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第108話 隠された記憶⑤
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「やれやれ……まぁ、キミの言いたいことも、気持ちも分かるがね?
しかし、一人を助けたばかりにその噂が世界中に広まり、世界中の人間がキミの能力を求めてやってきたらどうするのかね? しかもやってくる連中は、みなキミを神の様に崇めはするだろうが、護《まも》ろうとはしない。みな自分が助かりたい一心でキミを散り散りに引き裂いていくだろうね? それでもキミは構わないと言うのかい?」
いや……その危険性は以前に死ぬ子先生から聞かされたが……。
「キミは自分の存在を隠して治療すると言ったが、正直それは可能だよ?
でもさ、世界中全ての患者を治療して回ることだけは絶対に不可能だろう?」
「それは……そうですけど」
「だね。その前にキミは干からびて死んでしまうだろうしね。
ならばどうする?
自分が捌けるだけの患者を捌いて満足するかね?
しかしその患者はどう選ぶ?
キミは自分の意志で人の命を選択する勇気があるかね?」
……う……い、いや……そこまで深くは考えて無くてですな……。
所長の、以外にも、真剣な説教に気圧され黙り込んでしまう。
「しかしそれでもキミの能力が存在している以上、その力を誰に対して振るうのかの線引はどこかでしなければならない。……それを引く権利はもちろん宝塚くん自身にあるが、しかしそれはもっと世間と言うものを……人というものを学んでからじゃないとダメだと思う。今みたいに、その場限りの、気紛れと言っていい気持ちで気安く判断できる問題では無いよ」
う……う~~む……いや、そんな気紛れとか、そんな気持ちでも……無かったんだけども……う~~~~ん……浅はかだったのかなぁ……?
でも、病を抱えた人たちにとっては、文字通り命や生活がかかった問題だ。
たとえ気紛れでも治せるものなら治してあげたほうがいいんじゃぁ?
「しない善よりする偽善」
と、不意に菜々ちんが私を横目で見てそう言った。
「……なんて考えてたりしてますよね?」
「え? い、いやその……」
「考えておったなぁ?」
百恵ちゃんも疑惑の目で私を見る。
「あ~~あ、もう……これだから、つい最近まで一般人だった子は疲れるのよねぇ」
死ぬ子先生も心底嫌な顔をしてぼやく。
「いい? 何度も言うけどあんたはもうこっち側の人間なんだから、一般人と深く関わろうなんてしちゃだめなの。所詮、やつらなんてみんな善人ぶっているだけで中身は欲に溺れたブタ同然の存在なんだから。無闇に能力なんて知られて御覧なさいな。所長が言うように、たちまち利用しようと群がって来るわよ? 身の程知らずにもね!!」
「……ブタってそこまで言わなくても」
私がむくれると、先生はスマホのシャッター切り始める。
そして店外の廊下を指差して、
「ほら、あの人の良さそうなお婆ちゃん見えるでしょ?」
見ると廊下の先には、車椅子に乗せられて移動するご老人の姿が。
見るからに温和で優しげなお婆さんは、娘とおぼしき中年の婦人に押されて角を曲がっていく。
何かの理由で立てなくなっているのだろうが、甲斐甲斐しく世話をする娘さんと、それに遠慮してか困り顔のお婆ちゃんが微笑ましい。
「あなた、あのお婆ちゃんを立てるようにしたいと思う?」
「そ、そりゃ……できれば」
「じゃあ、御覧なさい」
そして先生は撮った写真を私に見せる。
そこにはやはりそのお婆ちゃんの過去の姿が写っていた。
汚物を撒き散らして娘に処理させる姿。
ボケた様子で娘に熱湯をかけてしまっている姿。
家族の食事に何か薬のようなものを混入している姿。
札束を抱えて笑う下卑た姿。
それを見て所長はニヤつき解説を買って出る。
