲間の誰かを死なせてしまうような事になってしまっていたら、私はそっちのほうが辛い。
だから、彼女の判断は間違っていなかった。
むしろお礼が言いたいくらいだった。
ともかく、彼女がいくら私を嫌おうと、私は彼女を嫌ったりなんかはしない。
「……ぬ? なんじゃニヤニヤして気持ち悪いヤツじゃのう」
「ううん、なんでもありまちぇんよ~~。困ったことがあったらお姉ちゃんになんでも相談するんでちゅよ~~~~♡」
「……どうやら、ここでまた喧嘩をしたいらしいな」
バリバリっと彼女の結界が火花を上げる。
「こらこら、こんな所で喧嘩しないの。また一から手伝わされる事になっても知らないゾ♡」
と、声を上げたのは私ではない。別の生物だ。
「……げ、姉貴」
そう、死ぬ子先生だった。
今日の先生の服装は、地元の高校のブレザーにチェックのミニスカート。
それを見事に着こなし、心も、体も、言葉遣いもピチピチの17歳(自称)である。
あれから先生は若返りにはまり、ことあるごとに私を捕まえては若返りを要求してくるようになった。
ちなみに、精気注入よる存在値操作での若返りには時間制限があって、大体一日もすれば本来の年齢に戻ってしまう。結局、能力による若返りなんて所詮は一時のドーピングのようなもの、神様の作りし摂理に逆らえる代物ではないのだ。
「旅館の手伝いは今日で終わりなんでしょ? だったらぁ~~先生にちょっと付き合ってくんない」
腰をくいっと曲げて手を添え、もう片方の手の親指でクイクイと後ろを指す。
本人はイケてるつもりなんだろうが、どことなく昭和のギャル臭が漂ってくる。
平成生まれだと言い張っているが怪しいもんだ。どうでもいいけど。
「……付き合う? どこに行くんじゃ?」
百恵ちゃんが嫌そうに尋ねる。
私はその十倍嫌そうな顔をする。
「どこって……モチのロン!! 『藤堂瞬《とうどうしゅん》』に会いによぅ?」
藤堂瞬……それは私が暴走しかけて、見るも無残な化け物に変えてしまった高校生の名前だった。
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