超能力者の私生活

盛り塩

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第124話 隠された記憶㉑

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 ドムドムッドドドドッドドッドドドドドドドドドドドドドドドドドンッッ!!!!

 辺りに響き渡る爆発音。
 屋上全体がその衝撃に揺れ、私はよろめいて壁に手をついた。

「なっ!???」

 見上げれば宙に吹き飛ぶ空調機。
 大きな貯水タンクまで八の字に回転しながら舞っている。

 百恵ちゃんの能力――ガルーダの仕業だとはすぐにわかった。
 今まで見たこともないほどの威力に彼女の本気を感じたが、側にいる死ぬ子先生の顔色は青ざめていた。

「百恵~~~~!! あいつ瞬《モルモット》を殺したんじゃないでしょうねーーーーっ!!??」

 彼女の本気は、すなわち戦闘の熾烈さも表していたのだが、先生の言葉の中には妹が敗北するなどと心配するものは一つも入っていなかった。

「七瀬監視官!!」

 建物の影から飛び出してくる二つの影。
 百恵ちゃんの部下である323番と426番さんたちだ。
 背中には所長の姿もあった。

「所長の奪還に成功しました!! 隊長は引き続き敵ベヒモスを足止めしております!! 我らも至急援護に戻ります、所長をお願いいたします!!」

 若い426番さんがそう報告し、踵を返そうとするが、

 ――――いやいやいや。

 私と先生のツッコミが同時に入る。
 少し先輩だろう323番さんも一緒に首を振っていた。

「は!?」
 と426番さんが疑問の声を返すのと、

 ――――どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!

 と貯水タンクが落ちてくるのは同時だった。
 入っていた水が飛び散り、屋上全体に広がっていく。
 その光景を眺めながら肩を下げる426番さん。

「お前、無我夢中で気付かなかったのか? 
 ……あれが隊長の本気だ。もうヤツは跡形もなく吹き飛ばされてるだろうよ」

 323番さんが肩を叩き、彼を落ち着かせた。
 水が押し寄せ足を濡らしてくる。

「ふっふ……ふふ……」
 死ぬ子先生の方が唇がプルプル震える。

「ふざけんじゃないわよ~~~~~~~~っ!!!! わたわた、私の実験動物が~~~~~~~~っ!!!!!!!!」

 受け取った所長を濡れた地面にバチャリと落とし、頭を掻き毟る先生。
 とうとう実験動物と言い切ってしまった。
 そんな先生が私の手を掴み、奥へと連れて行こうとする。

「ちょ、ちょっと先生!! なにするんですっ!???」
「決まってるでしょう!! 瞬を治させるのよ、今ならまだ死んでないかもしれない!! 脳味噌さえ生きていればきっとあなたの能力で回復できるわっ!!!!」

 そう言ってグイグイ私を引っ張っていこうとする先生。
 た、確かにそうかも知れないが……生き返らせたところで、待っているのはこのサイコパス先生の元での実験動物生活なのだ。それを考えるとどうにも気の毒になってくるが……。

 だが、隠された記憶や、その仕掛けを作った黒幕の正体も探らなければならない。
 ここは私も先生に協力して瞬を回復させるのが正解だろう。
 人道的なことは後からどうにかすればいいのだ。

 ――――しかし、

「待って下さいっ!!」
 そんな私たちに菜々ちんが待ったをかける。

「んな、ど、どうしたの菜々ちん」
 振り返って彼女をみると、その顔は険しく曇っている。

「瞬の……ベヒモスの様子がおかしいです!!」
 能力を使って全ての状況を把握している菜々ちんがそう報告してきた。

「様子? 何が起こったって言うの??」

 死ぬ子先生が聞き返すが、菜々ちんは目を見開いて立ち尽くしている。
 そして震える唇で一言、言葉を絞り出す。

「――――逃げて……」

 それは私たちに向けられた警告ではない。
 機器に遮られて見えない仲間への、百恵ちゃんへの警報だった。

「百恵さん逃げてーーーーーーーーっ!!!!」

 彼女が叫ぶのと、向こうの空に赤い血飛沫が打ち上げられるのは同時だった。




 油断していたつもりじゃなかった。
 訓練された自分が、相手の死も確認せずに背中を向けるなど本来はありえない。

 今回もそうだ。

 身体は引きちぎれ、割れた頭に背骨が未練がましく繋がっているだけ。
 そんな男が生きているなどと誰が思うか?
 これは油断じゃない。

 イレギュラーだ。

 自分の首から吹き出す、噴水のような赤を見ながら百恵は言い訳をした。
 胴体から離れた頭はゆっくりと宙を舞って景色を回転させる。
 これが自分の見る最後の光景か、などど百恵は思考する。

 痛みはない。
 そんなレベルの傷ではないと脳が判断したのだろう。

 しかし彼女の心は酷く傷んでいた。
 最後に見る人物が、両親でも姉でもオジサマでもなく――――、
 ニチャァ……と裂けた口で笑う、このベヒモスばけものだった事に。

 急激に暗くなってくる意識の中で、百恵は自分が涙している事を感じ、それが切っ掛けとなって現世への未練が一気に湧き上がってくるが、もはやそれに怯える時間すら彼女には残っていなかった。

 そして――――全てが黒に包まれた。
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