112 / 309
第112話 隠された記憶⑨
しおりを挟む
「ちょっとあなたたち騒がしいわよ、静かにして頂戴」
死ぬ子先生が私たちを睨んで窘めてくる。
私と百恵ちゃんは同時に『あんたにだけは説教されたくないわ』と思ったが、ここで喧嘩をしてもしょうがない。歯を鳴らして大人しくすることにした。
「どうですか死ぬ子先生、念写は出来そうですか?」
菜々ちんが先生に訊ねる。
先生は私に『どう』と目で確認してくが、私はそれに頭を掻くポーズで答えると、先生は一つため息を吐いて肩を竦めた。
「ま、一応ダメ元で確認してみるわ……」
と、スマホのレンズを瞬に向ける。
一見すれば、すっかり元の姿に戻っていて、臓器も脳味噌も完璧に復元されている。しかし肝心の、記憶にかけられた障壁だけは破ることは出来なかった。
先生がシャッターアイコンを押す。
無音で切られるシャッターとバチィッ!!っと瞬の身体から結界反応が現れるのとは同時だった。
「……やっぱりだめね、なにも写ってないわ」
見せてくる画面は言う通り、真っ暗だった。
結界が反応した時点でおおよその検討はついたが、やはり記憶の闇はそのまま残っているみたいだ。
「しかし、さっきのヒロインより結界の反応が緩いようじゃが?」
「……そりゃ、私の能力の出力が弱かったからよ。単純に反作用の原理ね」
百恵ちゃんの質問に死ぬ子先生は何を今更と言った感じで言葉を返すと、
「ん? ……てことは姉貴よりヒロインのほうが能力が強いって事なのか??」
その言葉に先生はムッとして。
「……あのねぇ、私だって本気を出せばあのくらいの出力は出せるのよ。でも、もし
弾かれたらそれと同じだけの衝撃が自分に跳ね返ってくるの。だから様子見の時は小出力で使うのは当然の事でしょ?」
ということは既に本気の念写はお試し済みって事なんだろう。
私たちが居ない間に、さっきの私みたいに返り討ちにあってふっ飛ばされたに違いない。ああ、だから最近、顔を見なかったのか……。
女将とのすったもんだの間、全然姿を見せないと思っていたら、こんなところでダージを負って一人寝込んでいたのだろう。
記憶にかけた障壁がどこの誰のものか知らないが、それだけは礼を言っておこう。
「ん? 彼が目覚めたみたいだよ?」
所長が瞬を覗き込みながら声を上げた。
見れば、彼の目蓋は薄っすらと開いていて、そこから黒い瞳が戸惑ったようにゆらゆら動いていた。
「お目覚めかしら、色男の殺人鬼さん? 私の顔……覚えているわよね?」
瞬の瞳を見下ろしながら先生は不敵な笑みを浮かべる。
自分の足を撃った人間だ、本人からしたら忘れるはずがない。
「……だれ……だ?」
しかし、瞬の反応は予想に反して先生の顔を全く覚えていないようす。
あれ?っと先生も拍子抜けするが、考えてみれば今の先生は私の能力で一時的に女子高生モードになっている。本来のアラサー闇落ち大賢者喪女とは、ほぼ別人状態。
それじゃあわかるわけがない。
目覚めた瞬に状況を把握させやすくする為にも、ここは一つ、先生には元の妖怪に戻ってもらわねばならない。
瞬の姿を元に戻した代償で、私もかなり消耗しているが、先生を戻す程度の余力なら残っている。なら早速――――と先生の肩に触れようとしたら、
「ま、まぁ~~~~~~いいわっ!! 私の事なんてべつに覚えていようがいまいがど~~~~~~~~だっていいからぁっ!!!!」
と、瞬の頭をガッキリ掴んで彼を睨みつける。
と、同時に私に対しても『ヤダ』と、鬼のような目線を射抜いてくる。
「……あ~~まぁ……はい……」
その迫力に押されて引っ込む私。
先生はそのままに、瞬に尋問を開始した。
「いい? あなたにいくつか質問があるわ?」
「……質……問――――?」
目覚めたばかりでまだ、意識が朦朧としているのだろう。瞬は自分の置かれた状況を確認するわけでも無く、素直に先生のセリフに耳を貸す。
「一つ目は――――あなた、超能力者の事を知っている?」
「……なに、それ……映画かアニメの話……?」