「あれは親子じゃなくて嫁と姑だね。う~~~~んと……」
言って目をつむり、能力を発動させながら話を続ける。
「……ええと、なになに……お婆ちゃんの方は、ああ、典型的な昭和の姑さんだね……ふむふむ、息子を取られた嫉妬で嫁いびりか。まぁここまでは普通かな。
でも、それがいつしか趣味になってエスカレートしていき……おっと、実の息子を殺しているね。動機は嫁の悲しむ顔を見たい事と、自分より嫁を庇った息子への復習だ。犯行は上手にやったね、知り合いの元ヤクザに頼んで死体をアスファルトに混ぜてるよ、あっはは、これは見つからんね。
で、証拠は無くとも事を察した嫁は、その復習と子供たちを護るため少しずつ食事に毒を入れて姑を弱らせているご様子だ。本当は一気に殺したいが、どうせじき死ぬ老いぼれに自分が罪を背負うなんてバカバカしいみたいだね。それに遺産も入ってくる予定だし、牢屋にいたらそれも使えなくなるからね。
しかしその算段は姑もお見通しで、死なばもろともと、孫も含めた家族全員の食事に同じく毒を盛っているね。さらに遺産はすでに昔の浮気相手とその子供に譲渡して処分しているみたいだ。いやぁ~~楽しそうだなぁ」
ニヤつき顎を揉む所長。
私は頬を引くつかせながらその話を聞いてた。
そんな私に死ぬ子先生はあらためて問を出す。
「どお? それでもあなたは自分を危険に晒してまで、あのお婆ちゃんを治してあげる気になるかしら?」
「い、いや……そ、その……」
「顔は正直ね」
聞くまでもないと、死ぬ子先生は肩を竦める。
私はどんな顔をしていたのだろう……。
そんな私に上機嫌で所長は言った。
「ま、人の感情なんてそんなもんだよ? 事情一つでコロコロ変わる。そしてその感情一つで行動もコロコロ変わるさ。
おっと、キミを馬鹿にしているわけじゃないんだ。
ただ、人ってのは上辺をとにかく着飾るからねぇ、それに騙されないよう、見る目を……経験を積んでほしいって話さこれは。そして、それが積み上げるまではJPAに判断を預けて貰えると助かるよってこと」
所長だけじゃなく、みんなが私を見つめて頷いた。
私も――――それに、黙って頷き返した。
しかし、一人を助けたばかりにその噂が世界中に広まり、世界中の人間がキミの能力を求めてやってきたらどうするのかね? しかもやってくる連中は、みなキミを神の様に崇めはするだろうが、護《まも》ろうとはしない。みな自分が助かりたい一心でキミを散り散りに引き裂いていくだろうね? それでもキミは構わないと言うのかい?」
いや……その危険性は以前に死ぬ子先生から聞かされたが……。
「キミは自分の存在を隠して治療すると言ったが、正直それは可能だよ?
でもさ、世界中全ての患者を治療して回ることだけは絶対に不可能だろう?」
「それは……そうですけど」
「だね。その前にキミは干からびて死んでしまうだろうしね。
ならばどうする?
自分が捌けるだけの患者を捌いて満足するかね?
しかしその患者はどう選ぶ?
キミは自分の意志で人の命を選択する勇気があるかね?」
……う……い、いや……そこまで深くは考えて無くてですな……。
所長の、以外にも、真剣な説教に気圧され黙り込んでしまう。
「しかしそれでもキミの能力が存在している以上、その力を誰に対して振るうのかの線引はどこかでしなければならない。……それを引く権利はもちろん宝塚くん自身にあるが、しかしそれはもっと世間と言うものを……人というものを学んでからじゃないとダメだと思う。今みたいに、その場限りの、気紛れと言っていい気持ちで気安く判断できる問題では無いよ」
う……う~~む……いや、そんな気紛れとか、そんな気持ちでも……無かったんだけども……う~~~~ん……浅はかだったのかなぁ……?
でも、病を抱えた人たちにとっては、文字通り命や生活がかかった問題だ。
たとえ気紛れでも治せるものなら治してあげたほうがいいんじゃぁ?
