超能力者の私生活

盛り塩

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第127話 隠された記憶㉔

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 結界術を纏わせた弾丸? そんな事が……出来るのか。

 凄さに見とれ、口を開けっぴろげてしまう私。
 確かに女将はホウキに結界を纏わせていたし、それは私(ラミア)もすることは出来る。
 しかし体から離れて飛んでしまう弾丸に、それを纏わせ維持するのは、また違った技術なんじゃないかと、私は直感で感じる。

 言う通り、先生も伊達ではなかったのだ。

 傷つき、それでも妹を庇い、卓越した戦闘術で化け物に一人相対する先生は、間違いなく尊敬に値する格好良さを見せてくれていた。
 しかし。瞬の暴走はまだ終わったわけでは無かった。
 地面に這いつくばって呻く瞬に、トドメを刺すべく銃口を向ける先生。

「……殺すのは……もったいないけどね……でも、最低限の情報は頂いたわ……後は仲間の命のほうが大事よ……」
 ボタボタと血を流し、苦しそうに喋る先生。彼女の体力も限界に近そうだ。

 ガンガンガンッ!!!!

 そして火を吹く銃口。
 青く光る結界弾が瞬の身体を穿つ――――かと思われたが、

 ――――シュッ!!!!
 着弾するよりも一瞬早く瞬の身体が浮き上がった!!

「なに!? ――――こいつまだ動くっ!??」
 驚愕する先生。
 弾丸は躱され地面のコンクリートに深くめり込む。

 ――――レビテーション!?

 しまった瞬にはこれがあった!!
 ベヒモス化により本来よりも遥かに強い力を引き出させることが出来る瞬は、自分の体を瞬時に浮かせて空中に静止した。

 ガンガンガンッ!!!!
 間髪入れずに先生が結界弾を放つが、瞬はそれを稲妻のように機敏な動きでことごとく躱した。

「――――くっ!!」
 そして先生の胸元に着地すると、下から突き上げるように刃の触手を斬り上げる。

 バギィィィィンッ!!!!
 咄嗟に出した結界の盾で何とか防ぎはしたが、その一撃で盾は砕かれ先生は吹き飛ばされる。

 ――――ダンッ!!!!
 機械の壁に激しく身を打ち付けられる先生。

 頭を切ったか、額から血が流れ落ちた。
 それでも何とか体を回転させ起き上がると、膝を付いた体勢で銃を構えなおす。
 しかし瞬は再び空中へと飛び上がると、

「……ぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぉっ!!!!」
 と大きな唸り声を上げた。
 すると――――、

 メキ……メキメキ……!!

 湿った音を鳴らして骨の触手が急激に成長していく。
 そしてそれはやがて人の形を作り、頭部を包んでいく。
 出来上がったのは一体の人形骸骨――――スケルトン。

『――――なっ!?』

 私と先生が同時に驚きの声を上げる。
 ベヒモスとは、ここまでの変化をしてしまう化け物だったのだろうか?
 先生の表情を見ると、やはりこれは例外中の例外だとわかった。
 瞬が地面に着地する。

 ――――ダンッ!!
 と地を蹴り先生に迫る!!

 ガンガンガンッ!!!!
 結界弾で迎え撃つ先生だが、

 ――――ギンギンギンッ!!!!
 青い火花を散らし、瞬の骨格に弾かれた!!

「なっ!???」

 人形に変化したその骨は普通の強度ではなかった。
 まるで先生の結界弾の威力を学習し、それに対抗するべく強化したかのように堅く進化していた。
 一気に間合いを詰めた瞬は拳を固め、先生に襲いかかった。
 結界の盾を作り出し防御を固める先生だが、

 バキィッ!!!!
 あっさりと盾は貫かれ、拳が先生の顔を砕いた!!

「――――がふっ!!!!」
 鼻と顎の骨が砕かれ、吹き飛ばされる先生。

 壁に跳ね返り転がる。
 そこを、

 ――――ドゴンッ!!!!
 と、蹴りで追い打ちをかけられる。

「ぐふぉっ!!!!」
 先生の口から血が吹き出る。内臓が破壊された証だ。
 ショックで意識が飛び、体の力が抜ける先生。
 しかし瞬の攻撃はまだ続く。

 バキ、ドカ、ゴス、グシャッ!!!!
 先生を持ち上げ、胸ぐらを掴んだまま三発、四発と拳を振り下ろすスケルトン。

 やがて捨てられたサンドバックのようにボロボロになった先生は、壁に投げ捨てられ地面へと転がった。
 じわぁ……と広がる黒い血に、私の怒りはとうに頂点を越えていた。

 瞬はそんな先生に近づきトドメを刺すべく拳を刃に変える。
 そこに――――、

「やめなさいっ!!!!」
 菜々ちんが現れ、

 ガンガンガンガンッ!!!!
 と拳銃を放つが、

 ギンギンギンギン!!!!
 といまさらタダの銃弾が効くはずも無い。

 そんな雑魚には用は無い、とばかりに彼女を無視した瞬は先生に向かって刃を振り上げた。

「やめてーーーーっ!!!!」
 菜々ちんの悲鳴が響くが、瞬の刃は無情に振り下ろされた。

 ズドムッ!!!!
 鈍い音が響く。

 それは刃が肉を断ち切る音とは違う。
 何かが――――瞬の腕の刃が爆発した音だった。
「……吾輩は、どうやらとてつもなく大きい借りを作ってしまったようじゃの?」

 ゆらりと腕から離れる彼女。
 私はすでに精気が尽き果て、涙を拭うことすら出来ない。

「……吾輩が死んでいる間に、随分とひょうきんな姿になったものじゃのう」
 瞬を睨みつけ、皮肉をあびせる。
 それはラミアの回復術で全快し、裸で地に立つ百恵ちゃんの姿だった。

 良かった……百恵ちゃん……良かった良かった良かった良かった良かった良かった良かった良かった良かった良かった良かった良かった良かった良かった!!!!

 私は何度も心の中で良かったを繰り返す。

 届いた……生き返ってくれた……ううん、彼女は死んではいなかった。
 ギリギリで、本当にギリギリで死の淵にとどまってくれていた。それをラミアが全力で引き戻してくれたのだ。

 代わりに私は精気が枯れ果て瀕死の状態だけども、そんな事はどうでもいい。

「吾輩はもう何も容赦をするつもりは無いからな……覚悟を決めるが良い化け物よ」

 自分の盾となり倒れた姉を見つめ、百恵ちゃんは氷よりも冷たくなった目を瞬に向けた。
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