「二つ目は――――人を殺した事は?」
「無い……けど……」
「最後の一つ、この娘を覚えている?」
と、先生は瞬の顔を私に向けた。
「……いや? 初めて見る顔だ……キミは誰だい?」
本当にわからないと言った顔で私を眺める瞬。
そんなはずはない。
私の顔は先生よりも知っているはずだ。
なぜなら、私は彼を何度も何度も殺して生き返らせて殺した。
私なら、そんな悪魔の顔を忘れるはずがない。
そしてさらにもう一つ。
「人を殺していないってどういうことですか?」
私は瞬に聞いた。
「……どうも、こうも……なぜ……僕がそんな事しなくちゃあ……いけないんだい」
「私があなたと出会ったとき、あなたは子供を殺そうとしてましたよね?」
「僕……が? 子供を……なにを言っているんだい……?」
しかし瞬は本当に何も覚えていないようすだ。
「これは……記憶喪失でしょうか? それとも一時的な混乱?」
「そんな風には見えないわね、どうかしら宝塚さん。彼の脳や精神は完全に回復しているのかしら?」
先生がもう一度確認してくる。
もちろんそのはずだ。
記憶にかけられた障壁以外は、すべて本来の形に戻っている。それが例え形の無い記憶や精神状態であったとしても。
現に今の彼は健康そのものの肉体と、極めて穏やかな精神状態を保っている。
それを皆に伝えると、
「ならそうね、これは本当に知らないという事なのかしらね」
呟き、さらさらと電子カルテに何やら書き込む先生。
「知らない? 知らないとはどういう事じゃ??」
「ベヒモス化していた間の記憶はそもそも無いって事かしらね?
彼は記憶が消された日以降に人殺しを初めたわ。でも、それを全て覚えていないとすると、そこから先は彼の意識は無かったと考えるのが自然ね」
「そ、そうか――――ベヒモス化すると精神はファントムに支配されてしまうわけだから、その間の意志や記憶は彼じゃなくてファントムのものって事になる……ですよね?」
菜々ちんが考え込みながら先生に確認した。
死ぬ子先生が私たちを睨んで窘めてくる。
私と百恵ちゃんは同時に『あんたにだけは説教されたくないわ』と思ったが、ここで喧嘩をしてもしょうがない。歯を鳴らして大人しくすることにした。
「どうですか死ぬ子先生、念写は出来そうですか?」
菜々ちんが先生に訊ねる。
先生は私に『どう』と目で確認してくが、私はそれに頭を掻くポーズで答えると、先生は一つため息を吐いて肩を竦めた。
「ま、一応ダメ元で確認してみるわ……」
と、スマホのレンズを瞬に向ける。
一見すれば、すっかり元の姿に戻っていて、臓器も脳味噌も完璧に復元されている。しかし肝心の、記憶にかけられた障壁だけは破ることは出来なかった。
先生がシャッターアイコンを押す。
無音で切られるシャッターとバチィッ!!っと瞬の身体から結界反応が現れるのとは同時だった。
「……やっぱりだめね、なにも写ってないわ」
見せてくる画面は言う通り、真っ暗だった。
結界が反応した時点でおおよその検討はついたが、やはり記憶の闇はそのまま残っているみたいだ。
「しかし、さっきのヒロインより結界の反応が緩いようじゃが?」
「……そりゃ、私の能力の出力が弱かったからよ。単純に反作用の原理ね」
百恵ちゃんの質問に死ぬ子先生は何を今更と言った感じで言葉を返すと、
「ん? ……てことは姉貴よりヒロインのほうが能力が強いって事なのか??」
その言葉に先生はムッとして。
「……あのねぇ、私だって本気を出せばあのくらいの出力は出せるのよ。でも、もし
弾かれたらそれと同じだけの衝撃が自分に跳ね返ってくるの。だから様子見の時は小出力で使うのは当然の事でしょ?」
ということは既に本気の念写はお試し済みって事なんだろう。
私たちが居ない間に、さっきの私みたいに返り討ちにあってふっ飛ばされたに違いない。ああ、だから最近、顔を見なかったのか……。
女将とのすったもんだの間、全然姿を見せないと思っていたら、こんなところでダージを負って一人寝込んでいたのだろう。