「しない善よりする偽善」
と、不意に菜々ちんが私を横目で見てそう言った。
「……なんて考えてたりしてますよね?」
「え? い、いやその……」
「考えておったなぁ?」
百恵ちゃんも疑惑の目で私を見る。
「あ~~あ、もう……これだから、つい最近まで一般人だった子は疲れるのよねぇ」
死ぬ子先生も心底嫌な顔をしてぼやく。
「いい? 何度も言うけどあんたはもうこっち側の人間なんだから、一般人と深く関わろうなんてしちゃだめなの。所詮、やつらなんてみんな善人ぶっているだけで中身は欲に溺れたブタ同然の存在なんだから。無闇に能力なんて知られて御覧なさいな。所長が言うように、たちまち利用しようと群がって来るわよ? 身の程知らずにもね!!」
「……ブタってそこまで言わなくても」
私がむくれると、先生はスマホのシャッター切り始める。
そして店外の廊下を指差して、
「ほら、あの人の良さそうなお婆ちゃん見えるでしょ?」
見ると廊下の先には、車椅子に乗せられて移動するご老人の姿が。
見るからに温和で優しげなお婆さんは、娘とおぼしき中年の婦人に押されて角を曲がっていく。
何かの理由で立てなくなっているのだろうが、甲斐甲斐しく世話をする娘さんと、それに遠慮してか困り顔のお婆ちゃんが微笑ましい。
「あなた、あのお婆ちゃんを立てるようにしたいと思う?」
「そ、そりゃ……できれば」
「じゃあ、御覧なさい」
そして先生は撮った写真を私に見せる。
そこにはやはりそのお婆ちゃんの過去の姿が写っていた。
汚物を撒き散らして娘に処理させる姿。
ボケた様子で娘に熱湯をかけてしまっている姿。
家族の食事に何か薬のようなものを混入している姿。
札束を抱えて笑う下卑た姿。
それを見て所長はニヤつき解説を買って出る。
「あれは親子じゃなくて嫁と姑だね。う~~~~んと……」
言って目をつむり、能力を発動させながら話を続ける。
「……ええと、なになに……お婆ちゃんの方は、ああ、典型的な昭和の姑さんだね……ふむふむ、息子を取られた嫉妬で嫁いびりか。まぁここまでは普通かな。
でも、それがいつしか趣味になってエスカレートしていき……おっと、実の息子を殺しているね。動機は嫁の悲しむ顔を見たい事と、自分より嫁を庇った息子への復習だ。犯行は上手にやったね、知り合いの元ヤクザに頼んで死体をアスファルトに混ぜてるよ、あっはは、これは見つからんね。
で、証拠は無くとも事を察した嫁は、その復習と子供たちを護るため少しずつ食事に毒を入れて姑を弱らせているご様子だ。本当は一気に殺したいが、どうせじき死ぬ老いぼれに自分が罪を背負うなんてバカバカしいみたいだね。それに遺産も入ってくる予定だし、牢屋にいたらそれも使えなくなるからね。
しかしその算段は姑もお見通しで、死なばもろともと、孫も含めた家族全員の食事に同じく毒を盛っているね。さらに遺産はすでに昔の浮気相手とその子供に譲渡して処分しているみたいだ。いやぁ~~楽しそうだなぁ」
ニヤつき顎を揉む所長。
私は頬を引くつかせながらその話を聞いてた。
そんな私に死ぬ子先生はあらためて問を出す。
「どお? それでもあなたは自分を危険に晒してまで、あのお婆ちゃんを治してあげる気になるかしら?」
「い、いや……そ、その……」
「顔は正直ね」
聞くまでもないと、死ぬ子先生は肩を竦める。
私はどんな顔をしていたのだろう……。
そんな私に上機嫌で所長は言った。
「ま、人の感情なんてそんなもんだよ? 事情一つでコロコロ変わる。そしてその感情一つで行動もコロコロ変わるさ。
おっと、キミを馬鹿にしているわけじゃないんだ。
ただ、人ってのは上辺をとにかく着飾るからねぇ、それに騙されないよう、見る目を……経験を積んでほしいって話さこれは。そして、それが積み上げるまではJPAに判断を預けて貰えると助かるよってこと」
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