超能力者の私生活

盛り塩

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第120話 隠された記憶⑰

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「どうして!? ……このままじゃ、この人死んでしまうかもしれないのに!!」
 睨んでくる先生を逆に睨み返し、私は反抗する。

「言ったでしょ、死にはしないって。じきに救助も来るわ。
 それにこんな所であなたの能力を使ってしまう訳にはいかないのよ」

 今の状態では、あと一回で私の回復能力はほぼ弾切れなってしまう。
 精気を補充する算段がつかない以上は、無駄撃ちはせず温存しておけと先生は言いたいのだろう。

 それはわかる。
 わかるのだが……。

「それに、この男は見た目ほど重傷じゃないわ」
 先生が倒れている戦闘員さんを見下ろして言った。

「この男は戦闘員ナンバー043番……百恵の部下で、私の古い知り合い……昔、一緒に訓練を受けたことがあるのよ。能力は『体液調整』よ」

「体液調整??」

「そう、体内にある液中の成分をコントロールする能力ね」
「そ、それって……どういう!??」
「血中の成分を変えて酸素吸収力を高めたり、脳内麻薬を意識的に精製して集中力を常人の何倍にも研ぎ澄ませたり出来るわ」
「すごい!! ……て、それが今なんの関係が??」
「わからない? 今この男は自分の血液成分を変化させて、わざと仮死状態になっているのよ」

「へ?」

「出血を止めるため血液を凝固させているのね」

 見ると彼の傷の断面からは、砕けたゼリーのような血液がジワジワと滲み出していた。

「傷の深さと出血の量から、自分の足で帰還するよりもここで仮死状態になって救助を待つ方が生存率が高いと判断したのでしょうね。彼はこの手をよく使うのよ」

 死ぬ子先生がそう言うと、ほとんど意識が無いと思われた男の口角が少しだけ上がった。

「……見たでしょう? この男は大丈夫、このまま一日くらい放置していても大丈夫なんだから。さ、先を急ぐわよ」
 そう言って先を歩く死ぬ子先生。

 私はその戦闘員さんの顔をもう一度心配げに覗き込んだが、彼は人差し指をゆっくりと動かし先生の方を指差した。

 構わないから行け、と言うことなのだろう。
 私はそれを確認すると安心して先生の後を追った。

 後から聞いた話だとこの時、この人は別に仮死状態にまでなる必要はなかったらしい。すぐ目と鼻の先に医者と治療設備があるのだから当然だ。

 ではなぜこうしたかと言うと。

 百恵ちゃんの護衛を、負傷という不名誉で離脱したことを死ぬ子先生に咎められる事が怖かったからだという。
 先生は言っていた。昔一緒に訓練を受けたことのある知り合いだと。
 ならば、私なんかよりよほどあの妖怪に痛い目に合わされていることなのだろう。
 先生の声が聞こえて、半ば条件反射的に意識と身体をシャットダウンしたのだという。
 心配させられてしまったが、しかしそんな彼を責める事など、と~~~~ぜん私には出来ようはずも無かった。



「道が塞がれているわね」

 先生の言う通り、視線の先を見ると、上りの階段があったはずの場所には瓦礫が積もり、とても人が通れる状態じゃなかった。
 見上げると破壊された天井が確認出来る。

「百恵ね。……瞬を追い込む為とはいえ、相変わらず雑なやり方をする子ね」

 念写された画像を見ながら先生はボヤいた。
 雑なのは完全に姉譲りと言いたかったが、こんな所で漫才を始めるわけにもいかない。

「どうするんです? どこか他の道を探しますか?」
「いいえ、他の階段も全て破壊されてるわ。……どうにかしてここを突破するしかないようね」
 先生は頭を掻きつつ、困った風に言うが、

『きゅきゅきゅ~~~!!』
 それにラミアが張り切って反応した。

「あ――――、そうかなるほど」
 ラミアの提案を受けて私はポンと手を叩く。

「どうしたの? なにか良い方法でも――――て、青っ!!」

 先生が振り返って、私を見て仰け反る。
 全身に青い光を纏い、バチバチと音を鳴らしていたからだ。

「結界術です。これでこの瓦礫を破壊して突破しましょう」
 むんっ!! と、拳に力を込めて力こぶを作って見せる。

 この技の威力は旅館の掃除で実証済み。この程度の瓦礫を粉砕することなど造作もないはずだ。それに結界術は能力と違って精気を放出しないぶん燃費もわりと良い。
 一日中、とはいかないまでも一時間くらいなら作動させ続けることも可能なのだ。

「……あんた……いや、いいけどさ。……百恵が嫌うのもわからんでもないわ」

 不死に近い回復術と吸収能力の合わせ技に、防御と攻撃力を兼ね備えた結界術。

 この二つを、さしたる苦労も努力も無しに、あっさり授かってしまった私への嫉妬は、きっと百恵ちゃんでなくとも抱くだろう。
 しかし私はこの才能を悪用するつもりはない。
 仲間や組織のみんなの役に立つよう使っていくつもりだ。
 そんな私の甘くお人好しな性格を知っている先生は、そこまで私の才能を妬んでいるわけでは無さそうだった。

「――――では結界術、行きます!!」

 アチョーと言わんばかりに私は身構える。

 そして――――、

 ズドゴォォォォォォォォンッ!!!!

 突き出した私の拳は、行く手を塞いでいる大きな瓦礫を吹き飛ばし、塵へと変えてしまった。
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