超能力者の私生活

盛り塩

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第113話 隠された記憶⑩

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「そういうことね。
 これは良いデータが取れたわ、楠隊員の証言とも一致しているしね」
 先生は満足げにカルテに書き込む。

「楠隊員って……あの?」
 私は少し前に戦った、ベヒモス化した女性を思い出す。

 JPASの戦闘隊員で、百恵ちゃんの指揮下に入っている菜々ちんの先輩だったと思う。私が決死の自爆技で何とかベヒモス化から救うことが出来た人だ。

「ええ、彼女の証言でも自分がベヒモス化した瞬間と、その後のことは覚えていないそうなのよ。ちょっとした失敗の隙きを突かれてベヒモスに襲われた所で記憶が途絶えているらしいわ」

 超能力者はベヒモスに触れられると、その暴走した波長に同調してしまい、触れられた者もベヒモス化してしまうケースが多い。
 それを防ぐため普段から結界の訓練をし、抵抗力を高めているのだが、それでも複数に襲いかかられたら暴走は防げない。

「ならば、この男の記憶が消えていることもベヒモス化したからでは無いのか?」
 百恵ちゃんが眉をシワシワに寄せて姉に聞くが、

「私の能力はファントムにも有効よ? 現に、瞬がベヒモス化した後の記憶はいくつも念写しているしね」

 あ~~~~ややこしい。
 私はだんだん話について行けなくなってくる。

「ほう、なるほど……なればやはりポッカリ記憶が欠けていると言うのは不自然ということじゃな?」
「そう、記憶しているのが本人だろうが、取り憑いているファントムだろうが、私のリャナンシーの目には関係ないわ。……でも、とりあえず暴走時の記憶と意識は宿主には無いって事が確認できただけでも良かったわ」

「なぜじゃ? そんなことは以前から分かっておったのではないのか??」
「ベヒモス化が、宿主へのファントムによる乗っ取りだっていうのは、ほぼ、推測でしか無かったのよ。なぜなら、ベヒモス化した能力者は全員死亡していたから。
 死人から経験談を聞こうなんて無理でしょ?」

「うむ……まぁ、それはそうじゃが。霊媒能力を持った者なら聞き出せるのではないか?」
「あんなもんは詐欺師の集団よ、信憑性なんてまるで無いわ」

 自分たちの事をも全否定しかねない暴言を吐き、死ぬ子先生は放心している瞬へと視線を戻す。

「とにかく、ベヒモスと言うのはまだまだ謎だらけの存在なの。そんな中、この子はベヒモス化から生きて生還した貴重なサンプルなんだから、これからじっくりと調べさせてもらうわよ」

 にゅふふふ、といやらしい笑いを浮かべる変態。
 …………いったい何をする気なのか、聞くのが怖い。聞かないが。

「で、死ぬ子先生。消された記憶はどうするんでしょうか? 宝塚さんの能力でも復元出来なかったとすると……」
 菜々ちんが先生に尋ねる。

「もちろん諦めないわ。今はサンプルと助手の体調も考慮して止めておくけども、後々ゆっくり時間を掛けてロックを解除していくつもりよ。
 そこにこそ、この子がベヒモス化した原因が隠れている可能性が高いからね」

 助手とは誰だ? 私か!???

「そういう訳だから宝塚さん、これからしばらくは私の仕事を手伝ってもらうわよ?」
 先生が肩を叩いて微笑んでくる。

 いやじゃ!! と断りたい気持ちが溢れかけたが、しかしベヒモスは私にとっても両親の仇。その秘密と正体を解明する為の仕事ならば……やぶさかではない。

 私の生涯の目標はベヒモスを全滅させることだからだ。

 それに、瞬に掛けられた謎の障壁も気になる。
 これは絶対に誰か他の能力者の仕業なのだ。
 そいつが、この男に何かを細工してベヒモス化させたとしたら、そしてその秘密を隠すために記憶にロックを掛けたとしたならば、私が倒すべき相手は瞬ではなくその人物だったという事になる。

 そしてその人物を野放しにしていたら、今後も瞬のように意図的に作り出されたベヒモスが大量発生することになりきれない。と、考えるのは大袈裟だろうか?

 ……何とか、瞬の記憶を開放することが出来れば――――、
 私は無意識に瞬の頭に手を乗せていた。

「宝塚くん?」
 所長が何をするつもりかと、怪訝な表情で訊いてくるが、

「いえ、ちょっとまだ試したいことがありまして……」
 と、私はラミアにある事を命じる。

「ラミア、もう一度力をかして。ただし今回は回復じゃない」
『きゅ?』

 首をかしげて言葉を待つラミア。
 私は女将の姿を思い浮かべる。
 ラミアと対決したときの、あの全身に結界の鎧を纏ったあの姿を。
 そのイメージは体を共にするラミアにも伝わる。

『きゅきゅきゅ!!』

「――――使うのは、結界術よ」

『きゅ~~~~~~っ!!』
 ラミアが大きく鳴く、同時に私の身体が青白い光に包まれる。

「うおぉっとっ!???」

 突然の私の変身に所長が驚き、

「……なんだいそりゃあ!??? 女将の熟練技じゃないかね?? キミはそんなものも使いこなせるようになってたのかい?? ……こりゃあ、まいったな」

 脂汗を流しながら驚嘆の声を上げる。
 百恵ちゃんや菜々ちんも同じ表情。
 死ぬ子先生は狂気の笑いを浮かべている。

 私はその結界の光を瞬の頭に乗せている手に集中させる。
 女将がかつてやっていた結界の手甲を見様見真似で作り出したのだ。

 ババチッ!!!!

「うわっ!!??」

 瞬の頭から反応が現れる。
 手甲のパワーに、瞬の中の細工が反応したのだ。
 さっきの回復術は弾かれてしまったが、今回はどうだ?

 対能力に特化した、女将さん譲りの結界術だ。

「今度はっ!! ――――ぶっ壊すっ!!!!」

 私は瞬の頭ごと――――記憶に立ちふさがる障壁をぶん殴ってやった。
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