記憶にかけた障壁がどこの誰のものか知らないが、それだけは礼を言っておこう。
「ん? 彼が目覚めたみたいだよ?」
所長が瞬を覗き込みながら声を上げた。
見れば、彼の目蓋は薄っすらと開いていて、そこから黒い瞳が戸惑ったようにゆらゆら動いていた。
「お目覚めかしら、色男の殺人鬼さん? 私の顔……覚えているわよね?」
瞬の瞳を見下ろしながら先生は不敵な笑みを浮かべる。
自分の足を撃った人間だ、本人からしたら忘れるはずがない。
「……だれ……だ?」
しかし、瞬の反応は予想に反して先生の顔を全く覚えていないようす。
あれ?っと先生も拍子抜けするが、考えてみれば今の先生は私の能力で一時的に女子高生モードになっている。本来のアラサー闇落ち大賢者喪女とは、ほぼ別人状態。
それじゃあわかるわけがない。
目覚めた瞬に状況を把握させやすくする為にも、ここは一つ、先生には元の妖怪に戻ってもらわねばならない。
瞬の姿を元に戻した代償で、私もかなり消耗しているが、先生を戻す程度の余力なら残っている。なら早速――――と先生の肩に触れようとしたら、
「ま、まぁ~~~~~~いいわっ!! 私の事なんてべつに覚えていようがいまいがど~~~~~~~~だっていいからぁっ!!!!」
と、瞬の頭をガッキリ掴んで彼を睨みつける。
と、同時に私に対しても『ヤダ』と、鬼のような目線を射抜いてくる。
「……あ~~まぁ……はい……」
その迫力に押されて引っ込む私。
先生はそのままに、瞬に尋問を開始した。
「いい? あなたにいくつか質問があるわ?」
「……質……問――――?」
目覚めたばかりでまだ、意識が朦朧としているのだろう。瞬は自分の置かれた状況を確認するわけでも無く、素直に先生のセリフに耳を貸す。
「一つ目は――――あなた、超能力者の事を知っている?」
「……なに、それ……映画かアニメの話……?」
「二つ目は――――人を殺した事は?」
「無い……けど……」
「最後の一つ、この娘を覚えている?」
と、先生は瞬の顔を私に向けた。
「……いや? 初めて見る顔だ……キミは誰だい?」
本当にわからないと言った顔で私を眺める瞬。
そんなはずはない。
私の顔は先生よりも知っているはずだ。
なぜなら、私は彼を何度も何度も殺して生き返らせて殺した。
私なら、そんな悪魔の顔を忘れるはずがない。
そしてさらにもう一つ。
「人を殺していないってどういうことですか?」
私は瞬に聞いた。
「……どうも、こうも……なぜ……僕がそんな事しなくちゃあ……いけないんだい」
「私があなたと出会ったとき、あなたは子供を殺そうとしてましたよね?」
「僕……が? 子供を……なにを言っているんだい……?」
しかし瞬は本当に何も覚えていないようすだ。
「これは……記憶喪失でしょうか? それとも一時的な混乱?」
「そんな風には見えないわね、どうかしら宝塚さん。彼の脳や精神は完全に回復しているのかしら?」
先生がもう一度確認してくる。
もちろんそのはずだ。
記憶にかけられた障壁以外は、すべて本来の形に戻っている。それが例え形の無い記憶や精神状態であったとしても。
現に今の彼は健康そのものの肉体と、極めて穏やかな精神状態を保っている。
それを皆に伝えると、
「ならそうね、これは本当に知らないという事なのかしらね」
呟き、さらさらと電子カルテに何やら書き込む先生。
「知らない? 知らないとはどういう事じゃ??」
「ベヒモス化していた間の記憶はそもそも無いって事かしらね?
彼は記憶が消された日以降に人殺しを初めたわ。でも、それを全て覚えていないとすると、そこから先は彼の意識は無かったと考えるのが自然ね」
「そ、そうか――――ベヒモス化すると精神はファントムに支配されてしまうわけだから、その間の意志や記憶は彼じゃなくてファントムのものって事になる……ですよね?」
菜々ちんが考え込みながら先生に確認した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる