超能力者の私生活

盛り塩

文字の大きさ
108 / 309

第108話 隠された記憶⑤

しおりを挟む
「やれやれ……まぁ、キミの言いたいことも、気持ちも分かるがね?
 しかし、一人を助けたばかりにその噂が世界中に広まり、世界中の人間がキミの能力を求めてやってきたらどうするのかね? しかもやってくる連中は、みなキミを神の様に崇めはするだろうが、護《まも》ろうとはしない。みな自分が助かりたい一心でキミを散り散りに引き裂いていくだろうね? それでもキミは構わないと言うのかい?」

 いや……その危険性は以前に死ぬ子先生から聞かされたが……。

「キミは自分の存在を隠して治療すると言ったが、正直それは可能だよ?
 でもさ、世界中全ての患者を治療して回ることだけは絶対に不可能だろう?」
「それは……そうですけど」

「だね。その前にキミは干からびて死んでしまうだろうしね。
 ならばどうする?
 自分が捌けるだけの患者を捌いて満足するかね?
 しかしその患者はどう選ぶ?
 キミは自分の意志で人の命を選択する勇気があるかね?」

 ……う……い、いや……そこまで深くは考えて無くてですな……。
 所長の、以外にも、真剣な説教に気圧され黙り込んでしまう。

「しかしそれでもキミの能力が存在している以上、その力を誰に対して振るうのかの線引はどこかでしなければならない。……それを引く権利はもちろん宝塚くん自身にあるが、しかしそれはもっと世間と言うものを……人というものを学んでからじゃないとダメだと思う。今みたいに、その場限りの、気紛れと言っていい気持ちで気安く判断できる問題では無いよ」

 う……う~~む……いや、そんな気紛れとか、そんな気持ちでも……無かったんだけども……う~~~~ん……浅はかだったのかなぁ……?
 でも、病を抱えた人たちにとっては、文字通り命や生活がかかった問題だ。
 たとえ気紛れでも治せるものなら治してあげたほうがいいんじゃぁ?

「しない善よりする偽善」

 と、不意に菜々ちんが私を横目で見てそう言った。

「……なんて考えてたりしてますよね?」
「え? い、いやその……」
「考えておったなぁ?」

 百恵ちゃんも疑惑の目で私を見る。

「あ~~あ、もう……これだから、つい最近まで一般人だった子は疲れるのよねぇ」

 死ぬ子先生も心底嫌な顔をしてぼやく。

「いい? 何度も言うけどあんたはもうなんだから、一般人と深く関わろうなんてしちゃだめなの。所詮、やつらなんてみんな善人ぶっているだけで中身は欲に溺れたブタ同然の存在なんだから。無闇に能力なんて知られて御覧なさいな。所長が言うように、たちまち利用しようと群がって来るわよ? 身の程知らずにもね!!」
「……ブタってそこまで言わなくても」

 私がむくれると、先生はスマホのシャッター切り始める。
 そして店外の廊下を指差して、

「ほら、あの人の良さそうなお婆ちゃん見えるでしょ?」

 見ると廊下の先には、車椅子に乗せられて移動するご老人の姿が。
 見るからに温和で優しげなお婆さんは、娘とおぼしき中年の婦人に押されて角を曲がっていく。
 何かの理由で立てなくなっているのだろうが、甲斐甲斐しく世話をする娘さんと、それに遠慮してか困り顔のお婆ちゃんが微笑ましい。

「あなた、あのお婆ちゃんを立てるようにしたいと思う?」
「そ、そりゃ……できれば」
「じゃあ、御覧なさい」

 そして先生は撮った写真を私に見せる。
 そこにはやはりそのお婆ちゃんの過去の姿が写っていた。

 汚物を撒き散らして娘に処理させる姿。
 ボケた様子で娘に熱湯をかけてしまっている姿。
 家族の食事に何か薬のようなものを混入している姿。
 札束を抱えて笑う下卑た姿。

 それを見て所長はニヤつき解説を買って出る。

「あれは親子じゃなくて嫁と姑だね。う~~~~んと……」

 言って目をつむり、能力を発動させながら話を続ける。

「……ええと、なになに……お婆ちゃんの方は、ああ、典型的な昭和の姑さんだね……ふむふむ、息子を取られた嫉妬で嫁いびりか。まぁここまでは普通かな。
 でも、それがいつしか趣味になってエスカレートしていき……おっと、実の息子を殺しているね。動機は嫁の悲しむ顔を見たい事と、自分より嫁を庇った息子への復習だ。犯行は上手にやったね、知り合いの元ヤクザに頼んで死体をアスファルトに混ぜてるよ、あっはは、これは見つからんね。
 で、証拠は無くとも事を察した嫁は、その復習と子供たちを護るため少しずつ食事に毒を入れて姑を弱らせているご様子だ。本当は一気に殺したいが、どうせじき死ぬ老いぼれに自分が罪を背負うなんてバカバカしいみたいだね。それに遺産も入ってくる予定だし、牢屋にいたらそれも使えなくなるからね。
 しかしその算段は姑もお見通しで、死なばもろともと、孫も含めた家族全員の食事に同じく毒を盛っているね。さらに遺産はすでに昔の浮気相手とその子供に譲渡して処分しているみたいだ。いやぁ~~楽しそうだなぁ」

 ニヤつき顎を揉む所長。

 私は頬を引くつかせながらその話を聞いてた。
 そんな私に死ぬ子先生はあらためて問を出す。

「どお? それでもあなたは自分を危険に晒してまで、あのお婆ちゃんを治してあげる気になるかしら?」
「い、いや……そ、その……」
「顔は正直ね」

 聞くまでもないと、死ぬ子先生は肩を竦める。
 私はどんな顔をしていたのだろう……。
 そんな私に上機嫌で所長は言った。

「ま、人の感情なんてそんなもんだよ? 事情一つでコロコロ変わる。そしてその感情一つで行動もコロコロ変わるさ。
 おっと、キミを馬鹿にしているわけじゃないんだ。
 ただ、人ってのは上辺をとにかく着飾るからねぇ、それに騙されないよう、見る目を……経験を積んでほしいって話さこれは。そして、それが積み上げるまではJPAぼくたちに判断を預けて貰えると助かるよってこと」
 所長だけじゃなく、みんなが私を見つめて頷いた。
 私も――――それに、黙って頷き返した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...