超能力者の私生活

盛り塩

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第119話 隠された記憶⑯

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「043番、おヌシはもう撤退せよ」

 百恵が負傷した部下に声を掛ける。
 三人の中では一番経験があり、頼りになる男だったが胸の傷は深く、これ以上の戦闘は困難と思われたからだ。

「……了解です。323番 426番、私に代わり隊長を守れ」

 彼も引き際はわきまえている。百恵の指示に食い下がることなく、後輩へと仕事を引き継ぐ。

「ふん、お前らに守ってもらうほど吾輩はないぞ」
 憎まれ口を叩く百恵だが、その顔は柔らかなものだった。

 043番も本気で百恵を守りきれるなんて思ってはいない。
 自分達も超能力者ではあるが所詮は下部組織JPASの弱能力者。
 上位組織JPAの訓練生エースと言われる百恵が負傷するような相手に出来る仕事などたかが知れている。

 しかしそれでも、意地でも守りきらなければならない理由があった。

 もし、百恵に何かあろうものなら黙ってはいない者が二人いたからだ。
 それは大西所長と、七瀬監視官。

 特に姉である七瀬監視官は恐ろしい。
 普段は気にかけていない風を装っているが、彼女は妹を人並みに心配し、その身を守ってやろうとしている事を043番は知っていた。
 なぜなら我々JPASの戦闘班を百恵の配下に付けたのは彼女だからだ。

 名目上は部下として。そかしその実態は護衛として。

 持って回ったやり方だが、そうでもしなけれは気位の高い百恵は素直に護衛など受け入れなかっただろう。
 そんな妹の性格を見越しての姉の処置だった。
 なのでもし、百恵に何か重大な怪我でも負わせようものならの制裁が降ってくるのは間違いない。

 それだけは何としてでも回避しなければならない。

 本当は這ってでも自分が護りたい所だが、しかしこの体ではかえって彼女を危険に晒しかねない。

「323番 426番――――本当に、本当に分かっているよなぁ??」

 眼力をマックスにして部下に念を押す。
 二人の部下もあの姉の変態っぷりは重々承知しているようで、

「命に変えても!!」

 と決死の誓いを立てる。
 そんな事情を知らない百恵が『何を大袈裟な』と三人を見て呆れていた。




 瞬を追って百恵、菜々、そして戦闘員の二人は通路を疾走している。
 追跡の途中、下りへの階段や、エレベーターは片っ端から爆破していった。

 理由は徐々に瞬の退路をなくすため。
 速度が上の獲物を狩る為の常套手段である。

 階下の一般病棟に逃げ込まれてパニックを誘発させられても厄介だ。
 その被害を考えれば、コンクリで出来た階段や、昇降機など安いものだろう。

「百恵さん、そこを左!! その先の階段がラストです!!」

 その先には屋上への階段があった。
 それを駆け上がる三人。
 上りきった所で――――、

「ガルーダ!!」

 と百恵は能力を発動させる。
 階段の天井部分――――建材の内部に圧縮空気の種が生まれ。

 グドムッ!!!
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!

 内側から破壊された天井が瓦礫となって階段を埋め尽くした。

「――――よし、これで全ての退路は断った。ヤツはもう袋のネズミ同然じゃな」

 額に薄っすらと汗を滲ませ百恵が鼻を鳴らす。
 瞬を追い詰めるために仕方がなかったとはいえ、破壊工作に能力を使いすぎた。

「百恵さん、大丈夫ですか」
 菜々が声を掛けてくるが、

「ふん。これしきどうという事はない。ヤツを塵に変えるくらいの精神力はまだ残っておるわ」

 退路を失くした瞬はこの先の屋上に逃げ込んでいるはずだ。
 やつがどういうつもりで暴れたのかは知らないが、所長だけは必ず返してもらう。
 そう闘志を燃やし、百恵は屋上へと駆け込もうとしたところで――――、

 ドンッガガパァンッ!!!!

 突き刺すような轟音を発して、いま埋めたばかりの瓦礫が吹き飛ばされ、そこに大穴があけられてしまった。

「――――な、に!??」

 踏みとどまり、振り返る四人。
 そこから現れた人物に彼女らは驚愕の瞳を向けた。




 点々と続く血痕を辿って私と死ぬ子先生は通路を走った。
 血の跡は段々と大きくなり、負傷者の傷の深さを想像させる。

「この血は……一体誰のもの――――」

 念視で追跡している先生なら、何かの情報は得ているかもしれないと聞いてみようとしたが、視界の先にその怪我の主が倒れているのが見えたので私は口をつぐむ。

「大丈夫ですか!??」

 大量の血を床に広がらせ、倒れている男に駆け寄る。
 入院患者用の寝間着を着ていたので思わず一般人かと思ってしまったが、脇に抱えるマシンガンを見て組織の人間だと理解する。

 年の頃は三十代半ば。
 ガッシリと鍛えられた肉体にそれに似合った屈強な顔つき。
 かなりの手練感は纏っていたが、その胸には熊にでも抉られたような深い傷が掘られていた。

 肉が捲れ上がって胸骨が見えてしまっている。

 出血も酷く、酸欠もあるのだろう、目の焦点が定まっていない。
 死ぬ子先生はスマホを通話に切り替え、連絡をする。

「私よ、負傷者一名。すぐ回収に来て頂戴。本人はこのまま放置していくから頼んだわよ」
 淡々とそう言って電話を切る。

「放置していくって……この人、かなり衰弱して――――」
「ここは病院よ、死にはしないわ。そんな事よりも先を急ぐわよ」
 そして男に声を掛けることもせずに先を急ごうとする。

「待って、私の能力ならすぐに治せるから!! 組織の人間なら良いでしょう使っても。――――ラミア!!」
 そうして回復能力を発動させようとしたが、

「――――ダメよ」

 しかしその行動は無情にも止められてしまった。
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